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#040


 例によって『浮遊』『突風』の組み合わせによる飛行術で、わたしは関門上空を通り過ぎ、その内側の地面に、しゅたっ、と飛び降りた。

 内側から見ても、やっぱり大層ご立派な門と壁。たとえアースジャイアントが複数取り付いても、小揺るぎもしないだろうほどの堅牢っぷりだ。物凄いおカネかかってそう……。

 振り返れば、門前広場。ロータリー状の石畳の道路と、芝生の広場が組み合わさり、整備が行き届いた空間になっている。

 ゲームだと、昼間は馬車の出入りチェック待ちとかで、かなり賑わっていた場所だ。芝生の広場には、軽食の屋台もぽつぽつ出ていた。

 いまは夜中だから、広場に人影も馬車の姿もない。街はすっかり寝静まっている。

 ただ門の傍らに立つ高い櫓の下にだけは、篝火が焚かれていて、そばにうずくまっている人影もあった。交代で門の外の見張りをしてる人たちだろうな。お疲れ様。

 さて……門前広場からは、広い大通りが、まっすぐ街の中心部へと伸びている。わたしの記憶通りならば、ちょど政庁の北門に突き当たるはずだ。

 しばし、てくてくと、大通りのど真ん中を、お散歩してみた。見渡す限り、道路も建物も、頑丈そうな石造り。

 王国内でいえば、この地方って、アルカポーネ領のお隣りだけあって、かなり僻地の部類なのだけど。そうは思えないほどしっかりした都市だ。リュカとは全然違うなあ。

 ただ、どっちが好きかと問われれば、見慣れたリュカの町並みのほうが、やっぱり好きかな。

 田舎だけど、ほんわか、のんびりとしてて、いいところだよ。リュカは。

 そんなことを考えながら……てってってっ、と大通りを進んでいると、いつしか、政庁の門構えが視界に入ってきた。おお、ゲームで見たのと、まったく同じだ。

 ゲームだと、あの門の前に、ルナちゃん一味と冒険者の人たちが集められて、冒険者組合の支部長から、盗賊殲滅作戦の詳しい説明を受ける。

 このとき、ルナちゃんたちの近くで会話してる二人組が、かの美少女魔法使い「三角帽子の魔法令嬢」と鈍感系イケメン「光輝の聖剣士」の凸凹コンビ。

 たしか、その会話の内容というのが……。

「なあ、ホントにやるのか? オレはあんまり気乗りしないんだが」

「今更、なにを言ってますの? 今度こそ、テッテー的にぶっ潰すと決めたではありませんか」

「そうなんだけど、皆殺しってのは、さすがにさぁ」

「悪党は人にあらず、モンスターの一種! ワタクシがそう決めたのですわ! 全部ぶち殺してよし、ですわ!」

「頼むから、味方を巻き込むなよ? いきなりドラブレぶっ放すのはナシだからな?」

「保証はできませんわ。盗賊見たら即全力ぶっぱ、というのがワタクシのルールでしてよ?」

「初耳だぞそんなルール!」

「いま決めたのですわ。はい、けってーい! ですわ!」

 ……とか、なんとも物騒な話をしていた。

 ドラブレというのはドラゴンブレイク……『竜破撃』という無属性攻撃魔法で『獄炎』に匹敵する威力と攻撃範囲を誇る、とされている。ルナちゃんはそんな魔法は習得できないし、うちの魔術書にも載ってなかったから、いま思えば、彼女のオリジナル魔法なのかもしれない。

 二人組は、盗賊殲滅作戦の成功後、組合内の酒場で打ち上げに参加している姿が見られる。作戦開幕ドラブレ一発で盗賊の砦をひとつ丸ごと粉砕したとか、「光輝の聖剣」は人を斬れないという特殊な属性の武器で、イケメン聖剣士は、やむなく素手で盗賊をぶん殴って回ってたとか、そんな武勇談を、支部長を通して間接的に聞くことができる。

 二人組の出番はここまで。ルナちゃん一味と直接会話するシーンは一切ない。

 だけど、キャラデザインの完成度が無駄に高くて、掛け合いも面白い。なにより二人、実は超ラヴラヴだったりする。局地的ゲストで終わらせるには惜しいくらい、面白くて尊いコンビだったのだ。そりゃ二次創作もたくさん作られますって。

 なお、二人組の本名は不明。ゲーム内どころか、後に発売された設定資料などにも、名前の記載はなかった。

 ……もし彼らが、この世界に実在しているのなら。

 十年後に、会えるといいな。

 本当にそうなったら、なっちゃたら、ひょっとしたら、ゲームでは謎だったお二人の本名が聞けちゃったりなんかしちゃったりなんかして?

 でもって、ドラブレ、わたしにも教えてほしいなぁ。絶対強いだろうから。






 幸せな妄想ひとしきり。

 わたしはもうアミアの政庁の門前まで辿りついていた。

 ゲームで見たのとまったく同じデザインの、ごつい鉄格子の門扉を備えた、立派な石門だ。

 夜中なので、さすがに門は閉ざされて、槍を持った守衛が左右に佇んでいた。

 この政庁の敷地内に、現領主の居館も併設されてて、そこにキシール・ガルベス子爵とそのご家族が住んでるはずだ。

 今の時点で、とくに彼らに用事はない。

 ガルベス子爵家はゲームでは第四王子アレクシスの支持派閥の末席に連なっており、ルードビッヒとポーラに危害を加えるような立場ではなかった。というか、フレイア王国内での政治的影響力は無に等しく、その意味では、放っておいても、なんの問題もない人たちだ。

 政庁の四囲には、高い塀が巡らされており、それに沿って、広めの馬車道と緑地が整備されている。政庁の敷地を迂回して、南北に往来できるようになってるわけね。

 わたしは政庁の門をスルーして、道なり、時計回りに、ぐるーりと迂回し、アミア市街の南側へと、てけてけ駆け続けた。

 わたしがさっきまで走っていた市街北側は、おもに住宅地。これから向かう南側には繁華街があり、冒険者組合の支部もそこにあったはず。

 また、いつぞやみたいに、開いてる飲み屋とかコッソリのぞいて、情報収集してみようかな。

 ついでに組合のほうにも寄ってみたい。やっぱりゲームと同じ建物なのかな?

 それも、もうすぐ、この目で実際に確かめられる。楽しみだなー。





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