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#027


 マルボレギアが消え去り、遺された召喚石を拾い上げようと、その場にしゃがんだ。

 そのとき。

 不意に、わたしの肌が発光し、いきなり全身に力がみなぎりはじめた。

 あ。これ、レベルアップだ。それも、一気にとんでもなく上がっていってる。

 マルボレギアを倒したからかな? 今までと比べ物にならないほど、急激に魔力が高まっていくのが、自分でもわかる。

 今回はこれまでと異なり、魔力だけじゃなくて、肉体的にも多少、能力向上してるっぽい。

 あのトカゲ、ほんとに強かったからなー。そのぶん見返りも大きいってことだろうか。

 で、大幅レベルアップは嬉しいけど、まだ問題が残ってる。

 マルボレギアの遺物、召喚石。

 これの処分について考えなければ。

 みたところ、とてつもなく膨大な量の魔力が封入されている。マルボレギア自身の魔力なのか、それとも、どこか外部から集めたものなのか、それはわからない。

 けど、これほどの魔力となると、一朝一夕では集まらないはず。おそらく相当な時間を掛けて、完成させたものだろう。

 これが発動すれば、さぞや大きなゲートが開くと思われる。そこから、どんなモンスターが飛び出てくるやら、想像もつかない。それこそ、魔王とかが来てもおかしくない。

 試しに『鑑定』してみると。

 晶石の表面に刻まれた制御術式に、先日見かけたものとは別の術式が追記されていた。

 もともと、ある特殊な薬品を用いて任意で発動させる術式だけど、それに加えて、特定の時間経過によって自動発動する設定が、書き加えられている。ええと、残り時間……およそ二十二時間。

 つまり放置しようと埋めようと、二十二時間後には、勝手に召喚石が発動し、確実にモンスターが涌き出てくる仕様だと。

 前回の召喚石より、一段と悪質ぶりに磨きがかかっている。下手をすれば市街地のど真ん中にモンスターが現れかねない。

 ……そうか。ゲームの「ぐらきゅん☆ルート」で、学園内にいきなりレッドワイバーンが現れたのって、こういうカラクリか。

 ますます、これを放置しておくわけにはいかなくなった。

 どうしたものか。

(ねえ。それ、いらないの?)

 いきなり、どこからか声が聴こえた。

 物理的な声じゃない。わたしの頭の中に、直接、話しかけてるみたいだ。テレパシーとか?

(いらないなら、あたしにちょうだい)

 え。

 ちょうだいって、この物騒な魔力の塊を?

 ていうか、どこのどなたですか? 勝手にわたしの脳味噌に話しかけてくるのは!

(あたし、ずーっと、暗いところに閉じ込められて、縛られてたの。でもね、あなたが、あの悪いやつをやっつけてくれたから、あたしを縛ってた力が消えて、おはなし、できるようになったんだよ)

 女の子の声みたいだ。それも、今のわたしよりちょっと年上くらい? なんにせよ、子供っぽい雰囲気。

 声には出さずとも、わたしの思考が直接、相手に届いているらしい。

 でもって、悪いやつって、マルボレギアのことかな? なんせ悪魔だし。

 もしかして、マルボレギアを倒したことで、なにやら超常的存在の封印がどこかで解けて、会話できるようになった……とか、そんな不思議現象が?

(たぶん、そうだよ)

 あっさり肯定された。

 ……それで。いったい何者なんですか、あなた。

(わかんない)

 は?

(でもね、あたしが今いるところは、わかるよ)

 え、それは、ご自分のお名前はわからないけど、お住まいはわかっておられる、とか、そういうことで?

(うん。それであってる。ねえ、会いにきて)

 はあ、会うのはかまいませんけどー、どちらにお住まいで?

(えーっとね。穴のなか。それの、いっちばーん奥のね、真っ暗なとこ)

 穴? と申しますと?

(んーっとぉ。あっ、そうだ! みんなはね、ここ、だんじょん、って呼んでるよ!)

 だんじょん……。

 ダンジョンですかっ?

 しかも、よりによって、一番奥?

 あー。いや、ダンジョンねえ。

 マルボレギアを倒して大幅レベルアップした今のわたしなら、能力的に、行けないことはないかもしれないけど。

 でもダンジョンに入るとなると、準備もいるだろうし、とくに内部の情報というものがないと、色々とこう……。

(あたしが、案内するよー! だから会いにきてっ! それで、そのキラキラ、あたしにちょうだい!)

 案内。つまり音声ナビゲート付きってことですか。

 それなら、初めてのダンジョン攻略も、なんとかなる……かな?






 その「声」は、やけに無邪気で、人懐こくて。

 なんとなく、抗えないものを感じた。

 ほら、年下のかわいい子が、きらきら澄んだ目で「おねだり」してきたら、ちょっと突き放せないよね?

 それと同じ。

 結局わたしは、そのかわいい「声」に導かれるまま、ダンジョンへ踏み入ることを決めた。

 草原から、ハイハットの北山の中腹にあるダンジョン入口まで、例の召喚石を手に、山道を駈けること約三十分。

 その間、「声」の子と、少し対話してみた。

(むかーし、むかーしに、ね。すっごく悪いやつが、どこか知らないところから、あたしのおうちに入ってきてね。あたしをさらって、ここに閉じ込めて、固いヒモでわたしをぎゅって縛って、置いてったの)

 うわー。思いっきり、誘拐じゃないですかそれ。引くわー。しかもその後、縛って、放置とか。変態ですかっ。

 で、それをやった変態誘拐犯が、マルボレギアだったと?

(たぶん、そうだよ)

 でもって、その変態誘拐トカゲのマルボレギアをわたしが倒したら、拘束が解けた、と……。

(うん。ついさっき、あのすっごく悪いやつのチカラを、感じなくなってね。あたしを縛ってたヒモも、スーッと消えちゃって。それで、ちょっとだけ、あたしのチカラが戻ったから、お外を見てみたら、あなたと、そのキラキラが見えたの)

 ほんとに、何者なんだろう、彼女。

 マルボレギアと因縁があるってことは、悪魔と敵対する側ってことになるんだろうけど。神様とか天使とか?

 でも、ゲームの「ロマ星」にそんな勢力や個人が登場した記憶はない。

 ともあれ、ここまできたら、もう流れに任せて、会ってみるしかないか。

 視界のうち、彼方の岸壁に、ぽっかり開いた横穴……ダンジョンの入口が見えてきていた。

 さあ、生まれて初めてのダンジョン攻略、いってみよう。


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