風に揺れる金糸の髪と蒼穹のように澄んだ瞳。窓辺に座る君は何時見ても美しい。
野花を思わせる素朴な眼差し、薄い花弁のような桜色の唇、薄い身体の中に宿る燃える心。黄金を幾ら積もうとも君の心は決して私に靡くことは無いだろう。いや、そもそも君は私の事など一切覚えていないだろうし、一度手を握った事も忘れているに違いない。だが、私はその一度きりの温もりを忘れたことは無い。忘れられる筈が無い。
一年、二年、三年と……。健やかに育つ君の姿をこうして眺めているだけで幸せなのだ。この鋼の手が君の命を守り、心を救えるのならば命など惜しくはない。一つしか存在しない魂を捧げても構わない。だから、君は君のままで居て欲しい。汚される事無く、悲しみに濡れる事も無く、生きていて欲しい。
手紙をしたため、文字を奔らせる。言えぬ言葉を綴り、本心を曝け出す事が出来ない私を赦して欲しい。恐ろしいのだ、私を見る者の眼が。彼等の心が吐き出す不平不満の声が、君の耳に届くことを恐れている。私よりも年下の君に恋慕を抱く事は異常だ。いや、私のような醜い男が可憐な君を好いている事実さえ悍ましいと思ってしまう。故に、この手紙は君へ届けず私だけが知っている秘密の隠し場所へ仕舞っておく。私の心のように、見えぬ場所へ、ずっと。
もし……自分勝手な世迷言をのたばう事が許されるのなら、来世では君の隣に立つに相応しい男になりたいと願う。君へ美しいと囁き、愛を語れる勇気と度量があったらと思わずにいられないのだ。この矮小な心は、木偶の図体に似合わぬ羽虫のような脆弱さ。一度君の声を聞き、玉のような声色を耳にしたらと思うと筆が震えて文字を綴れなくなってしまう程。だから―――次はきっと、君の隣に立てる男になると誓う。
これは自分事、君が居ない場で話す世間話であるのだが、病床に伏せる母へ重要な任に就いたことを報告した。母は大層喜び、鳶が鷹を産んだと大はしゃぎしていたよ。図体ばかりがデカく、鉄面皮が取柄……失敬、感情表現が乏しい悪癖を持つ私の特技が上手く生きた事で、少し……半歩だけ君の傍に近づくことが出来た。報告したい相手が前に居らず、君の父上にはもっと喜んでいいと言われたが私だって内心飛び跳ねる程喜んでいたのだ。そして、君は私の様子を見て少しだけ笑っていたことも、覚えている。
どうか……健やかに、幸せな人生を歩んで欲しいと願わずにいられない。もし君へ降り掛かる戦火が心を燃やそうとするのならば、その火の粉を振り払ってみせよう。もし君が悲しみ、涙で濡れているならばその清い一滴を拭える努力を重ねよう。だから、何故窓の向こう側を眺めているのか教えて欲しい。君の眼が、蒼い瞳が何を見ているのか、私も同じ光景を見てみたいのだ。叶わぬ願い……臆病者の自分勝手な我が儘だと重々承知の上なのも理解している。君の眼に、君が見つめる未来には、何が映っているのか、臆病な私に聞かせてくれ。
君は誰よりも美しいから……。