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第17.5話 一方その頃……

「アアぁア、ア、ア、アザレアちゃんっ!!たた、たいふほんですぅ!!しっ、新聞ん゛っ」



「うん、まずは落ち着くのニャ。話はそれからニャ♪」




ケモ耳をピクピクと動かし、盗賊枠担当アザレアは興奮気味なガーベラを宥めた。

西大陸と違い、長閑な山岳地の街ではアザレアのような獣人は珍しくもない……が、お転婆なガーベラが騒げば、当然人目を引く。

街の人々は何事かとアザレアたちに注目し始めていた。

アザレアにとっては少々……否、かなり居心地が悪い。



「とりあえず場所を変えるニャ!ガーベラちゃん、こっちニャ♪」



「う、うんっ!わかったぁ!」



アザレアは街中を歩き、ある宿の一室へと入る。

そこは格安のボロい宿で、部屋も狭いがベッドだけは大きいという不思議な空間だ。

あの人が見たら「ベッドだけ大きいなんて、まるで連れ込み宿じゃないか!」と、笑いそうだが、その妹だったら「恐らく盗撮目的でしょう……悪質な輩がいます。まったく、困り者ですね。殴り込みに行きましょう」と、真顔で言いそうな部屋だった。

因みに盗撮の類はない。

盗賊のアザレアが確認したのだから間違いことだ。

ガーベラはベッドに腰を下ろし、アザレアはその膝の上に座る。

ムチムチの太ももは実に座り心地が良い。



「それで、何を読んでたニャ?もしかしてスキャンダル記事かニャ?廻聖教会の教皇が鉄騎帝国の女帝陛下に逢引きしてたかニャ?」



「う、うぅん!違うよ?!異端審問官さんに聞かれたら投獄されちゃうからヤメて!!!そうじゃなくて、なんて説明したらいいのやら……とにかく、これ読んでくださいぃ!!」





「ニャニャ〜ン……??どれどれ……」




アザレアはガーベラから受け取った新聞の見出しを読み上げてみる。



「『帝国に大打撃!武器工場壊滅!!!西大陸の銀色勇者、帝国を完全征服か?!!』……ニャニャッ?!」



記事を読み進めたアザレアは思わず我が耳を疑った。

番傘少女……茜色の勇者・リコリスの襲撃から目覚めた後、アザレア達の仕えるべき銀色勇者は忽然と姿を消したまま行方が分からなくなっていた。

当初の任務を中断し、西大陸……南の砂漠大国、中央諸国等々、様々な駆け巡り、ようやく銀色勇者が北方帝国にいるらしいことを突き止めた。


しかし……その矢先にこの記事だ。



「武器工場って何の話ニャ?!帝国にはそんな物騒なシロモノがあったのニャ???」



「う、うん……新聞を読む限りだと、それで間違いないと思う……しかも下層民?ってランク付けされた人を無理やり幽閉して、何十時間も働かせていたって……」



「うにゃぁ……なんだかムゴい話だニャ。そんなに働いてたらお昼寝できないのニャん……ヒトは最低12時間眠るのが一番健康的ニャ!」



それは寝すぎだと思う……のだが、ガーベラはいったん置いておくことにした。

今は『銀色勇者の所在』と『武器工場壊滅』の事件の方が重要だ。



「勇者さんも……そこで一緒にムリヤリ働かせられてたのかな?番傘の人の目的はこれ……?」



「だとしたら意味不明ニャ……!なんで勇者サマを工場で働かせるニャ?新手の拷問かニャ?!!勇者サマを過労死させるのが目的ニャ???」



「そ、それは分かんないけど……でも、勇者さんが北方領土にいることは間違いないハズ!工場の炎上は昨日のことらしいし、きっと帝国に保護されて―――――――……」




「いいえ。勇者ミズキはもう北方領土にはいない……。既に帝国を出ているらしいですわ」



「マリーさん!と、……?」



「誰ニャ……?魔人のお客サマなんて珍しいニャ……しかもマリーちゃんが連れてくるなんて……」




買い出しに出ていた魔法使い枠担当、マリーゴールドが褐色の肌の男を連れて戻ってきた。

剣呑な雰囲気で、少なくとも街で意気投合したから連れてきた……というワケではなさそうだ。

何より、男の金色に光る瞳はどうにも感情というモノを感じない。

まるで、そう……機械のような瞳だ。

アザレアは警戒モードに入る。



「連れて来たワケではありません。勝手に着いて来ただけですわ!」



「元いた場所に帰してくるのニャ!!!」



「そんな、捨て猫じゃないんだから……」



「アザレアちゃんはキュートキャットなのニャ!!!」




「そんな話してないからっ!!」




ツッコミ担当枠の叫びを他所に、魔人の男は淡々とした口調で口を開いた。



「お初にお目にかかります、勇者パーティーの皆様。わたくし、シグナルと申します。貴方がたが抹殺対象にしている”彩喰・オリオン様”の忠実な下僕です」



シン……と、室内が静まり返る。

しかし、それも一瞬のこと……。

アザレアはマリーゴールドに目配せし、マリーゴールドは「はぁ……」と深い溜め息を吐く。



「それで?魔王軍幹部の使いっ走りは一体全体何用なんですの?」



「……」



「また、無口。街の中でも思いましたが、話しかけた方が口を開かなくなるの、やめてもらいませんこと?ぶっ殺されたいというのなら今すぐにでもお相手してあげますわ……!人が混み合っている街の中でなければ、思いっ切り閃光魔法を放てる!!」



マリーゴールドが苛立った口調で魔人へ大杖を向ける。

アザレアも短剣を鞘から抜き、臨戦態勢に入った。



「銀色勇者は北方領土を発ちました……」 



「ニャ?それはさっき聞いたニャ。なんかさっきから微妙に会話が噛み合わないニャ……」



「えぇ。この方はずっとこの調子……。おちょくられているのかしら?」



「いいえ。どうせ忘れるでしょうから、無駄な会話に口を開きたくないだけです。貴方達はこれを受け取るだけでいい。わたくしの役目はそれだけなのですから……」



シグナルは懐から便箋が3通入った封筒を取り出し、それぞれに手渡した。



「こ、これ……っ!まさか勇者さんからのラブレター?!」



「違いますわ」



「違うのニャ!」



「……その便箋は”招待状”です。銀色勇者は既に東領域へ発ちました。いまお渡した”招待状”と同じモノを持ってね……」  



「招待状……?!勇者さんは、いま東領域にいるんですか……?ええっと」



ガーベラの視界から、魔人の姿が消えた……。

慌てて辺りを見回すが、やはり魔人の姿はどこにもない。



「あれ?あの魔人さんはどこに……」



「魔人?ガーベラ様は何をおっしゃっているの?」



「だから!えっと、えっと……マリーさんが連れてきた……ヒト?」



「何言ってるのニャ!マリーちゃんは誰も連れてきてないニャ!!」



「え……?そう、だっけ……???」



ガーベラの心臓が大きく跳ねる。

……なんだか、会話に妙な齟齬を感じるのだ。

確かにマリーゴールドは買い出しに出ていた。

そして戻ってきた時に誰かが……いた、ような?

でも思い出せない。




本の一部ページを破り捨てられたかのような違和感がガーベラを襲う。




「気のせい……だったのかなぁ?おかしいな、確かに……」



「うにゅぅ……?なんか気持ち悪いニャ!マリーちゃん!お茶とお菓子が欲しいのニャ!」



「はいはい……今お持ちしますわ。しかしオリオンからの招待状っていうのはどういうことですの?わたくし達はいつの間にこんなモノを……」



確かに、手には一通の手紙が握られていた。

こんな手紙、いつ貰ったのだろう?

マリーが紅茶とクッキーが乗った皿をテーブルに並べ、アザレアが便箋の封を切った。

ガーベラは紅茶を一口飲み、喉を潤す……しかし一向に動悸が収まらない。

誰かに、何かをされたのだ。

しかしそれが何なのかがまったく分からない。




「うにゅっ……うぅん??これ……って?!!!」




ガーベラは便箋の中身を見る。

差出人不明の手紙……そこには”オリオンゲーム実施中”という文字と、一枚の写真。


魔王の片腕が、”一等景品”として写し出されていた……!



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