「あ〜、あ〜、こちら”銀色勇者”。皆さん、聞こえ――――」
『にゃあああああああああああ!!!いま敵に追いかけ回されてるのにゃっ!!探索失敗!!!アザレアちゃん大ピンチなのにゃあ!!!』
『わたくし、天才大魔法使いマリーゴールドも大ピンチですわ!!緊急事態ですわ!!倉庫で美味しそうなケーキの香りを探知したので、頂きに参上いたしましたの。そして食べてみたら腹痛!!なんて狡猾な罠!トイレはどこですの!!だれかっ!だれか助けてくださいまし!!!』
「……。」
私が開発した連絡用の魔導道具、”思念の鏡”に写る切羽詰まった顔と喧しい音声に私は思わずこめかみを抑えた。
あいも変わらず愉快な方々だ……特に頭の出来が。
これじゃあ私が囮になって賊共の注意を引いている内に二人が隠密で拐われた方々を捜索するって作戦、まったく意味を成さないじゃないですか。
まぁ一応、賊を率いている船長の所在地は突き止めましたし、直接殴り込むのもやぶさかではないですが……。
「ふぅ……。とりあえず定時報告です。今しがた人質になっていた新米冒険者さんを保護しました。怪我をしているワケではなさそうですが、かなり錯乱しています。さっきも私の顔を見て水死体だと叫んだ後、泡を吹いて気絶しましたし……。」
『にゃああ!銀色勇者サマ、それは気にしちゃダメにゃ!確かに勇者サマのお顔は幽鬼モンスター並に生気を感じにゃいし、パッと見だと死体に間違えられても仕方ない亡者みたいな見た目だけど、それも勇者サマの個性なのにゃ!根暗な人にだってイイところは沢山あるハズなのにゃっ!!元気出すにゃっ!』
『その通りですわアザレア様!!目が見えないわたくしでも陰気な顔が目に浮かぶ陰鬱な方ではありますけれど、人の魅力は外見だけじゃありません!!まあ、勇者様は中身もアレな方ですけれど人は成長しますもの!ええ、きっとその内1個くらいは良いところが見つかりますわ!わたくしは信じて見守ります!!心の目で!!!』
「……。」
『にゃっはっはっ!マリーちゃんは大袈裟なのにゃ!勇者サマが感動のあまり言葉をなくしてるにゃ!』
『あ、あら?わたくしそんなに感動的なこと言いましたかしら?何だかとっても恥ずかしくなってきましたわ!あと、いよいよ本格的に下しそうです……助けて下さいッ』
『にゃーっはっはっはっ!!アザレアちゃんは走り疲れたにゃ!このままじゃホントに捕まっちゃうにゃ!!助けてにゃ!!』
「」
……この方々との通信は、いつもこんな感じだ。
私は別に怒っていないし、悲しんでもいない。 ただ呆れているだけです。ええ。
こんなのに討ち滅ぼされた魔王サマもさぞ無念だったことでしょう。
「……私はこれから船長室に乗り込んで、賊共の親玉をぶっ飛ばしてきます。お二人はどうぞそのままドッタンバッタンなさってて下さい。邪魔なので。」
『にゃああ!勇者サマ冷たいのにゃ!!もっとアザレアちゃん達に寄り添ってほしいのにゃあ!!仲間のピンチなのにゃ!!!』
「アザレアさんの逃げ足なら大丈夫です。自分でなんとかして下さい。マリーさんは……外にでも垂れ流して下さい。母なる海はきっと不浄な汚物も浄化して下さるでしょう。」
『んまー?!なんてお下品ですの!!一体普段何をお口にしましたらそんな低俗極まりない発想が思い浮かぶのです?!!わたくしショックですわぁ〜!!』
「……少なくとも敵地の倉庫にある食べ物じゃないことだけは確かですね」
『そんなシモ話してるヒマがあったらアザレアちゃんを助けて欲しいニャ!!応援求むニャ!切実にヤバ――――』
プツンと強制切断。
ダラダラしたくだらない雑談に付き合うほど私は優しくありません。
一応、この敵船のマップ構造は私のテレパシーで送っておいたので後は勝手になんとかするでしょう。
私は御二方を信頼してますからね、勇者のパーティーは固い絆で結ばれているのですよ……たぶん。
「あっ、あぁああ、あのあの……あのっ!」
「はい……?」
「ヒィっ!!に、睨まないでくださいぃ……っ!わ、わたしは、その……っ!」
振り返ると先ほど人の顔を見て倒れた新米冒険者さんがブルブルと震えながら私を見つめていました。
……う〜ん、何故でしょう?私はこんなに優しい目つきをしているのに……。
「あ〜……はいはい。別に貴方に危害を加えるつもりはありませんよ、だから安心して下さい……。」
「ほ、本当……ですかっ?ゾンビさんなのに人を襲わないんですか……?」
「……ゾンビじゃありません。私は女神から祝福を賜りし勇者です。廃墟をフラフラ徘徊するアンデッドと一緒にしないで下さい」
「……ゆう、しゃ?」
新米さんは私の全身を舐めるように見て、そしてまた顔を青くしました。
面白い顔芸だな〜と、思っていると彼女は猛スピードで額を床に擦り付け、謝罪の姿勢をとります。
古来より伝わる最上級の謝罪方法……そう、土下座です。
過去の転生者の文化がこの世界に流入し、そのまま定着したモノですね。
「すっ、すみませぇんっ!!勇者様だとは知らず数々のご無礼をっ!!」
「……別に怒ってませんから頭を上げて下さい。慣れてますから……それよりあまり大きな声を出すと……」
「は、はいぃ……」
私がそう言うと新米さんは恐る恐る顔を上げました。
しかしその目には未だ恐怖と怯えの色が見え隠れしています。
……う〜ん、やっぱりこの顔が原因なのでしょうか? 私は自分の顔をペタペタ触りながら考えました。
「あ、あの……?」
「ああ、すみません。ちょっと考え事をしてまして……。」
いけないいけない。今はそれどころじゃないんでした。
早く賊共をぶっ飛ばして拐われた方々を救出しないと……。
「ゆ、勇者様……っ!」
「はい?なんですか?」
「誘拐された人を助けに来てくれたんですよね?わ、私も同行していいですか……?その、私なんかがいても足手纏いでしょうけど……でも、私――――「なるほど。故郷で妹さんが拐われて、廻聖教会もまともに取り合ってくれないので、単身で敵地に乗り込んだと。……それは大変な思いをされましたね」
「ひゃ……さ、最後まで言ってないのに……。全部言っちゃうじゃないですか……っ!」
「フフン、私は人の目を見ればその人が何を考えているかだいたい分かるんです。身体に触れれば記憶だって……」
私は新米冒険者さんの額に手を当てて、彼女の記憶を覗き見ます。
他者の思考や記憶を解析し、読み取る。
それがこの世界で言う固有魔法『精神掌握』……。
……正直、あまり好きじゃないんですけどね。
その気になれば、相手の本質的な部分まで丸裸にできちゃうんですから。
「なるほど。アナタは妹さんが拐われるのを黙って見ているしかなかった自分の無力さを嘆いているんですね」
「あ、う……」
「そして単身で敵地に乗り込んででも妹さんを救おうとしている……と」
「……は、はい」
「フムフム……。」
私は新米さんの目を覗き込みます。
彼女の目には強い意志が宿っていました。
……うん、大丈夫。彼女は"信用"できます。
「分かりました。一緒に行きましょう」
「え……?い、いいんですかっ?!」
「はい。"ガーベラ"さんは悪い人じゃないみたいですから」
私が名前を呼ぶと、ガーベラさんは複雑そうな笑みを浮かべました。
あれ?私、何かおかしなこと言いましたか……?
「へ、変な気分ですね。名乗ってないのに名前を呼ばれるのって……。」
……あ。
そういえば、まだ自己紹介もしていませんでしたね。
私としたことがうっかりしていました。
前世の時からの悪癖です。
反省しなくては……。
私はコホンと咳払いをしてからガーベラさんに向き直りました。
「失礼しました……。私は女神から祝福を賜りし勇者、"ミズキ"です。アナタの勇気ある行動に心から敬意を表します」
私は右手を胸に添えて、一礼しました。
廻聖教会の伝統的な礼法です。
この動作には"敬意"、"信頼"、"尊重"などの意味があります。
ガーベラさんの単身敵地潜入、その勇気に敬意を表して私はこの礼をとったのです。
しかし……。
彼女は何故か顔を赤くしてまた後ずさりします。
何故でしょう?
私、また何かやっちゃいましたか……?