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充実インターン!(8)

 スマホがメールを受信した。心臓が一際大きく跳ねて、そのまま鼓動が加速する。震える体を落ち着かせた後で、届いたメールを開封した。

「……やった! 面接に行ける!」

 件名からだと分からなかったので恐る恐る本文を読んだが、間違いない。個人面接を行うので、指定の期間内で希望日時を選んで返信してくれと書いてある。

『一華ちゃん、やったよ! 個人面接に進めた!』

 喜びのままにメッセージを送ると、クラッカーを盛大に鳴らしているスタンプが送られてきた。それに踊っている人のスタンプで返信すると、文章も送られてくる。

『面接いつ?』

『来週のどこか。希望日時を送ってくれって』

『そう。正真正銘ラストチャンスを掴んだのね。カッコいいじゃない』

『有言実行出来て良かった。いや、まだ面接受けないといけないんだけど』

『そのチャンスすらなく終わった人も居る訳でしょ? 進めた事自体は誇って良いじゃない。頑張って』

『ありがとう、頑張る!!』

 言葉と拳を握るスタンプを送り、スマホをベッドの上に置く。まずは母さんに伝えるべく、リビングの方へと走って行った。


  ***


 本社ビルを見上げ、拳を握って気合いを入れる。もう九月だからあの時ほどは暑くないだろうと思っていたのだが、そんな事はなかった。相変わらず額の上を汗が流れていくので、ミニタオルの出番である。

 会場に指定されている二階の会議室エリアへ向かい、受付を済ませて待機室の椅子へ腰を下ろす。つい先日ここでプレゼンをやっていたのだと思うと、何となく感慨深い。

「次の方どうぞ」

「はい」

 案内の方に呼ばれたので席を立ち、待機室を出る。隣の小会議室へ入り、面接官の方へ挨拶した。

「有谷真衣です。本日は宜しくお願い致します」

「こちらこそ宜しくお願い致します。では、そちらの椅子にお座りください」

 促されたので椅子に座り、ぴんと背筋を正す。面接官の方は見た記憶がないので、人事部の誰かなのだろう。

 その後、志望動機やインターンの感想、インターンで学んだ事、入社したらやりたい事等を聞かれたので順に答えていった。その辺りは想定内なので、事前に整理して纏めていた考えを正直に伝えていく。

「では、最後の確認です。有谷さんは商品企画部の企画課を志望されていましたね」

「はい」

「もし貴女が入社となれば、基本的には希望通りの部署に配属される予定です。ですが、人員の関係だったり本人の適正だったりで、別の部署への異動を命じる事があるかもしれません。そうなった場合、貴女はどうしますか?」

 そんな事を聞かれるとは思っていなかったので、面食らってしまった。けれども、考えなかった訳ではない。

「……それが会社の利益になり、理由が正当な評価に基づく適切なものであるならば、辞令を謹んでお受け致します。大切なのは、どこに配属するかではなくて何をやるかだと思っておりますので」

 キクノに入ってキクノの商品を通じて、あの時の私と同じように困っている人の助けになりたい。企画課ならばそれが広く叶いやすいと思ったから企画課を選んだが、営業課ならばより目の前のお客さん一人一人に集中しやすくなるだろうし、総務部とか経理部とかならば自分の業務を全うする事で間接的にお客さんの力になる事が出来るだろう。

キクノという会社の中にいられるならば、やれる事はいくらでもあるのだ。伊達にキクノ一本で就活を進めてインターンまでやっている訳ではない。そういう覚悟ならば、とうの昔に決めている。

「回答ありがとうございます。以上で面接を終わります」

「ありがとうございました」

 お礼を告げて頭を下げ、鞄を持って立ち上がる。ドアを出るところでもう一度振り返り、改めて会釈してから退出した。


  ***


 キャンパス内の、ロビーの一角。一華ちゃんに手を握っていてもらいながら、その瞬間を待っていた。

「大丈夫? 手から伝わるレベルで心臓の音えぐいけど」

「大丈夫じゃないから握っててもらってるんだよ……うう……」

 個人面接の結果は、合格であれ不合格であれ、電話で通知されるとの事であった。この日に電話しますというのは予め伝えられていたため、一華ちゃんにお願いして一緒に待機してもらえる事になった……申し訳ないとは思ったのだが、緊張で倒れそうで不安だったのだ。

「来たああああ」

 スマホの画面に映ったのは、着信を知らせる画面。かけてきた相手は、キクノコーポレーション人事部。

「はいっ有谷です!」

 勢い余って声が裏返ってしまったが、電話口からも一華ちゃんからも特には突っ込まれなかった。続く挨拶にも何とか返事をし、話の続きを促す。

『この度は弊社のインターン及び個人面接を受けて頂きありがとうございました。選考の結果、有谷様を採用とさせて頂く事に決まりました』

「あ……ありがとうございます!」

 悲鳴を上げそうになったが寸での所で堪え、感謝の言葉を絞り出す。繋いでいる手を強く握ってしまったが、一華ちゃんは何も言わずにいてくれた。

『つきましては、入社時に提出が必要な書類や内定式の案内、入社までにご準備頂きたい物等の内容を記載した書類一式をお送りしたいのですが、送り先は履歴書記載の住所で宜しいですか?』

「大丈夫です!」

『ありがとうございます。一週間後を目途に発送しますので、もし今月中に届かなかった場合は人事部の方へご連絡下さい』

「分かりました!」

『他にも、何かご不明な点やご質問ございましたらお気軽にご連絡下さい。貴女と一緒に働ける日を楽しみにしております』

「はい! 本当に、本当にありがとうございます! 宜しくお願い致します!」

 高揚したまま力いっぱいに伝え、震える指で何とか画面をスライドし通話を終了する。机の上にスマホを置いて一華ちゃんと向かい合い、もう片方の手も取り合った。

「やった! やったよ! 採用された!!」

「頑張ったじゃない! 凄いじゃない! おめでとう!」

「ありがとう! ほんと良かった、ほんと!」

 ロビーの一角で、お互いの手を握り締めながら喜びを分かち合う。心から嬉しい時にも涙は溢れてくるんだな、と、生まれて初めて実感した。

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