目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第104話 クモの巣の上

「なぁアカネ、本当にここで迎え撃つのか?」

 トトは手に持った新しい武器、大振りな斧をぶんっと一振素振りする

 これはトトたっての希望であつらえたものだ

「ああ、すべての監視カメラとセンサーを壊されてしまったからね、フーカがいる以上は不意打ちも通用しないからここで迎え撃って、それからは上手いこといってくれればいいのだけど」

 私達は今、シェルターを出た先にいた

 シェルターのなかでの防衛戦や他の場所に隠れての奇襲も考えていたがフーカがいる以上はどちらも通用しない

 だからこそあえて身を隠す場所のほとんどないこの場所で迎え撃つことを決めたのだ

「そうだね」

 トトも表情こそ変えないものの緊張しているのかまた斧を強く振るう

「底無しちゃんも準備は出来てるかな?」

 私は隣にいる底無しちゃんに声をかける

「うん!」

 返ってきたのはいつもの元気な返事で

「それは良かった――」

「何が良かったってー?」

 そう言って笑いかけようとした私の言葉を甘ったるい声が遮る

「おや、やっとのことでお出ましかい?」

 前を向けばフーカと、その後ろにゾンビイーターの軍が列をなしていた

 ゾンビイーター達の数はおおよそ100といったところか

 その後ろには普段は研究所の警備や雑用に使われている中級のゾンビ達も群れを成している

 私がいた頃よりも大分顔ぶれが増えている

 それだけヨハネは研究を続けてきた、ということだろう

「やっぱりヤマトの言ってた通りかー、三人ともこっちにいる」

「やはり読まれていたか、まぁ私が思い付くことだ、ヤマトも気付かないわけがない」

「あの人筋力馬鹿みたいに移るけど実際は色々考えてるもんねー、で……覚悟は決まってる?」

 言いながらフーカは粘糸を手のなかでぐるぐると生成する

「決まってなかったらここにいないさ」

 そしてそれに対峙する形で前に出たのはトトだった

「そーね、んじゃ、総員目的は理解してるかな? 三人とも、殺して」

 フーカは言うが早いか手近な瓦礫の上にひょいひょいと登ると腰かける

「いや、違った違った、半殺しにして自分に渡して、止めは私が刺すから、それまで自分は……高みの見物を決め込もうかなー、今は乗り気じゃないし」

 それから自分勝手な言葉を投げ掛けるがそれに反抗するゾンビイーターは一人もいない

 フーカの力量を理解しているからなのか、それとも多量のオメガウイルスの投与でそんなことを考えることすら出来なくなっているのか

 私には理解しかねる

 この場にホシノやフタバがいればまた違ったのだろうが彼女たちはもういない

「……おっかな」

 トトはフーカの言葉に大袈裟に身震いしてみせる

「何言ってんの? これは殺しあいだから当たり前じゃん」

 フーカはトトに向かってべーっと舌を突き出して煽るとそのまま頬杖をついて観戦を決め込む体勢を取った

「……トト、底無しちゃんも、手筈通りに頼むよ」

 私の言葉にトトと底無しちゃんは前に出る

 逆に私は邪魔にならないように少し後ろに下がる

「はいはい、んじゃ、行きますか!」

 トトはそれだけ言うと斧を振りかぶって大きく前に前進することなく、瓦礫の上のフーカに向かって思い切り刃を振り下ろした

「っと……はぁ、今のは確実に雑兵戦する流れだったでしょ……」

 どれだけ油断していようと流石はハイスコアラー

 トトの斧を軽々と粘糸でガードしてそのままの勢いで瓦礫を降りる

「なんで僕がそんな茶番に付き合わないといけないわけ? 元々僕の相手は君だよ、他のゾンビ達は……」

「それじゃあ、いただきまーす!」

 ちらりとトトが視線を向けた先では底無しちゃんが異能を発動してゾンビイーター達の一斉に放たれた攻撃を食らいつくしていた

「全部底無しが相手するから、安心して僕と戦ってっ!」

 フーカの視線が一瞬そちらに釘付けになった瞬間を逃さずにトトが追撃を加える

「痛ったぁ……いや、正確には痛くはないんだけど、いいご挨拶だね本当に、これがアカネさんの教育の賜物だと思ってればオーケー?」

 粘糸でのガードが遅れてフーカは少しよろめくがさしたるダメージは入っていないようだった

「よそ見とか、戯言とか言ってる場合?」

 私が答える前にトトが斧を振り上げてさらに追撃を狙う

 しかし

「面白いこと言うね、自分一応これでもハイスコアラーなんすけどー」

「トト……!」

 フーカは少し身体を傾けてそれを避けるとそのまま生成した粘糸をトトに向かって飛ばす

「ぐっ……」

 飛ばされた粘糸はぐるぐるとトトを絡めとり、そのままフーカはトトを持ち上げて宙に頬おり投げる

「まだまだ」

 空中で体勢を建て直そうとしたトトはなにもないはずの場所でピタリと動きを止める

「これは……」

 咄嗟にトトのほうへ行こうとしたが一歩踏み出そうとしてピタリと脚を止める

 目の前でキラリと糸が光を反射したからだ

 おそらくだが、この糸に引っ掛かってトトは空中で動きを止めた

 そしてこんなこと出来るのは一人しかいない

 私はその張本人のほうへ視線を向ける

「あらかじめここら一体には自分の粘糸が沢山張り巡らしてありましてー、つまりは君たちが立ってるのは……クモの巣の上ってこと、理解出来た?」

 フーカはそう言って、手のなかで粘糸を生成して笑った

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?