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第102話 ヤマトの力

 暫く虚空を眺めていたヤマトさんがやっとこちらに顔を向ける

 それほどまでにフーカという人を説得するのは大変だったのだろうか

 フーカ、というのは確かソラちゃんから聞いてい

るもう一人のハイスコアラーだ

 自由な人だから私と合うかもしれないとソラちゃんは冗談交じりに言っていた

 アカネさんはハイスコアラーが二人揃うことは一番危惧していて、その上で相手も分かっていながら隊は分けるだろう、というのはすでに予測していた

 また、残っているゾンビイーターを考えるとヤマトさんが指揮を任されるであろうこともだ

「それは御愁傷様です、というかやっぱりあなたに全権任せてるとかヨハネも数奇なことをしますね、まぁ他に適任者もいませんか」

 ソラちゃんの言葉はまぁ、いつも通りなのだが、いつもよりも切れ味が鋭い気がする

「だからっ、喧嘩売ってんのか? まぁなんだっていいけど、それじゃあ……今度は止まってやらないからな」

 ヤマトさんは言うが早いかまた構えを取る

「っ……」

 瞬間、身体が自然と震えて鳥肌が立つ

 これは、緊張とか、プレッシャーとかそういうものだ

 今まで誰と対面しても感じたことのない部類のもので、じゃりっと音を立てて少し後退りする

 言葉の通りもうヤマトさんは止まってはくれないだろうということが肌でわかった

 私は今日何度目か分からないがバールを強く握る

 隣ではソラちゃんも刀に手をかける音が聞こえた

「んじゃ、行きますかっ!! 一意専心っ!!」

 ヤマトさんは言うが早いか地面を蹴って宙を舞う

 それは常人離れした飛躍力で、一気に距離を詰めるとそのまま拳を思い切り、振り下ろした

 ドゴォンッ!!

「っ……」

 すんでのところで避けた私達のいた地面は大きくえぐり取られていた

 それこそ、隕石が落ちた後のクレーターのように

 貯めた後に発動するパワータイプの異能とは聞いていたがこれ程までとは思わなかった

 あの場にあのままいた場合を考えたら冷や汗が止まらない

 やはりハイスコアラーと呼ばれるゾンビイーター達の異能の力は、共通して他のゾンビよりも人間離れしている

「これは……相変わらずの馬鹿力、と言いたいところですが……前よりも力が上がっていますね、やはり……あなたも手術を――」

「それには、答えないって言っただろ! それから……お話はおしまいだってもなぁ!」

 ソラちゃんの言葉から元々よりもその一撃における力が上がっているのだということを知る

 ということは、この人も後3ヶ月という短い間のなかで、死んでしまうのか

 だがそれを悲しいとか、そういうことを思っている暇もなくヤマトさんは続けて大振りの右ストレートをソラちゃんに向かって繰り出す

「ぐっ……」

「ソラちゃんっ……!!」

 ソラちゃんは刀を抜くのが間に合わずそれを腕でガードするが大きく後方に吹き飛ぶ 

「ウミさん!」

「心配している余裕なんて、あるのかねぇ!!」

 ヤマトさんは返すその手で私に向かって裏拳を繰り出す

「っ……これは、ダメだ!」

 最初はバールでガードしようと思った

 しかしソラちゃんが吹き飛んだことを思い出して即座に回避行動に切り変える

「それは正解の行動だと思うぞ! でも少し遅いなっ……!」

「痛っ……!!」

 ギリギリのところで裏拳こそ避けたもののその後に飛んできた蹴りが私の腕にめり込み、そのまま大きく地面を転がる

「ウミさん……っ、ヤマト、あなたの攻撃には、溜めが必要、そうでしたよ、ね!!」

 心配そうにこちらを一瞬だけソラちゃんは見るがそのまま体勢を立て直して間髪いれずにヤマトさんに向かって思い切りローリングソバットを繰り出す

 そうだ、一意専心には溜めが必要

 今それを放った後であれば力は元に戻っている

 それなら通る

 そう、思ったのに

「なっ……」

 ソラちゃんの蹴りをヤマトさんは片腕で、簡単に防いで見せた

 ソラちゃんは基本刀をメインに戦う上に小柄ではあるが高い膂力と身体能力を保持していることは一緒に旅をしてきてよく知っている

 だがその渾身の蹴りを、たったの片腕で防ぐなどはっきり言って異常だ

 それも異能を発動していないのであればなおさらに

「溜めが必要、まぁ確かにそうだな……いや、そうだった、と言ったほうがいいかもなぁ!!」

 ヤマトさんは言うが早いかソラちゃんの脚を掴むとそのまま私のほうへ思い切り投げる

「っ……大丈夫!?」

「ええ……何とか」

 私は慌てて体勢を整えるとソラちゃんを受け止めようとする

 しかし蹴られた腕が痛んでそのまま地面に尻餅をつく形で何とか勢いを殺すのがやっとだった

「……ヤマト、あなたの異能も、変わったのですね」

 ソラちゃんの言葉にハッと息を飲む

 そうだ、ユウヒの時もそうだった

 強化手術を受けたものの異能はより強力に、人間という垣根を超えて進化する

 ヤマトさんの一意専心がさらに進化していても何もおかしいことはない

「だから言ったろう、そもそもあたしは今の自分に満足せずに邁進する努力家なんでね、ハイスコアラーとして……そう簡単にやられるわけにはいかないんだよ、一応この場を任せられている以上は特にな!!」

 ヤマトさんは私達が体勢を立て直す前にまた大きく、地面を蹴った

 これは、不味いかもしれない、そう思った私は……

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