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第101話 人生ってクソゲー

 なんだかんだいって自分は自分という人間を甘いやつだと思う

 なりたくもないゾンビになって

 やりたくもないゾンビイーターやって

 好意を寄せてくれていた子の弔い合戦に参加して

 ヤマトから読み取った気苦労の感情と総指揮という面目のためにこうして折れて軍の統率をしているのだから

「これで六つ目」

 誰に言うでもなく確認のために言葉にしながら自分は六つ目の監視カメラを壊した

 統率を取っているとはいえ今は自分一人だ

 進軍するゾンビイーターの軍より先に進んで最初にすべての監視カメラと監視用のセンサーを破壊する

 それが今回自分に与えられた一番優先するべき任務

 そうすることでギリギリまで自分達の隊がどこまで近付いてきているのかを悟られることはない

 それだけで充分に心労をかけられる

「それにしてもこんなに至るところに監視カメラとセンサー仕込んでるとかアカネさんもよくやるよ全く」

 自分は言いながらとなりに生えていた大きな木に手をかけると以心伝心で粘糸を生成してバキバキに切り刻む

 自分の以心伝心は自分の身体から粘液のような糸を無数に生成することが出来る

 その糸は目に見えない程に細く、かなり広大な範囲に伸ばすことが出来る

 その糸に触れたものは自分でも知覚できるしそれこそユウヒのときのように粘糸をつけた相手が死ねばそれだって分かる

 自分では索敵能力においてはホシノの脳喰よりも上位だと思っている

 そして木を切り刻んだように糸自体の硬度、強度、攻撃力もかなり高い

 この能力があったから怠惰な自分でもハイスコアラーになれたと言っても過言ではないだろう

「よっと」

 自分は手元で生成したたくさんの粘糸を他方にばらまいて周りの木を、草を、建物を、瓦礫を、ただ粉々に切り刻んで景観を壊していく

 これは別に任務の一つではない

 これからアカネさん達にすることと一緒

 押さえようのない気持ちを発散させるためのただの八つ当たり

 こんなことしたところで気が晴れるのかと言えば微妙なところなのだが

「……ユウヒは、なんであんなに穏やかな気持ちで死んでいったのかな」

 自分はその時のことを思い出して誰に言うでもなく呟いた

 粘糸のもう一つの隠された能力

 それは粘糸をくっつけた相手の心が覗けるというもの

 正確にいえばすべての心が見えるわけではなかった

 嬉しいとか、悲しいとか、そういう感情が分かるくらいのものだ

 だからこそ、たまに自分に話しかけてくるユウヒに粘糸を絡ませればユウヒの中には優しさしか存在しないことがありありと分かった

 打算もなく、暗い感情もなく、怒りだってない

 ユウヒの……彼女のなかには仲間への慈愛しか存在しない

 ゾンビイーターなんて馬鹿みたいな仕事をさせられているのに汚れることを知らないその心は見ていてこちらまで清々しい気持ちにさせてくれた

 周りは皆ユウヒのことを勘違いしていたけど本当は誰よりも仲間思いな優しい子だったのに

 自分は進みながらカメラを破壊して、もう一度周りのものを粉々に打ち砕く

 中には徘徊してるゾンビとかもいたけどはっきり言ってそんなものどうだっていい

 何かを壊して、八つ当たりでもしないと怒りで頭が爆発しそうだったからだ

「……」

 自分がここまで強く、ユウヒのことを想っていたと知ったのは皮肉にもユウヒが死んだその時だった

 粘糸を通して安らかな気持ちのまま死んでいったユウヒを知って、それから自分のなかの何かがおかしくなっていった

 強化手術を受けようとすぐに決めたし、それ以降何をしても手につかないし、気まぐれに誰かの心を覗くこともしなくなった

「……ユウヒ」

 罪悪感だってあった

 片目をもらってその見返りにソラ達の居場所を教えた

 だからユウヒは単身そこに乗り込んでいって負けて、殺された

 そもそも自分がそんなことをしなければこうはならなかった

 それこそ自分が蒔いた種である

「……本当に、人生ってクソゲーだよねー」

 なんの因果か人間辞めて、それでも生きてて、自分のせいで大切な人を殺し、その敵を取るという名の八つ当たりをしに行くんだから

 自分は、むしゃくしゃする気持ちを少しでも払拭するためにまた、粘糸を周りに思い切り飛ばした

「だから、パーツだけでも取っておいて正解だなぁ……」

 自分はポケットから一つの瞳を取り出す

 これはユウヒからもらったもの

 気に入った人の身体の一部を集めるのは自分の癖だ

 それらをしまっている箱には母と父のパーツも入っている

 そうすれば、いずれ自分の元を大切な人が離れていってしまっても……こうしてまた、出会うことが出来るから

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