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第100話 殺せる数

「嫌だ、自分は絶対にここに残りますー」

 フーカは言いながら椅子から立つこともせずにバタバタと脚をバタつかせる

「だから、何度も説明しているだろ!」

 そんなフーカの首根っこを掴んで無理やり立ち上がらせようとするが存外力が強くて椅子から軽く浮くぐらいでそれも叶わない

 どうやら本気で動く気はないようだ

 総大将だと伝えたときはそれなりに好意的な反応だったのにこれは困った

「守備にはヤマト一人で充分だから自分は隊を率いてアカネさんの基地に向かえってやつでしょ、だーかーらー、嫌だって言ってるじゃないですかぁー」

 フーカは子供のようにさらにばたばたと暴れる

「嫌だ嫌だって子供じゃないんだから統率しているあたしの言うことは聞けよ! これは遊びじゃない、戦争だ」

 あたしの言葉にピクリと反応すると暴れるのを止めてこちらへ視線を向ける

 これは言葉を間違えたかもしれないと気付くが言ってしまった後では覆水盆に返らずというやつだ

「自分は充分に子供ですよ、オトナのエゴで戦うことを強制されたただのコドモ、戦争だとか関係ないし自分がしたいことは一つだけ、ユウヒが死んだことに関する八つ当たり、相手は勿論ソラとウミ、だってあの二人がいなければユウヒも無理することなんてなかったわけだし」

 フーカは自身がゾンビイーターになったことをきっとどのゾンビイーター達よりも後悔しているだろうしそもそもなること自体望んでいなかっただろう

 だからこそ任務だって基本乗り気ではなく、ハイスコアラーになったのだってゲーム程度にしか思っていない

 そんな相手にこれは失言だ

 フーカがユウヒと話す時だけは雰囲気が違うのは気付いていた、だがまさかここまでフーカがユウヒに固執していたというのは意外だった

 だとしても

「それは……」

「分かってるって、こっちから仕掛けておいて返り討ちにあったからっていざ、復讐します殺しますなんてただの八つ当たり、自分でも言ってるじゃないですか」

 そう、まず仕掛けたのはあたし達のほうだ

 相手は言ってしまえば正当防衛

 しかしそんなことも気づいた上でフーカは八つ当たりをすると決めていた、その覚悟に少し驚く

「だとしても――」

 それでも今回はあたしの作戦通りに動いてほしい、そうなんとか伝えようとしたあたしの首にワイヤーよりもずっと細い糸が気付くと何重にも巻き付いていた

「……自分に指図することは誰だろうと許さないですよ、自分はこんな身体になっても自由でいたいので、自分の自由はこれ以上誰にも奪わせない」

「……分かったよ、だけどな、ユウヒを殺したのはソラとウミの二人だけじゃないだろ」

 殺意をビリビリと放つフーカにあたしは両手を上げて降参の意思を見せる

 この状況を力ずくで切り抜けることは安易ではあるがそれでは交渉にならないしフーカが言うことを聞くことはないだろう

 それなら違う観点からアピールすればいいだけだ

「アカネさんと底無しもいるんでしょ、かといって……」

「あー、話によればもう一人仲間がいるな、覚えてるかトトって」

 あたしはソラの四人目の仲間の名前を出す

「……あの双子の」

 ゾンビイーターのなかでも目立つ二人だったから流石のフーカも認識自体はあるようで安心した

「そうそう、そいつもいる、あたしの予想ではカナタ辺りから情報がばれていればこちらへ奇襲に来るのはソラとウミ、それは言っただろう、そして勿論シェルターにも残るものが出てくる、だって自身の基地は守らないといけないからな、それがアカネ博士、底無し、トトの三人になるだろうって心算だ」

 あたしは極めて明るく、そして分かりやすく説明する

「だからー、こっちに二人が来るなら残るって言ってるじゃないですか」

「それはダメなんだって、お前のその異能は索敵能力に長けている、もし相手方が別のシェルターに逃げたりしていても追える、それが今回の戦いの要になるんだよ」

 そう、フーカの索敵能力がなければそもそも今回の戦いは戦いにすらならないだろう

 何故なら相手方にアカネ博士がいるからだ

 アカネ博士がいる以上は正面切って突撃して殲滅なんてことは絶対に成功しない

 そもそも今回見つけたシェルターから移動してしまえばその時点で詰みのようなもの

 後ろに回られて奇襲されるかそのまま雲隠れするか

 まぁ他に方法がないというわけではないがフーカに先陣をきってもらうのがはっきり言って一番楽で手っ取り早いのだ

「だからそれはそっちの都合でしょー」

「……五人のうち三人は基地のほうにいる」

 それでも許諾しないフーカを無視して目の前に回ると三本指を立てる 

「だから?」

 まだ理解していないようでフーカは顔をしかめながら頬杖をつく

「それならこっちに残って二人を殺すよりもこっちから進軍して三人を纏めて殺すほうがよっぽどいい八つ当たりになるんじゃないか? 誰がどっちにいるとか誰のせいとかじゃない、何せ相手方は五人がかりでユウヒを殺したわけだからな」

「……」

 あたしの言葉にフーカは暴れるのを止めて考えるように視線を床に落とす

「それに、ソラはその場で殺すがウミに関しては生け捕りだ、ヨハネ博士が諸々用事を済ませたあとにお前が殺せばいい、あたしが立てた作戦にはどうしてもお前が必要なんだ、今回だけは折れてくれないか……?」

 これが最後の人一押しだ

 これで折れてくれなければ力で無理やり言うことを聞かせるか、他の作戦を考え直さなければいけない

「……五分の四殺せるならまぁ、いいか、分かったよ、やりましょっかその役目」

 フーカははぁっと息をはくとそれだけ言ってやっと思い腰を上げた

「本当かっ……!」

「……そこまで頼まれればまぁ、折れてあげようってやつですよ、好意とかキモいんで感謝してくれなくて結構ですのでー、ただのいつもの……気まぐれなんで」

 喜びいさんで礼を告げようとしたがそれはフーカによって早々に阻止された

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