「このまま行けば正面入り口に到達しますが、私達は招かれざる客です、一度一応正面を確認してからアカネさんに聞いている上級職員用の裏口に回りましょう」
あれからしばらく森のなかを進んだ頃に潜めた声でソラちゃんがそう促す
「そうだね……」
私も周りにたいする警戒は解くことなく返事を返す
「この先に、入り口がある筈……っ!」
「どうした……んぐっ!」
慌てて一歩後ろに身を引いたソラちゃんに驚いて聞き返そうとする私の口をソラちゃんの手が無理やり塞ぐ
「静かにっ……何であの人はあんなところに堂々と立っているんですかっ……」
ソラちゃんは私が黙ったのをしっかり確認してから口から手を離し、もう一度入り口のほうを見やり困ったように自分の頭に手を添える
「あの人は……」
私も習ってそちらを確認すれば入り口の前には一人の少女が仁王立ちしていた
短いのによく手入れされた赤髪にキリッとした目付き
ソラちゃんとは違うタイプの美少女なのだが
何というか、すでに勝ったというように強者の笑みを浮かべているのがすごい気になる
「ヤマトです、ハイスコアラーの一人で……そのなかでも単純な戦闘力においては一番だと言われていました」
「そんなっ……」
研究所について早々に実質ゾンビイーターの中でも一番強い相手を見つけてしまって軽く絶望する
「これは……気付かれないように回り込んで――」
「そんなところに隠れていないで出てきたらどうだ?」
「っ……」
ソラちゃんはそのまま迂回しようとするがヤマトさんの凛々しい声がそれを憚る
「思った通りだな、何処からか情報が漏れてこちらがそちらへ進軍することを知っていればそれに合わせて奇襲する、戦いではよくあることだ、裏の入り口は全部封鎖されている、職員用も含め全てだ、入るならここからしか入れないぞ」
「……何故そんなことをつらつらと語るんですか」
ヤマトさんの隠すことない暴露にソラちゃんは隠れるのを止めて出ていきながら聞き返す
「なんだ、罠だとでも思ってんのか? あたしがそんな面倒くさいこと出来るわけないだろ」
出てきた私達を見ながらまた明明白白とヤマトさんは言ってのける
「確かに……あなたは罠を張るとかそういう器用なことは出来ませんね」
ヤマトさんの言葉にソラちゃんは辟易した様子で答える
「……なんであたしの周りの奴らはこう、口が、こう、辛辣なんだろうな、泣けてくるぜ」
ヤマトさんは言いながら涙を拭く素振りを見せる
といってもゾンビであるのであれば涙は出る筈ないのだが
何というか、この人は妙に人間臭いというか、残念なところがあるというか
言われなければゾンビイーター最強だとは決して思わないだろう
「それは御愁傷様です」
流石知り合いというかソラちゃんは慣れた様子でヤマトさんの言葉を捌く
「ま、ということで、面倒なことは得意ではなくてね、ガチンコして簡潔に終わらせよう、君は……巻き込んで殺してしまうと困るから下がっていてくれるとありがたいんだけど……」
ヤマトさんは拳を構えながら私のほうを見やると気まずそうにそう言ってのける
「それは、出来ません」
だから私は拒否の意思を示す為にバールを構える
「だろうね」
「待ってください」
いざ、戦いが始まろうとしたその時、止めたのは意外にもソラちゃんだった
「何だ? 交渉とか回りくどいのは苦手なんだが」
「それは知っています、だからする気はありませんが、聞きたいことがあります」
以前ヤマトさんは情に脆いと確かソラちゃんが言っていた
だからこそ何かしら言葉で誘導して戦闘を避けようとしているのかと思ったがそうでもないらしい
「……ものによるが、答えられることなら聞こう」
ヤマトさんは言いながら構えを解く
対話に応じてくれるということは今まであってきたゾンビイーターの中ではわりかし話の通じる方なのだろうか
「警備のゾンビがいないことと、何故あなたがそこで一人で待ち構えているのか、ということです」
ソラちゃんは単刀直入に、そう聞く
「何だそんなことか、1、警備のゾンビも含めてあたし以外のゾンビイーター達がアカネ博士のシェルターに進軍しているから、1、あたしが唯一の守備陣営担当だからだ、少なからず誰かが襲撃してくることは……カナタの離反からも察することが出来たし、その襲撃者のなかに必ず一番戦闘面で問題になるソラが含まれていることも想像の範疇だ、後は……誰が来てもいいようにずっとここに立っていて寝ずの番をしていればいい、それだけだ」
カナタさんの離反、という言葉は決して流していいものではないだろう
寝ずの番というゾンビに似つかわしくない言葉や初対面で申し訳ないが思っていたよりも頭が回る人なんだなという感想とか、そういうくだらない感情も沢山あった
しかしそれに構っている余裕がない程の情報量をこの人は一言に言ってのけていた
「あなた以外の全員が……総動員で進軍している……?」
ソラちゃんが絞り出すような声でそう、呟く
そうだ、その言葉が確かならば、今……アカネさんとトトちゃんと底無しちゃんがいるシェルターにはそれだけ沢山のゾンビとゾンビイーターが群れをなして襲撃しているということになる
そんなものどう考えてもこちらよりも危険度が高い
「その通り、じゃあ説明も終わったことだ、始めようか!」
私達の逡巡など気にする様子もなく、いや、気付いていないのかもしれないが、ヤマトさんはそれだけ言うとまた拳を構えた