「もうすぐ、着きますね」
ヨハネのいる研究所を目指しはじめて2日
順調にいけば明日には着くだろう
「そうだねー」
私は焚き火の前で缶詰めの蓋をあける
アカネさんの元にいた時の食事を思い出すと懐かしいと同時に慣れ親しんだ缶詰め生活も悪くないと思う自分がいる
アカネさんからの選別でもらった桃缶も食べ惜しんで来たが今日食べてしまおう
久しぶりの二人旅は極めて順調で一度も問題には遭遇しなかった
「……ウミさんは初めてですがどんなところか知っていますか? 確か昔はたまに国の研究施設として雑誌とかにも取り上げられていた気がしますが」
ソラちゃんはそれでも辺りにたいする警戒をとくことはなく、それでいて前とは違って離れた木や瓦礫に身体をもたげることはなく私の目線の先で焚き火にあたりながら、聞いてくる
「うーん、孤児院には雑誌とかは置いてなかったしテレビも……見れる番組決まってたからなー、ソラちゃんは……そっか、久しぶりになるのかな」
セントジャンヌ孤児院は俗世や政治などの情報規制が多かったためこうなる前の世界のことはよく分からない
だがソラちゃんにとってはいい意味でも悪い意味でも思い入れのある場所だろう
「ええ、そうですね……私がゾンビイーターとして所属していた頃ぶりになりますからかなり久しぶりですね」
「……緊張してる?」
ソラちゃんの様子がいつもと違うことに気付いて、桃缶をあける手を止め私はそう聞き返す
「いえ…………いや、そうですね、私らしくもなく緊張しているかもしれません、ゾンビになってから袂を別つまではそこに暮らしていましたから、顔見知りのゾンビイーター達に喧嘩を売りに行くとなれば流石に思うところもあって、緊張します」
「ソラちゃん……」
一度違うと否定しようとした後にソラちゃんは頭を振ってから、肯定する
昔のことを思えば本音をしっかり示してくれるようになったのは本当に嬉しく思う
「ですが、私はもう覚悟を決めています、後は……あなたの覚悟ですよ」
「っ……」
ソラちゃんは言いながら覚悟を決めた瞳で私を射貫く
覚えのありすぎる私はつい、言葉に詰まってしまった
「気付いていないとでも思いましたか? あれだけあからさまであれば私でなくても気付いていますよ、未だにあなたは……ここぞというときに躊躇う、決断が出来ない」
「そ、れは……」
そう、ソラちゃんの言う通りだ
私は未だに一回だって迷わずここぞというときを切り抜けたことがない
誰の時だって何のときだって迷って、最終的に他の誰かが私の代わりを買ってでてくれてその困難を乗り越えている
「旅を共にするようになってからずっと口酸っぱく私は言ってきましたが、その悪癖だけは一向に治る気配がない……ですが、私はあなたに死んで欲しくありません、この先最後の戦いで、躊躇って死ぬなんてことにはなって欲しくない、だから、しっかり覚悟を決めてください、例えそれがあなたにとって難しいことだったとしても」
「……分かった」
ソラちゃんが本気で私を心配してくれているのがひしひしと伝わってきて、私は、なんとか返事を返す
「……はぁ、全然分かったって顔してないですよ」
「……それは」
「例えば、そうですね、全てが終わった後のことを考えてみるのはどうですか?」
ソラちゃんは呆れたようにため息を吐くとからっと雰囲気を明るくしてそう言いながら人差し指を立てる
「終わった、後の事?」
「ええ、私達はこれから、良くも悪くも世界のあり方を変えに行くんです、世界が変わってユートピアが始動して、それから私達はどうしていくのか、です、ユートピアに住むのか……また、世界を回る旅をするのか」
「旅を……」
私の目的は旅を始めてからずっとユートピアを見つけることで、そこにたどり着いた後のことなんて考えたことがなかった
「そう、別にユートピアに着いたからといってずっとそこに住む必要もありません、私は元々ゾンビですしあなたはゾンビになりません、危険はまぁ、ゼロではないにしても旅をするには問題ないでしょう、例えばの一つですが、それ以外だっていいんです、もう追手は来なくなるんですから」
そうだ、追手がいなくなればもう逃走劇を繰り広げる必要もなく、ただ二人で生きていくことが出来る
そして
「……私、ずっと考えていたことがあって」
言おうか迷いながら、何とか言葉にしていく
「はい」
ソラちゃんはたどたどしく話す私を急かすこともなく続きを待っていてくれる
「私達が旅の途中で出会った人達のこと」
私達の旅には、ゾンビ以外にも沢山の人達が関わってきた
「リアちゃんもそうだけど、家族のために野盗をしていた人達のことも……よく考える」
リアちゃんは私達が関わったことであんなことになってしまったけれど、その根元にはシェルターに入れなかったというものがある
野盗をしていた人達もそうだ
シェルターに入れなかったからこそああして家族を守るしかなかった
「もし、もしもだよ、ユートピアが……月陽の都が無事に稼働したらそんな人達のことも助けることが出来るんじゃないかって」
「……ユートピアが例えば、とても広かったとして国中の人を収容出来るわけではない」
「……」
ソラちゃんの至極当然な理論に私は黙り込むしかない
だって実際にそうだ
ユートピアがどれだけ広くても全員を収容なんて出来ないし、ゾンビがいる以上は完全に平和な世界なんて夢物語だということは分かっている
「ですが……今までよりは沢山の人が救われるかもしれませんね、それに……アカネさんが薬の研究を続けている以上はいずれ特効薬が完成する時だって来るかもしれない」
「ソラちゃん……」
だがソラちゃんはいつものように出来ないことは出来ないと否定することもなく、もしかしたらの話を私に付き合ってしてくれた
それがどうしようもなく嬉しくて
「それを目指して、頑張れますね?」
「……うん」
笑顔でそう、尋ねるソラちゃんに私はただそう、返した