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第93話 僕がしたいこと


「あいつら、大丈夫かな」

 二人を送り出した後、僕達はシェルターの中へと戻っていた

 隣に立っている底無しの頭をくしゃくしゃと撫でながら少し心配になってそう呟く

「大丈夫さ、一人ならともかく、彼女たちは二人なんだから」

「それもそっか」

 アカネの言葉に僕は同意する

 僕達と行動を共にする前までは二人で色々な窮地を乗り越えてきて今がある

 僕達だってまんまと二人に倒されているのだ

 だから今さら心配することなんてないだろう

「……君には本当に申し訳ないことをしたね」

「急に何?」

 突然アカネが謝るものだからなんのことか分からずに聞き返す

「君はこの戦いに一番関係がないのに結果として巻き込んだことさ」

 少し、罪悪感とかそういうものがありそうな表情でそんなことを言うものだからついため息が出る

「……そんなこと考えてたの? 僕は何も気にしていないし、巻き込まれたとも思ってない……いつだって僕には逃げ道があったのに逃げなかっただけ、巻き込まれたんじゃなくて首を突っ込んだんだよ」

 僕がこの戦いに参加しないで一人プラプラと放浪する機会なんて何度もあった

 それでも僕は独りを選びたくなかったからここにいる

 自分で選んだ道だ

「……出会った頃から考えると、君も変わったな」

 アカネは僕の言葉を聞いて嬉しそうに少し微笑む

「変わらない人間なんていないよ、生きていても死んでいてもそれは変わらない、人間である以上は良いほうにも悪いほうにもいつだって変われるし変わってしまう、それにヨハネ達も気付ければいいのにね」

 生きていても、死んでいても、大人でも子供でも、人間なら変われるはずなのにずっと同じ場所に縛られ続けているヨハネやヨルが少し不憫にさえ思えてくる

「そうだね、彼女の場合は……気付いていて変わることを拒否しているのだろう、あの人は私より頭も良いし何よりも……子の母だから」

「……僕からすれば、アカネも十分想っていると思うけど」

 子の母、というのは物心ついた頃から母親のいない僕にはよく分からないけれど、アカネの気持ちは少しだけ分かる気がする

 だからそう言ったのに

「何をだい?」

 言葉の意図に気付けないほどバカじゃないはずなのにそうやってごまかすから僕は

「分かってるんでしょ、その少女のことをだよ、ヒカリ、だっけか」

 言葉にして無理やり話を続けさせる

「それはまぁ、でも想っているなんて言えないさ、私は彼女を殺そうとしてるんだから」

「はぁ? だから……想ってるから出来るんだろ、大切な相手を、その人の意思を尊重して殺そうなんて、どうでもいい相手にだったら出来ないことだと思うけど、少なくとも僕ならどうでもいい相手からの願いだったら自分の意思を尊重してる」

 アカネがあまりにも的外れなことを言うものだから驚きを通り越して最早呆れる

 自分の求めるものとは全く違うその人の意思を尊重するなんて余程大切な相手でなければ出来ない筈だ

「……君は、たまに物事の真ん中をしっかりと撃ち抜くことがあるね、敏いというかなんというか」

「バカにしてる?」

 アカネが感心したようにそういうものだから僕は半ギレで聞き返す

「まさか! 褒めてるし尊敬しているよ、君も、ソラちゃんもウミちゃんも、底無しちゃんだって、今を生きる子供達は強いよ」

 言いながらアカネさんは底無しのほうへ視線を向ける

 間の抜けた歌を歌っていない底無しは不思議そうに視線を返しただけだった

「そりゃこんな世界を生き抜かないといけないからね」

 僕は少しの皮肉を込めてそう返す

「……逆に君は、もう大丈夫なのかい?」

「何が?」

 聞かれた言葉に今度は僕がはぐらかす番だった

「分かっていると思うが、ロロのことさ、ロロの元へ行きたいとか、罪悪感とか、そういうものはもう大丈夫なのかってことだよ」

 そして勿論アカネもさっきの僕のように退くことはない

「……大丈夫ではないけど、ロロを食べるっていうのは自分の考えでしたことだし誰かに八つ当たりするのはそもそもお門違いで、ダイチに言われたこともあるから……今は死んでロロの元に行こうとは、思ってないよ」

 今でもあの時ロロを食べるという選択をしたのが正しかったのか間違っていたのかもわからないしあれが良いことだったのかと言えばそれは否と言いきれる

 でも殺された側の言葉を聞いて少しだけだけど心は軽くなったし死にたいという気持ちも大分減った

 勿論ゼロかと言われればそうではないが

「そうか……」

「……ねぇ、この戦いが終わって、無事に月陽の都のことも終わったらさ、こんな寒いところじゃなくてもっと暖かいところに行かない? 僕海って見たことないんだよねー」

 僕は少し暗くなった雰囲気を打ち消すように元気にそう言ってみる

 昔よくロロは海を見てみたいと言っていた

 ウミがペンダントを無事に持って帰ってこればそれをつけてアカネと海を見に行くのもいいだろう

「私は構わないが、私とでいいのかい?」

「僕がアカネと行きたいんだ」

 アカネ本人は理解していないようだが僕はアカネに拾われたことを本人が思っているよりもずっと感謝している

 独り、というのは存外怖いし不安になるものだ

 だから僕は孤独が怖い 

「そうか、でも残念なことに今の海は汚染されて昔のように綺麗ではないがね」

「それでも、いいんだよ……底無しは、どっちについてくるのかなー」

 残念そうにそう言うアカネに僕はただ、底無しの頭に手をおいて笑ってそう答えた

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