「……バレてたか」
「むずかしいおはなしおわったー?」
アカネさんの言葉に気まずそうなトトちゃんと楽しそうな底無しちゃんがドアを開いて入ってくる
「君がそう簡単に言うことを聞くとは思っていないからね」
アカネさんは笑いながらトトちゃんのおでこを小突く
「げー、信用ゼロじゃん」
「そういうことではないさ」
「……なんか、途中で僕達が聞くべきことじゃあないなって思ったんだけど……ごめん勝手に聞いてて」
トトちゃんは私たちのほうを見ると何度か視線を行き来させてから素直に謝罪の意を述べる
「別に気にしてないよ!」
「私も、構いません」
私もソラちゃんも即答でそう返す
むしろあんな話を聞かせてしまって申し訳ないくらいだ
なぜなら彼らもこの事件の被害者なのだから
「さて、今日は色々と疲れたろうがもう少しだけ付き合ってもらえるかな」
「はい!」
アカネさんの言葉に少し曲がってしまっていた背をピンとはる
「……そもそもゾンビなので疲れませんよ」
逆にソラちゃんは呆れたようにそう返した
「さぁ二人も座って」
だがアカネさんも気にする様子もなく二人にも座るように促す
そんなやり取りを見ていて、この五人が揃ってから今までで一番ギクシャクしていないこんな穏やかな瞬間が、ずっと続けばいいのになんて考えてしまう
「まず、一通りの遺恨がなくなったわけで、これから一番最初にしないといけないことだか、ユートピアを稼働させる為にまずはゾンビイーターの本拠地にいるであろうヨハネを叩く、それに異論はないかな?」
「……はい!」
でもこれは一過性のものであり、この先にあるヨハネ打倒も、私に対する追っても、消えてくれることがないことはしっかりと自覚している
それが私の罪なのだから
これは罰だ
「……私も異論ありません」
「っ……」
ソラちゃんの手に力が込められてびくりと身体が震える
あの後からソラちゃんは一度だってこの手を離していない
それが私を励ますためだということは、ちゃんと理解している
だから私はまた、しっかりと前を向いた
「さて、そこで問題となるのが人員だが……すまないね、ちょっと待ってくれ」
アカネさんは話ながら鳴った手元の端末に目を通す
「なるほど、これはタイミングが良いのか悪いのか……」
「どうしたんだよ」
アカネさんがそれを見ながらくつくつと笑いトトちゃんが苛立たし気に問いかける
「……ちょうど向こうさんも動くらしい、トウド地区に拠点を置いているのがこの一ヶ月で索敵されたようでね、三日後の夜、ここら辺一体にゾンビイーターの本軍が進行してくる」
「それは……」
良いことだと言えるのだろうか
最悪でも三日後にここら辺一体が焼け野原になる可能性があるということにもとれる
「ただ、力も分散されるわけだから見ようによっては転機ともとれるかもしれないね、何せ相手はこっちがいつ進行してくるのか気付いていることに気付いていないからね」
「確かに、それは大きな利点となりますね」
アカネさんの言葉にソラちゃんが頷く
確かに、いつ来るか分からない相手に気をすり減らすよりも幾分か気も楽になるだろう
それでも三日という確実な期日が出来てしまうのは少し怖い、というのが事実だ
「そう、だからこちらも戦力を分けて迎え撃とう、まず、本陣をこことした時に防衛として残るのは……トトと底無しちゃんの二人と私だ」
「なんで僕も残る計算なんだよ」
アカネさんの分配にトトちゃんが苦言を呈す
「底無しちゃんに関してはその戦闘力の高さと破壊力もあるからあまり隠密行動に向いていない、そして情緒的なところで言えば誰かがついていないといけなくなるからね、私がいるここに残すのが一番と考えた、トト……君に関しては、君の力を評価した上で……いや、一緒に戦って欲しいと私が考えたからだ、私情こみこみで申し訳ないね、まぁ、三人の中なら君の戦いかたが一番よく分かっているから動かしやすいというのもあるが」
「……それなら、まぁ、仕方ないな、うん」
だがトトちゃんはアカネさんの言葉を聞いてぶっきらぼうにそっぽを向く
流石にこれが照れ隠しであることぐらい皆気付いているだろう
「ということは……」
「そうだね、本拠地にはソラちゃんとウミちゃんの二人で行ってもらうことになる、二人の付き合いはそれなりに長いわけだし戦いかたも心得ているだろう、そして、ウミちゃんには切り札となるダイチくんがいるし、君、ソラちゃんには新しい刀もあるから大規模な戦闘にせずに隠密行動も可能だろう、どうだろうか、意義があれば聞こう」
アカネさんの分配は私からしても全うであり、誰も意義を申し立てるものはいない
「さて、無いようだから最後にひとつだけ、皆、かならず生きて……全員でまたこうして宅を囲もう、作戦の開始は、守備陣営は三日後、それまでに準備を整える、攻撃陣営は距離を考慮しても明日の夜には発ってもらうことになる、それまでゆっくり身体を休めてくれ」
こうして、私達の最後の戦いが静かに幕を切って落とした