場所は変わってゾンビイーター本拠地
「んー、そろそろいいか」
あたしは時計を確認してフーカの口を塞いでいたテープをはがす
「ぷはっ……! ヤマト、自分が何したかちゃんとわかってるんですかねぇ! 自分意外とぶちギレ状態なんですけど」
テープを剥がされたフーカは勢いよく怒鳴り付けてくる
まぁいきなり拘束されて猿ぐつわの上に一ヶ月放置なんてことをされればそりゃぶちギレても仕方ない
というかあたしだったとしても理由知らなきゃぶちギレてる
「ああ、勿論分かってるって」
あたしは返事を返しながらゾンビイーター用に強化された拘束具を全てはずしていく
「じゃあ今ここで自分に殺されても文句言えないのも分かってるよね」
拘束具が外されきるとフーカは勢いよく立ち上がって手の骨をポキポキと鳴らす
「……いくら強化してもお前ではあたしには勝てないだろう」
フーカもハイスコアラーではあるがはっきり言ってあたしに勝てるとは思えない
本人もそれは理解しているはずだが
「だぁー! そういう正論言うところ本当に嫌い! 説明ぐらいはしてもらえないと自分の怒り収まらないんだけど」
フーカは叫びながら自身の頭をがしがしと強くかく
「それは……フーカ、お前が殺されない為だよ」
「はぁ!? どういうこと!?」
フーカが殺されないためというのは当然のごとく事実ではあるのだがやはり簡単には飲み込めないらしい
あー、ヨハネ博士とカナタの二人の間に挟まれているあたしのことももう少しおもんばかってほしくなってきた
「あーもう! 板挟みにされるあたしの身にもなってくれ! 一ヶ月間お前も含めてゾンビイーターを動かしてソラとウミに攻撃することを止めろって言われたんだ! それを許諾しないとあたしも死んでたかもしれないし、頬って置けばお前は確実に殺されてたんだ!」
あたしも半ギレ状態でフーカに怒鳴り返す
「誰に!?」
「カナタだよ!!」
「はぁ!? カナタがなんで!? やっぱりソラと繋がってたんだ!」
カナタ、という名前を聞いてフーカは憤慨した様子で辺りを見渡す
「それは分からんがもうこの建物内にはいない、探しても無駄だぞ……」
お得意の糸での索敵をしようとしたのだろうがあたしはそれを止める
ここを出ると本人が言っていたし外まで糸を飛ばして見つけたとしても百パーセントフーカでは勝てない
何よりもこの後の作戦においてフーカまで独断専行されてしまえばこちらの勝率がぐんと下がるからあたしとしても困るのだ
「っていうかカナタぐらいの相手になんで遅れ取ってるんです!? 自分でも倒せる相手に……」
「いや、手も足も出なかった……おそらく二人がかりでも勝てないぞ、あれでも本気ではなかったようだし……能ある鷹は爪を隠すってやつだろう」
そう、カナタはフーカの言うように戦闘力においてはゾンビイーターの中でもそれほど上位としてカウントされたことはなかった
いつもソラだけは彼女を過剰評価していたが実際のところはソラの言っていることが正しかったというわけだ
「信じられない……ヤマト、自分それでもハイスコアラーのトップですか? 一子報いないでどうするのー!」
「無理言うなよ……あんなの勝てっこない」
ぷんぷんと怒りながらフーカがあたしの肩を叩くがそれをどうどうとたしなめる
「いつものあたしは強いって自信はどこに行ったのさぁ……」
何度か叩いた後にあきらめたようにフーカは叩くのをやめて呆れた様子で両手を上に伸ばす
「力量の違いを見抜くのはあたし得意だからなぁ」
「うっわ、へたれ」
自信満々にそう言えば向けられた瞳は呆れの色をしていた
「うるさいぞ」
あたしはいたたまれなくなって少し顔を反らす
「さて、それは置いといたとして……カナタに言われるがままに自分を一ヶ月も拘束してたあなたはどうするか」
「な、待っ……理由は説明しただろう」
フーカの不穏な言葉に慌ててそちらを見ればすでに天に向かってつきだされた両手には沢山の粘糸を生み出していて、フーカが存外一度キレるとしつこいことを嫌でも思い出した
「許すとは言ってない」
「待て待て待て、ちゃんといい話もあるから!」
別にこのままぶつかってガチンコして止めるでもあたし的には問題ないが何度も言うがこの後のことには万全の体勢で挑みたいので必死にフーカを止める
これ以上ヨハネ博士の小言を聞くのも流石に疲れる
「……聞いてだけあげる、あまりにくだらなかったら切り刻むんで」
フーカは一応聞いてはくれるようで粘糸を纏った手を下げる
だがいつでも攻撃にてんじれるように手のなかで糸は生成したままだ
「……カナタの出した期限、一ヶ月はちゃんと手出しはせずに待ったからな、その間に調べて今現在ソラ達がいるであろう近辺は絞った、いるであろう場所だがホッカイドウ区域の中でもパンデミック後に異常気象を起こして原則立ち入り禁止となっているトウド地区だ、さすがアカネ博士だよく考えた場所に拠点を置いている」
あたしは持っていた地図を開くとその場所を指差す
「トウド地区だとゾンビの力はかなり減少されるもんね」
そう、ゾンビは寒いことや冷たいことにはめっぽう弱い
そのせいで探知の得意なホシノとフーカを封じられたなかでの探索は難航してこの一ヶ月をかけてやっとのことで地区だけを絞りきれたというわけだ
「そういうことだ、だからこそお前の力が必要になる、3日後、深夜、全軍率いてトウド地区を一掃する」
あたしは言いながら赤ペンでトウド地区、そのなかでも絞り困れた場所に大きく丸をつける
そして
「今回の進軍における総大将は、フーカ、お前だ」
今回の作戦における最重要事項を伝えた
「……マジ?」
驚いた様子のフーカの手からはバラバラと粘糸がこぼれ落ちた