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第83話 聞くための覚悟

 それから私達はショッピングモールを後にすると早々にアカネさんのシェルターへと戻った

 シェルターへ戻るまでの間のソラちゃんはあまりにも暗く、私は何も声をかけられなかった

 当たり前だ

 自分に何があったのかを知る覚悟をしたといってもつい最近のことで、そこからさらに自身が二度死んでいるなんて告げられれば誰だって混乱するだろう


「ねぇ、何でやっとホシノとの因縁に決着がついたのにそんなお通夜状態なわけ?」

 シェルターに帰ってきた私達を迎え入れてくれたトトちゃんが訝しげにそう聞いてくる

「元気がでないならー、あそぶ?」

 そんなトトちゃんの横からひょっこりと底無しちゃんが顔を覗かせる

 最近は底無しちゃんの情緒も安定していることが多くて嬉しい限りだ

「トト、底無しちゃん、今は頬っておいてあげよう」

 そんな二人をアカネさんが軽くいなす

「わかった!」

 底無しちゃんは元気な返事を返してそのまままた間の抜けた歌を歌い出した

「……別に構わないけど……何があったのかは教えてくれない?」

 逆にトトちゃんはそれを許諾しながらも何があったのかを問い詰めてくる

「後で、ちゃんと説明するから少しの間三人にしてもらえるかな」

 そんなトトちゃんの頭をアカネさんはポンポンと叩いてから部家を出るように促す

「……わかったよ、行こう」

 言いながらトトちゃんが底無しちゃんの手を取る

「えー、どこいくのー?」

「僕の部屋、一緒に遊ぼう」

「あそんでくれるの! やったぁ!」

 底無しちゃんは嬉しそうに飛びはねながらトトちゃんについて部家を出ていった

 最近トトちゃんと底無しちゃんはよく二人で何かをしていることが多い

 喜ばしいことのはずなのに、そんな二人を見ているとふとロロちゃんやリアちゃんのことを思い出して胸が痛くなる時がある

「気を、使わせてしまいましたね」

 ソラちゃんはそんな二人をどこか遠い目で見送りながらそうつぶやく

「まぁ、仕方ないさ、さてそうだな、まずはコーヒーでも淹れようか、決して短い話ではないからね」

 そう言いながらアカネさんはすぐに備品入れからスティックタイプの溶かすコーヒーを取り出して二つのマグカップへと中身をあける

「すぐに淹れるから座っていてくれ」

 それを持ってお湯を淹れにアカネさんは少し離れたケトルのほうへと歩いていく

 前にいたアカネさんのラボ兼シェルターでも思ったことだがアカネさんは本当に用意周到だと思う

 生活に欠かせない必需品だけではなくコーヒーなんかという嗜好品もちゃんとどちらの施設にも常備しているからだ

 アカネさんのシェルターに来てからあれ程外で生活する時は大変だった衣食住に何一つ困ることはなくなった

「ソラ、ちゃん」

 ガタッと椅子を引いて座るソラちゃんに私はなんとか声をかける

「はい……」

「やっぱり、怖いよね、忘れていることを思い出すのは」

「ええ、まぁ……」

 ソラちゃんは返事こそしつつも心ここにあらずといった様子で

「でも、何があっても私はいるから……」

 勇気づけたくてつい、そう言った

「あなたが死んでも、私は死なないかもしれないのに……?」

「……それは」

 ソラちゃんの返答に返す言葉もない

 ソラちゃんはすぐに自身が言葉を間違えたと思ったのか義手ではないほうの手で自分の口を押さえた 

「すみません、嫌なことを言いましたね、忘れられるのなら忘れてください」

「……うん」

 ソラちゃんの気持ちをくんで頷きこそしたもののソラちゃんの言っていることが間違っているなんて思ってもいなかった

 実際にどうなのかまではわからなくとも人間で、それでいて無鉄砲な私が先に死ぬ可能性が高いことぐらい考えなくても分かることだ

 そして残された人の痛みも

「さて、お待たせして悪かったね……って、さっきよりも空気が悪くなっているじゃないか、一体何があったのかは……聞かないでおこうか」

「すみません……」

 アカネさんは二つの湯気の立つマグカップを持って戻ってきたもののあきれた様子でそう言いながらも特に追求することなく私と自身の席の前にコーヒーを置いて自分も座る

 そして私達の顔を順番に見据えてから話を続けた

「でもね、何度も言うが……私がこの事を全て話そうと決めたのは今の君たちならもうこの事実と向き合えると判断したからだ、私の話を聞いて落ち込んで、今後の戦いに支障を来す、なんてことはやめてほしい」

「そ、れは……」

 アカネさんの強い言葉にソラちゃんがたじろぐ

 だがアカネさんは止めることなく続ける

「もし、まだこの話をするのには早かったと判断した場合、途中だろうと止める、と言いたいが……途中まで聞かせてはいそこで終了となっては逆に集中出来ないだろう、だから一度話し始めたら最後まで止めることは出来ない、聞くのを止めるなら今が最後のタイミングになるが……大丈夫かな?」

 アカネさんは優しく、それでいて釘を刺すように私たちに問いかける

「私は、大丈夫です」

 私はすでにダイチとの会話の時点で心はきめていた、だから迷うことなくそう答えられた

「……私も覚悟はしています」

 そしてソラちゃんもそれを承諾する

「よし、わかった……それじゃあ始めようか」

 アカネさんはそんな私達を見ると一度コーヒー口をつけ

「まず大前提としてだが、私とヨハネ、ヨルさんは三人で共同研究をしていた、その研究内容は表向きはどんな病気にも効く万能薬の研究、しかし実際は……寿命のつきそうなもの達の寿命を無理やり伸ばしたり、死者を生き返らせる方法の研究だった」

 そこまで言うとマグカップを置いて続きを語り始めた

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