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第82話 二回死んで二回生き返った

「私は……姉さんに特別扱いされていたわけでは――」

「されてたよ、何よりも大切にされて、守られてた、だってそうでしょ? そうじゃなければわざわざ記憶の改変なんてしない」

 ソラちゃんの言葉に被せるようにホシノが語る

 また、記憶の改変の話が出てきた

 私含めソラちゃんの記憶が改変されていること自体は私も知っているし、アカネさんの話からもソラちゃん自身理解している

 その話自体もホシノやヨハネのことをどうにかした後に月陽の都の話と同様に話してくれるということをアカネさんと約束もしている

「そ、それは……」

 だが理解しているだけであり、それをしっかりと飲み込めたのかというとそうではない

「それに、あんただけ二回も死んだくせに二回とも、生き返らせて貰ったじゃん」

「……え」

 助け船を出さなければ、そう、思っていたところにホシノが決して小さくない爆弾を投げた

 ソラちゃんは小さく言葉を漏らして固まり、私は、何も言えなかった

 ソラちゃんは二回死んで、二回生き返った

 それは、どういうことなのだ

「覚えてないんでしょ? どうせ、忘れてたほうが幸せだから、狂ってるよ、あんたもヨルも」

「わた、しは……」

「ソラちゃん!」

 ホシノの言葉にどんどんと顔を青ざめていくソラちゃんの手を強く握る

「そんな顔しなくてもいいじゃん、大丈夫大丈夫、次に死んでもまた生き返らせてもらえるんだから」

 ホシノは言いながらまた、笑う

「あ、姉は……もう死んで……」

 ホシノが優位に立てば立つほどにソラちゃんの表情が悪くなる

 私はそれを止めたいのに、私が入っていける部分を見つけることが出来ない

「姉だけじゃない」

「……っ」

 そんなソラちゃんに畳み掛けるようにホシノは続ける

「ヨルは死んだけどまだまだ守ってもらってる、だから死なないし死んでも生き返らせてもらえるから、アカネが死んでも、仲間が死んでも……ウミが死んでもあんただけはずっと生きていられる、大切だったものすら忘れて、でもそれって……本当に幸せなことなのかな?」

 そして、最後にこてんと、頭を傾げて見せた

「なんの、話をして……それに何でホシノはそんなに、私のことに詳しいんですか」

 ソラちゃんのごくごく当たり前な疑問にホシノは吹き出して腕を振る

 だがそれは実際に私も気になっていたことだ

 何故ホシノはソラちゃんだけじゃなく時には私のことにもここまで詳しいのか

 まるでアカネさんやヨルさんのようにその場を見てきたかのようにホシノはその場面をよく語る

「私の異能は脳喰、奪った相手の記憶も流れ込んでくるから、色んなゾンビの色んな記憶に触れる機会があった、だから私はあんたに何があったのかも知ってる、それだけだよ」

 ホシノは言いながらトントンと自身の頭を叩く

「ソラ……ちゃん」

 これ以上、聞かせてはいけない

 そう私のなかで警笛が鳴る

 だがホシノが止まるわけもなく

「折角だから全て教えてあげようか? この世界は果たしてなんでこんなことになってしまったのかも含めてソラ、あんたの過去も」

「そ、れは……」

 いつもの笑顔を浮かべながら問いかけるホシノとは逆に自身の口許を手で覆ったソラちゃんがくぐもった返事を返そうとした、その時だった

「っ……え、何この揺れはっ!」

 突如として地面が大きく揺れだしたのだ

「ウミさん! 捕まってください!」

 すぐに正気を取り戻したソラちゃんが私のほうへ手を伸ばす

「う、うんっ……」

 私はそれを慌てて掴むが揺れは収まることはなく

「マジかー、そこまでする普通――」

 そのまま上の階の床が崩れてホシノの上へと降り注ぎ、そのまま私達のいた床すらぶち抜いてそのままホシノと一緒に地下へと飲み込まれていった

「ホシノっ……」

「ソラちゃん! 危ないからっ!」

 咄嗟にソラちゃんがホシノのほうへ手を伸ばすが慌ててその手を掴んで引き戻す

「ですがっ……」

「ソラちゃん!!」

 それでもなおホシノの落ちていった先に視線をやるソラちゃんをたしなめるように声を粗げる

 おそらく、ソラちゃんはホシノを心配しているわけではない

 そもそも私達の目的はホシノを殺すことなのだから

 きっとソラちゃんはホシノの語る真実が欲しいのだ

「っ、しまっ――」

「たく、本当に君たちは二人きりにすると危ないことばかりする」

 崩れた地面に踏み込み過ぎて床に大きく亀裂が入り落ちる、そう覚悟した瞬間強く私達はうしろに引き戻された

「アカネさん……!」

 私達を引っ張ったその人を見ればやれやれといった様子で中指でメガネを押し上げた

「ソラ、君のことはこの後ちゃんと……私から話す、だからとりあえず逃げよう」

 アカネさんが諭すとソラちゃんも何とか頷く

「これは、アカネさんが……?」

「いや違う、私は何もしていないが、ショッピングモール自体が限界だったのかもしれないな、とりあえず早くここを出たほうがいい、どんどん崩れていくかもしれないからね」

 いきなり、まるで故意のようにホシノのいた場所だけ床が抜けてその震動から周りも崩れ始めたところを見るにアカネさんが意図してやったことなのかとも思ったがどうやら違うようで

 私の考えすぎだろうか

「ホシノは……生死の確認とかしなくていいんですか?」

 私も落ちない程度にホシノの落ちていった虚空を覗く

「うーん、したほうがいいのだろうけど、この状況で生きているとも思えないし、生きていたとしても身体を真っ二つにされればいかにゾンビでも治らない、そのまま身体が限界を向かえて機能を停止するだろう、だからまず私達は自分のことを考えてここを出よう」

「は、はい……」

 だがアカネさんからの制止を受けて私は早々に穴を覗くのをやめて出口に向かおうとする

「ほら、ソラ、君も早く!」

「わか、ってます……」

 言葉では分かっていると言いながらも動きだそうとしないソラちゃんの手をもう一度強く握る

「ソラちゃん、私もいるから……行こう」

「……っ、はい」

 私の言葉を聞いて、ソラちゃんはなんとかその場を離れた

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