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第80話 私はあなただったかもしれない

「ソ、ラ……なんでここが……後ろから追っかけてきたわけでもないくせにっ……」

 ホシノは切り落とされた腕に一瞬視線を向けたがそのまま肩の切り口を押さえて後退する

「……それをわざわざ教えてあげる程優しくないですよ、それにもうあなたは終わりです」

 ちょうど真上の天井をきれいにぶち破って現れたソラちゃんはそのまま刀をホシノへ向けた

 私もその間にソラちゃんのほうへと移動する

「くっ……ああ、分かった……最初の狙撃は私の頭を狙って外したもの、ではなかったわけだ、やってくれる」

 そう、最初のシャンデリアや誘導は全てアカネさんの撃つ探知機能を持つ弾丸をホシノの身体に埋め込むためのものだ

「……これは」

 そして、私達の後ろで降りるシャッターを見てもうひとつの自身のミスにホシノも気付いたようだった

「袋小路に誘い込んだ、とあなたは思っているでしょうが、誘い込まれたのはあなたのほうですよ、ホシノ」

「私が操れるゾンビとの分担……それも狙いってわけか」

 元々私達はホシノの知能がどれ程残っている場合でも対応が可能なように合流地点も決めていたが今回はそれを使う必要はなかった

 私が合流地点に向かっていると勘ぐってゾンビを使い袋小路に誘い込んだ

 本人はそう思っていただろうが実際のところはこちらの手のひらの上

 私とソラちゃん対ホシノの盤面が揃った時点で袋小路を閉じる形でアカネさんが防火シャッターを下ろす

 そうすることで退路を絶つと共にホシノが操れるゾンビをゼロにする

 そういう算段だ

「あなたとの因縁も、長かったですね、それがやっと今、終わる」

 ソラちゃんは両手を失くして武器すら持てないホシノの前に立つと静かに刀を振り上げた

 そして

「……」

「ソラ、ちゃん……?」

 そのままソラちゃんは刀を振り下ろすことなくゆっくりと構えを解いた

「あははっ! この瀬戸際で上手く行くとは思わなかったなぁ」

「……ぐっ!! ソ、ラ……ちゃんっ」

 ホシノの笑い声と共にソラちゃんが私を地面に押し倒して首に手を掛ける

「まさか、土壇場でこんなことになるなんて……」

「これは、まさか……っ」

 ソラちゃん自身自分の行動に動揺しているようで、すぐに何が起きたのか分かった

「ソラの身体の操縦権を奪った、逃げようにも防火シャッターが降りてて逃げれない、策士策に溺れるってねー、これで形勢逆転」

 けらけらと楽しそうに笑いながらホシノが私達に近づいてくる

「ウミさんっ……私――」

「無駄な話はしなくていいよ、煩いだけだから」

 何かを言おうとしたソラちゃんの頭を自身の残っている、片方の手首から先のない腕でポンポンと叩いて止める

「ねぇウミ、今、どんな気持ち?」

 ホシノはかがみこんで私の顔を覗き込みながらそう、言った

「ホシノ……」

 私は力なく彼女の名前を呟く

「散々私のこと煽っておいて大切なお仲間さんに組みしかれて首には刃を当てられて、命の手綱は私が握ってる、それがどんな気分なのか、残念ながら私には足手まといな人間の仲間も、むざむざ敵に操られるようなゾンビの仲間もいないからさぁ、申し訳ないけど分からないや」

 それだけ言って、ホシノは私の額にも触れる

 そんな彼女の手首を切り落とされた切断面は何も手当てやケアなどがされた様子もなく、ただ痛々しい、それだけだった

「くっ……!」

 ソラちゃんは何とか身体の主導権を奪い返そうとしているのか手に握っている刀がカタカタと小刻みに震える

「ソラも、そんなに抗っても一度私が握った主導権をそう簡単に奪い返せないことぐらい分かるでしょー」

 そしてそんなソラちゃんをホシノがただ嘲笑う 

「あ、大丈夫だよ、そう簡単には殺さない……とか、昔の私だったら言ってたと思うけど、今の私にはそんなもの楽しむ余裕もないし、第一それを楽しいと思える程に理性が残っているのかどうかもあやしいところだし、スパッと斬ってスパッと殺してはいおしまい、にしてあげるから、勿論ソラもすぐに一緒のところに送ってあげるから安心して?」

 それからも気分が良いのだろう

 いつもの笑顔を浮かべながらただひたすらに私達を陥す

「だってそもそもさ、世界をこんなにしておいて自分たちだけはい幸せになりますー、なんてエゴ通じると思う? あり得ないよね、だって全部、自分達で蒔いた種なのに……」

 そんな彼女を見て私は

「……ホシノ、あなたは……私だったかもしれないし、私はあなただったかもしれない」

 気付いたらそう、言っていた

「……は?」

 勿論ホシノは訝しそうに唸るけど

「あなたは……自分だけが生き残って、大切な人だけが死んだから、それを乗り越えられずに今を生きてる」

「……」

 でもそれすら気にせずに私はただ、淡々と

「少し前までは私だって自分のことなんてどうでもよかったよ、弟を殺した私が生きる価値なんてないって思ってたし、死のうとしたことだってあった」

「……めろ」

 ダイチに教えて貰った人を煽る方法とか関係なく

「そういう点では同じだったかもしれない、でも私はソラちゃんと出会った、出会って、いろいろなことを体験して、経験して、嬉しいことも、悲しいことも沢山あって、それでやっと自分が生きているっていうことを今、赦せそうな自分がいる」

「……やめろ」

 ホシノが拒絶の意を見せても

「でももしこれで今度はソラちゃんを失ったら、私もあなたと同じになる可能性だってある、だから私は……あなたが嫌いだけど、心の底から恨むことが出来ないの」

 止まることなく

「やめろよ!!」

 そう、言いきっていた

 あまりにも彼女が、可哀想だったから

 ホシノの怒鳴り声と共にソラちゃんが刀を振り上げる

「んっ……」

 瞬間私はソラちゃんの首に腕を回すと半ば噛みつくようにソラちゃんの唇にキスをした

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