私はそのままの勢いでただショッピングモールを目指した
そこは雪の降り積もる中にポツンと立ち、それでいてそこまで倒壊はしていない大きなショッピングモールだった
トーキョーから始まったおいかけっこもついにホッカイドウまで到達してしまうとは
始まった場所で
終わった場所
そんなこの地でまた一つの因縁が清算されようとしているなんて本当に笑えるし神なんていないのだと再三実感できる
私はショッピングモールに入るとまずあの白髪を見たであろう場所、二階を目指して吹き抜けから飛び上がりガラスで出来た壁に捕まりよじ登る
確か、ここで見かけたはず
ゾンビの視界を使って見かけたのは数時間前
思っていたよりも近くにいることに勇んでここまでやってきたはいいが食料を探す為なのであればもうここにはいない可能性もあるのではないだろうかと一抹の懸念が頭をよぎる
「くそっ……頭が、どうしても回らない……なんなんだこれは」
最近ずっと、頭のなかで何かが霞がかって思考の邪魔をしてくる
それが煩わしくて仕方ない
「……っ、見つ、けたっ!!」
瞬間視線の端にあの忌々しい白い髪の毛が写った
私は勢いよく走り出してその後を追いかける
この先にあるのは、なんだ?
そうだ、階下に降りるための止まったエスカレーターだ
私の声で私がいることに気づいたのか逃げる気なのか
ここまで来て、ここまで追い詰めておいて逃げられるなんてそんなこと、絶対にあってはならない
エスカレーターをかけ降りる揺れる白い髪の毛を見つけて私はそのまま吹き抜けを飛び下りて我先にと一階に到着した
これで私が先手を取った
そう、思って白い……ウミのほうを見ればエスカレーターの途中で降りることを止めていた
そして、その表情を見て嫌でも理解した
追い詰めたのは私ではなく、私が追い詰められていたのだと
「ソラちゃん! 落として!!」
「っ……」
ウミのその言葉を合図に私の上でパンデミック前は照明として機能していたであろうそれ
シャンデリアが大きく揺れて私の上に落下してくる
一瞬スローになったそれに私は、避けるすべもなく押し潰された
「……ソラちゃん、ホシノ、倒せたかな……」
私は答えなんて分かっていながら一応確認のためにソラちゃんに聞く
「いや、あれぐらいで死ぬようでしたらすでに私に殺されているでしょう」
「そっか……」
まぁ、それは私にだって分かっていた
彼女が絶対にこの程度のことで倒せないことは
「二つ目の作戦に移りましょう、音にゾンビが反応する前に――」
「ソーラー……これ、お前が考えたの? むかつく、すっごいむかつく」
ソラちゃんはシャンデリアの下を少し覗いてから次の作戦に移ろうとするがその前に大きな音を立ててシャンデリアが吹き飛び、その下からほぼ無傷のホシノが現れた
「……私が考えたもの、というわけではありませんが――」
「じゃあ誰がこんなウザイこと用意したんだよ! もしかしてもしかするとウミちゃんかな? 意外と性格悪いんだね」
「わ、私でもないですけど……」
今まで会った時のどんな時よりもおかしい情緒でホシノが喚く
そんなホシノに本能的に恐怖を感じてジリジリと後ずさる
「じゃあ……」
「アカネです」
だがソラちゃんは気圧される様子もなくこの作戦の発案者の名前を上げる
「……アカネ」
ホシノは何かを思い出すように眉間にシワを寄せる
そんなホシノを見てソラちゃんは小さくため息を吐いて続けた
「そして、アカネも予想してはいましたがこうして相対するとよく分かりますね、ホシノ、あなたほとんど知性が残っていませんね?」
「あ゛?」
図星をつかれたのが気にさわったのかホシノが低い声を出す
「度重なる共食いのせいでしょう、ウミさんの白い髪をゾンビの視界に見つけて慌ててここを訪れたのでしょうがもしあなたの知性が残っていればこの程度の罠にはかからないのでは? ここに来るか来ないかであなたの現状を確認するのがアカネの一つ目の作戦です」
「一つ目……」
そこまで難しいことを言っているわけではない
だが一言一言反芻しないと内容を理解出来ないのかホシノがまた、言葉を繰り返す
「あなたがここに現れない場合と現れる場合でこの作戦は分岐します、あなたが来ればこうしてまずシャンデリアの下敷きにする、そこまでが二つ目の作戦です」
「……なんでそんなにすらすらと作戦を話すのかな?」
頭が回らなくなっているとは言ってもここまですらすらと作戦を話されてしまえば流石に不審に思ったのか確かめるようにホシノがねぶるようにこちらを見る
「私達はこの後にも何個かの作戦を有しています、つまりはこのまま戦えばあなたに勝ち目はないでしょう、だから――」
「だからこの戦いから身を引けってか……そんなこと出来るわけないだろ!!!」
ホシノは今までのどんな時よりも大きな声でそれを糾弾する
「っ……」
ホシノの投げたシャンデリアの欠片が私のすぐ横を掠めて大きな音を立てて壁にぶつかる
「ここまで、ここまでしてここまで追ってきたのに……あの子が誰なのかすら、思い出せなくなってしまったのに、手だって片方失ったのにっ……教えてあげる、私達は……どちらかが死ぬまで戦う運命なんだよウミ、ソラ」
ホシノは言いながらいつもの武器を取り出す
といっても片手しかない彼女が取り出したのは一丁だけだが
「ホシノ……」
ソラちゃんはホシノの名前を哀れんだように呟く
「勿論私はウミをヨハネの元に連れていく気なんて更々ない、ここで二人とも殺して、それでお仕舞い、それ以外の終わりかたなんてないんだよ」
そしホシノは銃口をこちらへ向けた
「そう、ですか……残念です」
それを見てソラちゃんはあきらめたようにため息を吐くとこの一月でつくって貰った義手を使って新しく用意した武器……刀身の蒼い刀を引き抜いた