ヤマトに啖呵を切ってから私はひたすらにゾンビの視界を覗いていた
だがどれだけ、覗いても、覗いても覗いてもあいつらは見つからなくて
ただイライラが募っていく毎日だった
私の異能がバレているということが本当に腹立たしくて、でもこれだけのゾンビが世界中にいるのにその前を一度も通らないなんてことは生きているなかで実質不可能だ
だからいずれ、見つけられる
そう、自分を落ち着かせながら手近なゾンビを補食して、より一気にたくさんのゾンビの視界を奪えるように自身の異能を強化していく毎日
ヨハネのおばさんはオメガウイルスの追加投与なんていうバカなことをしているみたいで
それを受けることも考えたがまぁ、三ヶ月という制約がついてしまうのはこちらとしてもあまり看過できないデメリットだ
それまでに殺せなければ私の負けになるのだから
だから私は補食で力を底上げするほうを選んだ
「あ、れは……」
そんなことを続けていたある日、ついに
視界の端にあの忌々しい白い髪の毛が映った
見間違えるはずもない、あんな髪色の人間がそうそういてたまるか
場所は……ここより更に北のほう
大きなショッピングモールのなか
ということは食料でも探しに来たのだろうか
「くっくく……」
私は口から漏れる笑い声を止めることが出来なかった
やっと見つけた
散々私をこけにしてくれたウミ、あいつだけは絶対に殺しておかないとどうしても癪が収まらない
ソラもそう
誰かと群れることでしか生きられないようなあいつらに私が負けるなんてことがあっていいものか
私は……あの子が死んでからずっと一人で生きてきた
なんであいつが選ばれてあの子は選ばれなかったのか
なんであいつは生き返ったのか
考えれば考えるほどに頭がひたすらに痛くなる
元々なにかを考えながら行動するほうではなかったが共食いを始めてからより頭が回らなくなってきた感覚は実感していた
それだけリスクのあることだということも勿論理解している
それでもあいつらを殺すためならそんなリスクなんてことない
あいつらを殺して、それを手土産に私もあの子のところに行きたい
そう、殺さないと、殺さないと殺さないと殺さないと
ああ、頭がガンガンする
痛いとか、そういう感情はゾンビになった時にとっくのとうになくしているはずなのに最近はずっと、頭痛に近い何かにさいなまれ続けている
それが起きる度に、私のなかから何かが消えていくような感覚に襲われる
でも何が失われているのかなんて、私には分からない
「違う、行かないと……」
私はゾンビの視界を切ってゆっくりと立ち上がる
ウミを、ソラを殺しに行かないと
……あれ、なんで私はあの二人を殺さないといけないんだったか
ダメだ、思い出せない
ただ、殺さないといけないということしか、思い出せない
誰のため? なんのために?
思い出せない
それでも、殺しに、行かないと
きっとこれが、私とあいつらの最後の戦いになる
何故かそれだけは……はっきりと頭のなかで理解していた
一体私は……誰のところに行きたくて、誰のためにあいつらを殺そうとしているのだろうか
ああ、何も……思い出せない