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第74話 全てがあなたの為だから

「シズクが死んで、ユウヒが死んで、フーカが動き始めた……ヤマトも既に動いている、か……」

 私はいつものようにタロットをシャッフルしながら色々なことを頭のなかで考えて、纏める

「これで決めようかな」

 シャッフルしていたタロットカードを机の上に置くと一枚、捲る

 出たのは力の正位置

「……なるほど、それじゃあそろそろ動く頃合いってところかな」

 私はずっと大切にしていたタロットカードをばらまくとマッチを擦って火をつけてその火種を、落とした

 パチパチと燃えるそれを暫く眺めていたがそんなことをしていても無駄だと悟り早々に切り上げる

 まず、やらないといけないことは

 私はそのまま彼女がいるであろう場所に向かって迷わず歩いていく

 彼女はゾンビなのにルーティーンがしっかりしているから大体の行動が分かるのは大変ありがたい

 ほら、見つけた

 私はゆっくりと彼女に近付いて後ろから刀を思い切り、振り下ろした

「あっぶな!! え、え、カナタ……何してるんだ!?」

 残念、彼女は妙に野生の感が働く節がある

 相手が彼女、ヤマトでなければこれで終わっていたのに、本当に残念だ

「避けないで欲しかったんだけどなぁ、あんまり、あなたみたいなバカ力と正面衝突は避けたかったもの」

 私は短刀を逆手に構え直して反撃に備える

「……随分といきなりなご挨拶じゃないか? やっぱり、ソラ達の元につきたくなった、とかそういうことか?」

 だが思っていたような反撃は返ってこず呆れた様子でそう返すだけだった

 ヤマトのあまりにも的外れなセリフに私はつい吹き出してしまう

「何が、おかしいんだ」

 そんな私にさすがのヤマトも少しだけ怪訝な表情を浮かべる

「おかしいも何も、おかしすぎるわよ、ソラ達の元につくためにあなたを殺そうとした、なんて思っていることがよ」

 そう、そんなバカな勘違いしていることが本当におかしくて仕方ない

「……お前は、ヨルさんとも仲が良かったし、ソラのことも目にかけていただろう、そんな的外れなことは言ったつもりはないが」

 確かにまぁ、はたから見ればそう、写っていたがしれない

 でも実際は

「的外れも良いところよヤマト、私は確かに色々とソラちゃんにしてあげていたけれど……一度たりともそれがソラちゃんの為だったことはない」

 これが事実だ

「なんだって……?」

 ヤマトは自分の耳を疑うような表情で聞き返してくる

 本当に、この子はゾンビの癖にゾンビである自覚が薄すぎる

「私が、今までソラちゃんの逃走を幇助していたのも、アカネさんに情報を横流ししていたのも、全て……ヨルの為でしかない」

 そう、全ては、ヨルの為で、それ以上でもそれ以下でもない

「お前、そんなことしていたのか……それをここでバラして、この後どうなるか分からないほどバカではないだろう」

 確かにまぁ、逃走幇助に情報の漏洩なんてことがヨハネの耳に入れば即刻私は処分するという判断をするだろう

 でも

「……どうなるも何もないわ、私は、ここを出る、誰も私を止められない」

 私は今日ここを出る

 だから何の問題もない

「あたしが今ここで止める」

 だが何を思ったのかヤマトは拳を握りしめて臨戦態勢を取る

「止められる、本気でそう思ってる?」

 本気でそう思っているのであればお笑い草だ

「あたしはこれでもハイスコアラーだ、止められないと、思っているのか」

 多分、本人も言っているがハイスコアラーだから、とか、指揮を任されているからとか、そういう使命感の為にこうして拳を握っているのだろうが

「いいわよ、かかってきなさい、子犬ちゃん」

 それがどうにもちゃんちゃら可笑しかった

「後悔、するなよ!」

 ヤマトの一撃目はキレのある右ストレート

「ハズレ」

 それを私は最低限の動きで避ける

「はい、またハズレー」

 それからまた繰り出された拳を避ける

「くっ……」

「残念ハズレ」

 そしてもう一撃、避けてから

「この辺り、かしら?」

 ヤマトの背中を押して地面に倒すとその上に座る

「な、なんだお前……その動きは……まるであたしがどう動くか分かっている、みたいな」

 そのまま両腕を封じてしまえばはい、私の完全勝利

 分かっているみたいな、なんてものではないだけれど

「さてここで質問です、私の異能はなんでしょうか?」

 私は少しだけ、ほんのお遊びとしてそんな問題を出題してみせる

「……五感の、強化、じゃないのか」

 はい、模範解答

 まぁ、それがみんなの共通認識だものね

「残念それもハズレです」

 だから私はそれを否定してくすりと笑って見せる

「……は?」

「正解は、まぁ、教えてあげないんだけど」

 ただの戯れでわざわざこれから敵対する人物に教えてあげるほど私は優しくない

「なんだよそれ……あたしを、殺すのか?」

 何度か自分の手を拘束している私の手を無理やりほどこうとしていたがそれも叶わないと悟ったヤマトはあきらめたムードでそう、私に問いかける

「んー、殺そうとも思っていたのだけれど、今は気分がいいから見逃してあげる、ただ私を追ってきたらそのときは迷いなく殺すから」

 元々殺すか殺さないかは決めてなかったわけで、私はただ彼女に用があっただけだ

 最初の一撃で死んでいるようであればそれはそれで行動を変えただけだけど

「……お前は、何が、したいんだ」

 まぁ、気になるわよね

「私がしたいことはいつだってたったひとつ、ヨルの役に立ちたい、だから私はこれから、ヨルのやり残したことをやりに行くの、それでこれはお願い、一ヶ月は、ソラちゃんとウミちゃんの追跡を失敗するようにあなたが操作しなさい、もちろんフーカにも手出しはさせないで」

 そう、ヤマトにある用事とは、このお願いだ

「……そんなこと、聞くとでも思っているのか?」

 私に地面に組伏せられながらも睨んでくる可愛い子犬に私はつい笑ってしまう

「あら、聞くしかないんじゃない? 聞かないならここでフーカを殺していくまでだもの、少なくともフーカしかあの子達を追跡出来る状態じゃないでしょ?」

 そう、フーカの以心伝心以外であの子達を見つけられる可能性はゼロ

 ホシノは、まぁ、ゾンビの目のない場所では無能も良いところだ

「っ……次に会ったら覚えてろよ」

「負け犬っぽいセリフね、よく似合ってる、それじゃあね」

 私はヤマトの上からどくとそのまま来た道を戻りだす

「……ゾンビなのに胃に穴空きそうだよ」

「あなたのそういうゾンビの癖に人間じみたところ、なかなか嫌いだったわ」

 後ろから聞こえるヤマトのため息に私は、ちゃんとヤマトに聞こえるようにそれだけ返した

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