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第46話 光の使者

「彼女達5人のことは光の使者様と呼ぶように、これから一月寝食を共にすることになりますが彼女たちはあなた達が目指すべき存在です、何度も言いますがヨハネ先生同様に粗相のないよう」

 ヨハネを先頭に入ってきた五人の少女達は年齢も見た目もバラバラに見えた

 その中で気になったのは三人

 一人は確実にソラちゃん、これだけは間違いない

 そしてもう一人、これは恐らくになるがホシノだ

 髪の色や瞳の感じなどから今の面影を感じる

 そして最後の一人

 この人は、周りの子供達よりも結構年上に見えてそして何よりも、ソラちゃんに少しだけ、似ていた

 きっと唇を結び真剣な瞳をしたソラちゃんと違って柔らかく弧を描く瞳や上がった口角から優しそう、という感覚がにじみ出ているがそれでも血縁者であるということがよく分かる

 だが何よりも決定打となったのはその手の火傷だった

 ソラちゃん本人から聞いていた場所と同じところに火傷痕が残っている、ということは、この人はソラちゃんのお姉さん、ヨルさんだろう

 後の二人に関しては覚えていないだけなのかもしれないが見覚えはなかった

「シスター! 光の使者様達のお名前は教えてくれないんですか?」

 周りの子供達が何も言うことなくシスターの言葉を受け入れるなか私だけが手を上げてそんな質問をぶつけていた

 おいバカとその手をダイチが引っ張って下げさせる

「……またあなたですかウミさん、良いですか、名前などを交換するのは同等の立場にあるもののすることです、彼女たちはあなた達のお手本であり神の成功作により近い存在です、もしあなたがもうひとつ先に進める時が来ればその時に再度聞くといいでしょう」

「……はーい」

 そうだ

 この孤児院では皆生気のない顔をして、子供のようにはしゃぐことも少なくて、ただ淡々と毎日を過ごす子達のほうが多かった

 そんな中私は活発なほうでよくシスターに注意されたり折檻が多かったのもそのせいだ

 だから私は、光の使者と呼ばれたその子達にもとても関心があって、自分とは知らない世界に憧れて

 他の子供達が関わらないようにしているなか弟に止められるのも厭わずコミュニケーションを取ろうとした


「ねぇ光の使者様ー何してるの?」

「こっちの使者様は何を読んでるの?」

 最初の二人は見事に撃沈

 一人にはガン無視を決め込まれてもう一人はこちらにチラリと視線を一度はむけてくれたもののすぐに本に視線を落とした

「あなたは――」

「話しかけないでくれる? 気持ち悪……」

 そして恐らくホシノと思われる相手からはそんな突き放す言葉と舌打ちを貰った

 結果その日ヨルさんは見つからず、最後に見つけたのはソラちゃん

 いつものように寝床を抜け出してプラプラと歩いている時にたまたま立ちよった消灯時間を過ぎた孤児院の礼拝堂だった


「あ、光の使者様……?」

 薄らいだ蝋燭の光に照らされた影を見つけて礼拝堂を覗くとそこには一人の少女

 ソラちゃんだ

「あなたは……」

 私を見て少し驚いた様子のソラちゃんに子供の頃の私は勢いよく詰め寄って

「私はウミ! あなたは……あ、これは聞いたらダメなんだった……使者様はこんなところで何してるの?」

 勝手に自己紹介したんだった

「……一人に、なりたくて」

「どうして?」

 年不相応にそんなことを言いながら視線を彷徨わせる彼女に私は無遠慮に聞き返した

「ここも、あそこも、みんな同じで……息がつまるんです、最近はねえさ……姉も忙しそうにしていますし気分転換が出来なくて」

「あそこ……使者様のいるところもこんな感じなの?」

「そう、ですね……環境こそ違えどどちらも人体実験……ああこれは言ってはダメでした」

「……?」

 そう言って口を噤むソラちゃんにあの頃ははてなしか浮かばなかったが今なら人体実験の施設だと言おうとしていたことが容易に分かる

「あなたは、他の人達とは少しだけ違うみたいですね、明るくて、しっかり意識もある、こんなところでよくそんな元気でいられますね」

 少し関心した様子でソラちゃんはそう呟く

 そんな彼女に幼い私の口が勝手に返事をする

「……ここにいれば誰も、理不尽に痛いことをしたりしないもん、シスターに叩かれることはあるけどそれは私が何かしちゃった時で……ダイチ、弟は私と違ってしっかりしてるから何かされたりもしない、熱いのも寒いのもお腹が空くのもないから、私はここが好き……」

 私とダイチの両親は世間一般で言うところの毒親、子供を虐待する親だった

 何もしてなくても殴られて、寒空の下薄着で玄関前に追い出されたり、カビが生えたようなパンをお腹を空かせて二人で噛ったり、弟を庇って殴られたり、そんなことが私達の日常だった

 だからここに引き取られて……今思えば売られたのだろうがまぁこの際どっちだって構わないが

 ダイチが何かの脅威に晒されることが無くなったことが何よりも嬉しかった

 だから私は生気のない子供達に囲まれながらもバカみたいに元気に振る舞った

 周りの子供達の様子に動揺するダイチのためにも

 そうしないとダイチの心が癒されることなどない気がして

「そう、ですか……」

「あ、そろそろベットに戻らないとシスターにばれちゃうかも……それじゃあね! また会ったらお話してくれる?」

 少女の何か、思うところのありそうな反応にじわじわと心の中に何かが広がる感覚に襲われながらも私は巡回するシスターの足音を耳敏く聞き取ると慌てて礼拝堂を後にしようとしていた

「……いいですよ、それじゃあ……明日、同じ時間に私はここにいますから、もし暇なら……来てみてくださいね……後、私はソラ、と言います」

「……ソラちゃん……絶対にまた来るから!」

 名前を交換するのは同等の立場にあるもののすること

 シスターはそう言った

 でもソラちゃんは私にこうして名前を教えてくれた

 それがこの時の私はとても嬉しくて

 そんなソラちゃんの言葉から、私達は夜中、いつもこの時間に

 秘密の逢瀬を重ねることになったのだ


 といっても会って何か意味のあることをするとか内容のある話をするとかそういうこともなく

 ただ一緒に時間を過ごすだけ

 姉としてでもなく、馬鹿みたいに明るいだけが取り柄のウミとしてでもなく、ただのウミとして過ごすだけのこの時間、それが私にとってはとても居心地が良かった

 それは恐らくソラちゃんも一緒だったのだろうと思う

 すべての時間を再体験している私にとっても決して嫌な気分なんて感じさせず、ただただ居心地が良かった

 まるで二人でしてきた旅のように

 だがそんな日々も決して長くは続かなかった

 ある日、いつもよりも長くその場にいたせいでシスターに見つかってしまったのだ


「ウミさん、これがどれ程罪深いことなのか、分かっていますか? 前から再三注意しているのに夜中に部屋を抜け出して、挙げ句の果てには光の使者に絡むなんて」

 ただソラちゃんの隣に座っていただけの私をシスターは無理やり立たせてソラちゃんから距離を取らせた

「……ごめんなさい」

 記憶の中の私はただ謝りながら視線だけをソラちゃんへ向けていた

 ソラちゃんにはヨルさんがついていて、何も言おうとしないソラちゃんの肩に手を置いてこちらを向かせ

「ソラ、あなたもダメじゃない、勝手に院の中を歩き回ったりしたら、シスターさん、ウミさんだけをどうか責めないでください、この子にも至らないところがありますから……」

 そう言って窘めるとシスターに頭を下げた

「ヨルさん……しかしですね」

 どうもソラちゃんのお姉さん、ヨルさんは立場的にはシスターより上なのか、そう言って一緒に頭を下げるヨルさんにシスターはたじたじになってしまっていた

「一体どうしたのかしら騒がしい」

 そんななか、よく通る声が礼拝堂に響いた

「ヨハネ先生! 申し訳ありません、こちらの……例の子が少々使者のお子に粘着していたようで……」

「ヨハネさん、ソラも興味があったようですのでこの子が一概に悪いわけではありません、ですから……」

 声のしたほうを見て慌てた様子で方々に謝り出す二人を見てヨハネと呼ばれた女性は和らげに微笑むと口を開いた

「ああ、別にいいのよそれは、むしろあの子達を今回ここに連れてきたのはこうして……」

「……?」

 近づいてきたヨハネさんは私の頭に優しく手をのせて続けた

「研究過程で出てくる異端を見つけるためでもある、そこに隠れているあなたも出てらっしゃい?」

「……」

 ヨハネさんがそう言って礼拝堂の外に声をかけると居たたまれない様子で一人の子供が顔を覗かせ逃げることが出来ないと悟ったようにこちらへと歩いてきた

 その人物は見紛うことなく

「ダイチ……」

 私の弟だった

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