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第44話 繋がる二人の因縁

「少し、聞いたことあるー、だけだけど」

 底無しちゃんはたどたどしく自身なさげにつづける

「誰、だったかは、覚えてない、いつだろう、わたしの入ってる牢屋の前にー、人が来た、その人は、誰に言うでもなく何か話して、それからどこか行っちゃった」

 何とか思い出しながら話す底無しちゃんを私とソラちゃんは見守る

「苦しみから、逃れたければ北の地へ迎え、最北の女神の祈るその場所に、誰もが望むユートピア、月陽の都はそこにあるって」

「……最北、やっぱりホッカイドウかな」

 最北以外にも気になる部分は沢山あった

 女神とか祈るとか、まるで何かのパズルでも解かされているみたいだ

「それを言った人が誰かわからなくともどんな人物だったとかはわからないですか?」

 ソラちゃんはより鮮明な情報を知るために底無しちゃんに聞き返す

「……お姉ゃんに似てたよ」

「えっ、私!?」

「違う、黒いほうのお姉ちゃん」

 底無しちゃんはブンブンと首を横に振ってからソラちゃんを指差す

「私、ですか」

 虚を付かれたソラちゃんもまた少しの動揺を見せる

「うん、おんなじ黒い髪に真っ黒な目をしてた、それから……こっちに伸ばした手に大きな傷があった、火傷みたいなー」

 底無しちゃんは自分の右手、小指側を指差す

「っ……」

 その行動にソラちゃんは息を飲んだ

「ソラちゃん?」

 不安になり呼び掛ける

「……もしかするとですが、その人物は私の姉かもしれません」

「お姉さん……確か、ヨルさんって言ったっけ」

 何度か会話にも出てきている人物だ

 ソラちゃんがゾンビイーターを止めるきっかけになった人でありカナタさんが私達に協力してくれる理由だ

「ええ、姉はオメガウイルスの唯一の完全適合者で研究の中枢にいましたから底無しの幽閉されていた地牢に出向くことも可能ではあると思います……それに手には昔私を庇って出来た火傷痕が残っていた、底無しの会ったという相手は十中八九私の姉でしょう」

 ソラちゃんに似ていて同じ場所に傷がある

 そこまで合致してしまえば違うとするほうが難しい

「……だとして、どうして底無しちゃんにそんなこと言ったんだろう」

「……わかりません、あの人は、たまに突拍子のないことを言う人でしたし……まるでこの先のことが分かるみたいに」

「ヨルさんは、パンデミックが起きてもし何かの拍子に底無しちゃんが牢屋を出られることになったら行く場所を考えてくれたのかな」

 底無しちゃんが外に出られたとしても行く宛がなければどうにもならない

 だからもしもの時のために助言を残した

 そんな無理くりな推察をソラちゃんは首を振って否定する

「……姉が亡くなったのは、パンデミックが起きる数日前ですよ」

「え……」

「パンデミックが起きる3日前でした、度重なる人体実験が原因で姉は死に、悲嘆にくれる時間もなくパンデミックが起こり私はゾンビイーターとして活動していました……それから姉の死がヨハネによる意図したものであるということを知りゾンビイーターを抜けた、以前は姉が死んだことで意義を見失ったと言いましたが詳しく言えばそういうことです、死んでからも暫くは続けていたんです、ゾンビイーターを」

「っ……でもそれなら……」

 意図的にヨハネによって殺された、という初めて知る事実に言葉に詰まる

 それでも今率先してするべきことはより鮮明な月陽の都にまつわる考察だ

「そう、姉はパンデミックが起きることも知りませんでしたし何よりも、パンデミックが起きる前からユートピア……月陽の都がすでに設立されていたことになります、そうなってくると、感染者がおらず、さらには解毒薬があるという話も現実味を帯びてきます、元々パンデミックは意図的に起こされたもの、なのであればカースト上位の人間を保護するため施設が用意されていてもなんら不思議ではない」

「……じゃあ、ユートピアはあるんだね」

 カナタさんも北にユートピアはあると言っていた

 だがここに来てついにユートピアの存在が肯定されつつあることに興奮を禁じ得なかった

 ずっと私が目指してきて、いつからか私達が目指すことになった場所、月陽の都

「ええ、おそらくですがこれで存在は確証されたでしょう、後は、北の地、最北の女神の祈るその場所ですが、最北というにはホッカイドウでしょう」

「カナタさんのこともあるけど北を進んできて正解だったね、でと女神の祈るその場所って、なんだろう」

 問題はそこだ

 このままなんの滞りもなくホッカイドウに着いたとする

 だとしてもホッカイドウは広い

 女神の祈るその場所、なんていう言葉だけで探し出すのは途方もない労力が必要だろう

「パッと思い付くのは教会ですが……」

 教会といっても何件どころの騒ぎではないですから総当たりは難しいですね、とソラちゃんは続けて顎に手を当てた

「あ、孤児院とかもじゃない? 私がいた孤児院も毎回朝のお祈りとかあったから」

 さっき底無しちゃんと話していたことでふと思い付いた

 他の孤児院は知らないか私のいた孤児院ではそれは日常の一部で当たり前のことだった

「ウミさんは孤児院の出でしたね」

 言われて思い出した

 そういえば私の出白をちゃんと話したことはなかった

「うん、セントジャンヌ孤児院って言って――」

「今なんて!」

 これを機に話してしまう

 そう思って口を開くと思ったよりもすごい勢いでソラちゃんに肩を掴まれた

「え、孤児院の出だって……」

 そんなに驚くようなことを言った気はないのだが何をそんなに驚いているのだろうか

 慌ててもう一度言ったがソラちゃんは違うと否定する

「そこじゃなくて孤児院の名前です」

「セントジャンヌ孤児院……」

 孤児院の名前が、いったい何なんだろうか

 よくある孤児院の名前でしかないと思うが

「……ここで、繋がってくるんですね」

 ははっとソラちゃんは不愉快そうに少し笑うとぼそりと呟く

「え、何が……?」

 不思議に思っている私の肩から手を離すとソラちゃんは苦々しげに、答えた

「セントジャンヌ孤児院は、ヨハネが被験者を集めるために作った孤児院ですよ」

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