「確か……この先にある像の前で待ち合わせをするのとになってて……」
私はハミングをしている底無しちゃんの手を引いてもし地下街ではぐれたら待ち合わせをする予定だった場所を目指していた
ソラちゃんの流されていったほうを見に行ってもよかったのだが待ち合わせ場所を決めている以上は先にそこを見に行くのが最善と考えたからだ
「やっぱり……いない、か――」
「ウミさん!!」
像の前にたどり着くもソラちゃんは居なく、やはりまだホシノと戦っているのかと焦燥していると後ろから私の名前を呼ぶよく聞きなれた声が響いた
「ソラちゃん! よかった……無事だったんだね」
私は振り返ってソラちゃんの目立った怪我をしていない様子を見て安堵の息を溢す
「ウミさんこそ、無事、そうで……何ですかその傷は!?」
ソラちゃんも私を見て少し緊張がほぐれたようだったが私のズタズタになった腕に慌てた様子で縋る
「ちょっ、いきなり触らないでっ……」
ソラちゃんがあまりにもがっしりと腕を掴むものだからもう少しで悲鳴を上げるところだった
底無しちゃんがいるのでそれは避けたいと必死で声を殺す
「あ、ごめんなさい……自身が久しく痛覚がないもので少し加減が分からず……って、そうじゃなくて! この傷はどうしたんですか! やはり底無しに……っ底無しはどうなりましたか!」
珍しくテンパった様子のソラちゃんが質問をバンバンと投げ掛けてくる
「あ、底無しちゃんだったらそこに……」
ソラちゃんの勢いにびびった底無しちゃんは目印のオオカミの像の後ろにすっぽりと隠れていた
「底無しちゃん、こちら、ソラちゃん、挨拶出来るかな」
私の呼び掛けにひょこりと像の後ろから底無しちゃんが顔を覗かせる
「底無し……」
像の後ろから底無しちゃんの顔が見えるとソラちゃんは怯んだようにぐっと眉間にシワを寄せる
「お姉ちゃん久しぶり」
「あれ、ふたりは知り合い?」
久しぶり、ということは二人は顔見知りだったということだろうか
そういえば底無しちゃんの話をする時ソラちゃんは相手を知っているというように話していたことを思い出す
「ええ、何度か研究所で顔を合わせたことがあります」
「そうだったんだ」
それなら話は早いだろう
そう思ったが
「……で、説明をお願いしてもいいですか?」
私のほうを振り向いていい笑顔でそう問いかけてくるソラちゃんにひっと軽い悲鳴を溢した
「なるほど、それで底無しを連れてきてしまったと」
私はソラちゃんの前に正座して座っていた
「うん、だって……」
「私は、底無しに会ったら即逃げるように言いましたよね、会話はしないようにと」
「そう、だけど……」
いいわけも最早通用しない
「しかも懐かれて連れてくるなんて……」
「……別に懐いてないもんー」
頭が痛いというようにソラちゃんは言いながら頭を抑えるがそこに底無しちゃんが追撃する
底無しちゃんには悪気はないのだろうが今ここでそれをばらすのは止めていただきたい
「懐かれてないけど無理やり連れて来ました……」
そうです
自分で説得して捕まえて来ましたはい
「……」
「し、視線が痛い」
ソラちゃんの視線にいたたまれなくなって目を反らす
「それで結果としてこの傷、というわけですか」
ソラちゃんは言いながら今度は優しく私の腕に触れる
ズタズタだった腕はソラちゃんの持っていた救急キットによって手際よく消毒、軽い止血をした後に包帯を巻かれて治療されていた
「……はい」
「そして困ったら噛み付いていいと約束したと」
「……はい」
言いました、私から
「何度も言いますが、この世界で怪我なんてしたら致命傷ですよ、こんなズタズタの腕私が医療キットを持っていなかったらどうするつもりだったんですか」
「……何とかなるかなと思ってしまいました」
自分で怪我をしたら命取りだと言ったこともある手前あまりにも自分の言葉がブーメランである
「私を庇ってゾンビに噛み付かれた時もそうですがあなたはあまりに自分の身体を安く見て――」
「……私」
どれだけ言っても止まらないソラちゃんの説教に割り込んできたのは底無しちゃんだった
「底無しちゃん?」
私は横にいた底無しちゃんのほうを見やる
「迷惑なら帰る」
「……それは、研究所にということですか」
「うん」
「そんなことしたらっ、また閉じ込められることになるんだよ!」
私は慌てて底無しちゃんの手を掴む
「……それでも、お姉ちゃんに迷惑かけたくない」
「底無しちゃん……」
「あ゛ーもう! これだと私が悪役ではないですか」
結果、折れたのはいつもと同じでソラちゃんだった
「いいですか底無し、同行することは許可します、しかしもし、ウミさんに何かあるようであれば私は容赦しませんからね」
ソラちゃんは底無しちゃんと視線を合わせるために屈むとそれだけ伝えて釘を刺した
「ソラちゃん……ありがとう」
「本当にこうと決めたらテコでも動きませんねあなたは」
はぁっとため息をを吐くソラちゃんも見慣れてしまった辺り本当に毎回私の我が儘をソラちゃんは聞いてくれているのだと感謝しかない
「そういえば、ホシノは……」
私が底無しちゃんと相対している間ソラちゃんはホシノと対敵していた筈だ
ホシノは一体どうなったのだろうか
「ああ、私のほうの話がまだでしたか、軽くですがお話しましょう」
「そっか、あの人はホシノじゃなかったんだね、それにしても、トトちゃん、か……」
自身の姉を食ってまで戦った少女
彼女もこの辺りまで来ていたのか
「元気そうでよかったとか思ってるんでしょうね」
「わーバレてる」
そして思考も無事に読まれている
「でも、シズクさんは、何でそんなに絶望してしまったんだろう」
「……それは、私には分かりかねます」
自分から敢えて殺されることを選んだゾンビイーターのシズクさん
もしかしたら今、ゾンビイーター側でも何かの問題が起きているのだろうか
「……何か、起きているというのは確実でしょうね」
どうやら私とソラちゃんが考えていることは一緒のようだった
「そうだね……底無しちゃんのこともあるけどこれは、早くユートピアを見つけないとね」
「ユートピア?」
ユートピア、という単語に底無しちゃんが関心を示す
「そう、ユートピア、お姉ちゃん達が探してる楽園」
今分かっていることといえばオメガウイルスの抗体のある感染者のいない居住区ということとかぐらいで詳しいことは全く分かってはいない
「それって月陽の都のこと?」
「底無しちゃん、何か知ってるの!?」
底無しちゃんの口から月陽の都という名前が出て、私は驚いて聞き返した