「おいカナタ、現在シズクのチームが目標を捕捉したようだ、お前も行かないのか?」
私がゾンビイーター支部の廊下を足早に歩いているとふと現れた別のゾンビイーターが声をかけてきた
「んー、そうね、やらなきゃならないことがあるから今回はパスしとくわ」
私は考えた素振りを見せてから手をひらひらと振って断ってみせる
「いつもそればっかりじゃないかおまえは、じゃああたしが行くか」
あきれた様子でウォーミングアップとばかりに身体の筋を伸ばす彼女を見てゾンビイーターの中でもそんな意味のないことをするのはこの人ぐらいだと辟易する
「ヤマト、あなたも今回は手を引きなさい、占いの結果がよくないの、私はあなたに死んで欲しくないから」
言いながらそっとヤマトの手を取る
そう、彼女はハイスコアラーの一人、ヤマトだ
シズクに続いて彼女まで参戦すればそれこそ生き残る確率が劇的に変わる
だからここで止めておこう、それぐらいの感覚だった
「既に死んだ身だ、そんなこと気にしていたら何も出来ない、だが、お前からの忠告であれば聞いておこう」
ヤマトは少し逡巡したものの私からの忠告を受け入れて来た道を戻って行った
「じゃーねー……さて、単純な子で助かったわ、感謝してよねー」
私はひらひらと手を振って見送るとまた歩き出す
全く知らないところでどれだけソラちゃんを助けているのか一度語って聞かせてやりたい
まぁ、私の行動はヨルの為でソラちゃんの為でもないし別に恩着せがましくそんなことを言うつもりは欠片もないが
全くヨルも面倒な性格の妹を忘れ形見として遺したものだ
私は周りに人がいないのを確認して資料庫の扉を開く
調べといてあげるなんて言いながらここの監視システムを把握するのにそれなりの時間がかかってしまった
「さて、監視システムが回復する前に早めに見ちゃわないといけないわね、それにしても、ウミとダイチ……どこかで聞いたことのあるような……って言ってもよくある名前だもの」
私は適当にそこら辺にあった本に手を伸ばすとぱらぱらと中身を確認する
「んー、沢山あってどこから手を付けたらいいのやら、まぁ私の異能を使えば、そんなに時間はかからないわね」
私は目に力を集中させる
それから本を手にとってはぱらぱらと速読の要領で本を流し見していく
といっても私は速読が出来るわけではないが
私にはこれで十分だ
「…………」
一つの本を見終えると閉まって次の本を捲るのを繰り返す
「…………」
読んでは戻す
読んでは戻す
一つの棚を見終わるのにまぁせいぜい十分もかからないだろう
「…………これは、セントジャンヌ孤児院の在児の名簿……」
同じことを繰り返していれば一冊の本でピタリと私の手は止まった
見ていた書類はセントジャンヌ孤児院の在児、検体名簿だ
「やっぱり、見たことあるに決まってるわ、あの子セントジャンヌ孤児院の出なのね、ダイチ……と、ウミ、ダイチってほうは分からないけれどこの写真も確かにウミちゃんね」
私はウミちゃんとダイチの名目をしっかりと確認してから本を閉じる
「おい、誰かこの中にいるのか、ここは立ち入り禁止区域だぞ」
その時ちょうど警備員が巡回に来たようで私は棚の影に隠れてやり過ごす
「……」
警備の周回する時間も勿論把握済みである
「気のせいか……」
警備員はしばらく様子を伺っていたがすぐにその場を離れていった
私はソラちゃんの内通者をするに至って全てしっかり確認して検証してから動く
これぐらい用意周到にしておかなければ内通者など出来るわけがないからだ
「長居は禁物、早く出ましょう」
私は警備員がしっかりといなくなったのを確認してから部屋を出た
「でも、彼女がセントジャンヌ孤児院に属するものだということはかなりの有益な情報になるわね」
私は誰に言うでもなく呟きながら先ほど見た資料の内容を反芻する
「だってあそこは、ヨハネとアカネの実験場ですもの」
彼女たちがなにに利用されていたのか
果たしてこれは本人には伝えるべきだろうか
ただそこだけが悩ましかった