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第30話 嫉妬と覚悟

あぁ、ムカつくムカつくムカつく

 何が羨ましいだ

 何が滑稽だ

 私の何も、何もかもをしらないくせに

 平々凡々のうのうとバカみたいに生きてきたただの弱い人間の癖に

 ふざけやがって

 私は頭のなかで散々にあの女

 ウミとかいうふざけたやつを愚弄しながら切り落とされた手首の修復をしていた

 といっても手首は置いてきてしまったからもうこの手が復活することはない

 それが余計に腹立たしかった

 思えば最初からふざけたやつだった

 ソラの正体を知っても引かなかった

 理不尽に命を狙われることになっても文句ひとつ垂れずにしかもソラとともにいることを選んだ

 どれだけ災難な目に遭ってもバカみたいになんでも信じてそのたんびに命の危険に去らされているのにへらへらへらへら笑っていた

 あいつは異常だ普通じゃない

 そんな能天気でバカみたいにお人好しなあいつの変貌にははっきり言って面食らったのは事実だ

 人を傷つけることなんて出来ませんって顔をしていた癖に急に髪と目の色どころか顔つきが変わった

 人の嫌なところをつつくことも厭わない

 むしろ嗜虐的にそういうことをしていたようにも思える

 しかもなんでゾンビに噛まれても平気なんだ

 何故、オメガウイルスが発症しない

 何故私達のように、それかあの子のように意思のないゾンビに成り果てない

 選ばれた存在とでもいいたいのか

 あまりにも腹が立ってヨハネのババアに全てを報告した

 シェルターの件に関しては許可を取っていなかったので小言でも言われるかと思ったがヨハネは少し考えた素振りを見せた後に全ゾンビイーターにウミの捕獲命令を出すように伝達して"あの"底無しが幽閉されている地下牢へと向かっていった

 ザマァない

 あいつが動けばもうこちらの勝ちは決まったよあなものだ

 それでも

 出来ることならあの二人、せめてウミだけでも自分の手で殺したい

 だがそれには力が必要だ

 第二の人格に変わられれば今までのような言葉での揺さぶりは効かない

 だがソラの力には私の力は届かない

 そんなことを考えていれば近くに実験体が歩いているのが目に入った

 この研究施設では一定の区域に適合率の高いゾンビを放牧していることがある

 私はそいつを見つけた瞬間おもいきり後ろから首に噛みついた

 ゾンビを食べればゾンビ化する可能性は上がるが力もあがる

 それなら何も迷うことはない

 ただゾンビとしての本能に忠実になり人間やゾンビを喰らえばいいだけの話だ

 必ず、私を苔にした報いは受けてもらう


 あれからカナタさんの助言の通り今いた場所から暫く、夜になるまでぐらいの長距離を離れてから野営のためにテントを設立した

 ソラちゃんと何か話ながら歩いていた気はするのだが髪の毛にキスされたことがどうしても頭から離れなくてずっと心ここにあらず状態だった

 今もテントのなかで体育座りをして膝に顔を埋めているが思い出しては頭をぶんぶんと振るを繰り返している

 自分が追われることになったこととか

 これからのこととか、考えなければいけないのに思い出すのはどうしもソラちゃんの顔だった

 っていうか私がソラちゃんの背中にキスした時ソラちゃんはどう思っていたのか

 気持ち悪いとか思われていないだろうか

 いや、そんなことを思っていれば私にお返しですなんてキスし返したりしないだろう

 ああ、ダメだ

 考えれば考えるほどにドツボに填まっていく自分がいる

 今日はもう休んでしまおうか

 そうして明日またソラちゃんとこれからのことを話せばいい

 きっと今色々考えても何も解決策など思い付くわけもない

 私は寝袋にすぽりと収まると悶々する頭で無理やり目を閉じた


 これからは私ではなく、ウミさんが追われることになる

 それは、到底感化できる話ではなかった

 私と違って彼女は自分から何かしたわけではない

 ただ巻き込まれて、貶められただけ

 そしてたまたま特異な体質だっただけなのだ

 私はこれから、彼女を守らなければいけない

 今まで以上に

 だがこれからはホシノだけではない

 他のゾンビイーターを相手取った時に戦績がどれくらいになるかもわからない

 ホシノより強いゾンビイーターはもちろんいるし何よりも自分が所属していた頃にはいなかったゾンビイーターも増えているだろう

 トトとロロがいい件だ

 手の内のわからない相手、しかも格上かもしれない相手と合間見えたときに私が負ければウミさんは捕まる

 きっと色々な実験に使用されて、弄られて、私の姉のようになってしまう

 それだけは避けなければいけない

「ゔぁぁあぁ……」

 必死で逡巡していれば一体のゾンビが焚き火の明かりにつられて近づいてきていた

 いつも外で見張りをしてこういう野良ゾンビがテントに近付かないように見張っている

 だけどそれを伝えればウミさんにまた心労をかけることになるので私は殺したゾンビを近くに捨てにいくことにしているのだ

 私は今回もそうしようと刀に手を掛けて、それから抜くのをやめた

【約束してほしい、これから先、なにがあっても、どんな状況になっても、絶対にゾンビを食べないで】

 あの日ウミさんが言っていた言葉を心のなかで反芻する

 ゾンビを食べることはしない、確かにそう約束した

 それでも、私は

「ぐぁぁあ……」

 ゾンビの頭に手を掛けると思い切りゾンビの首に噛みついた

 二人で約束を破りあっていてはこれでは約束した意味がない

 そんなことはもちろん承知の上だ

 それでも私は

 ゾンビを喰べてでもウミさんを守るための力をつけることを、選んだのだ

 噛みちぎった肉を租借して飲み込む

 味覚なんてとうに失われてしまったが

 ゾンビの肉は

 ひどく不味く感じた

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