カンッカンッカンッカンッカンッカンッ
一定のリズムを刻んで金属で出来た階段をヒールが踏みしめる音か響く
女はじゃらりとたくさんの鍵の束を取り出すと迷うことなくみっつの鍵を選んで鉄格子にかけられた錠前を全て外した
ギイッと手入れが行き届いておらず錆びた鉄格子が軋んだ音をたてて開かれる
ここは国の研究施設だ
それもゾンビイーター統括のヨハネが本拠地とする場所である
この牢屋の並んだ部屋は地下三階に位置しており異形の者や研究の末に自我を失った者など果てにはゾンビなども収容されている
つまりは実験体の収容所だ
周りから聞こえる呻き声も、苦しみ助けを求める声も、泣き叫ぶ声すらもヨハネにとってはどうでもいいことでしかなかった
モルモットはモルモットらしくピイピイと鳴いていればいい
それぐらいにしか思っていないのだ
それから暫く進んだところでまたひとつの鉄格子が見えてきてまた迷うことなく錠前を外した
それからさらに進むと先ほどまで聞こえていたような生き物の声は聞こえなくなり、それと変わるようにまの抜けた歌声が聞こえ始めた
「おっなかが空いたー、おっなかが空いたー、お腹がすいたぁ、ハングリー、ハングリー、ハングリー!」
ヨハネはその歌声の聞こえる牢屋の前で立ち止まると牢屋の錠前を外してドアを開いた
「んー、おなかすいたなぁー」
開かれたドアからでてきたのは一年端もいかない人の少女
だが見るからに少女の状態は異常であった
どこを見ているのか焦点の合わない瞳、齧りすぎて跡になったたくさんの噛み傷
そして間の抜けた歌が余計に不気味さを際立たせる
「ねぇねぇ、なんで出してくれたのー? 食べ物、食べ物くれるのねぇ! おなかすいたなぁー」
少女はヨハネにすがるように抱きつくがすぐにヨハネはそれを引き剥がし汚いものにでも触れたというように服を払った
「触るな、底無し、今回は特例でおまえをここから出す、妙な気は起こすなよ、そうすればたくさん食べていい」
「やったー! 食べたい食べたい! はやくはやく!」
食べていい
その言葉に焦点の合っていなかった瞳がキラキラと輝き出す
そして早く食べたいと幼児の駄々のように足を踏み締めて叫び散らす
「そう急かすな、今回の任務はいたって単純だ、ウミという少女を捕獲して連れて帰ってくること、ウミと一緒にいるであろう女、ソラに関しては喰ってしまって問題ない、適合率は姉ほど高くはないがそれでも充分に高いほうだ、なかなか旨いのではないか?」
言いながらヨハネはにやりと広角をあげた
ウミを手に入れる経緯でソラを排除できる、そうなればヨハネとしても一石二鳥であるからだ
いや、一石三鳥の間違いかもしれないが
「ほんと!? やったぁ! 早く食べたいなぁー!」
口の端から溢れる唾液を腕で拭うと駆け足に底無しと呼ばれた少女は外を目指して歩き出した
ヨハネはそんな少女にたいして最後のだめ押しといわんばかりに付け加える
「それと、任務が無事に滞りなく終われば食事両も増やしてやろう、だから、何としてでもウミをこの研究所まで、生きた状態で、連れてこい!」
ヨハネには、もうそんなに時間が残されていない
だからなんとしても研究を続けてオメガウイルスを完成させなければいけないのだ
だからこそ前回のホシノの凶行も容認し、その場の鎮圧の為に動かした部隊の拾い物、ホシノに嵌められた少女にも既に実験を開始している
もちろん全世界のためになんてそんなことを考えているなんてことは、あり得ないだろう