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第24話 絶対零度の刃

 空気が、冷たくなった

 それはおそらく比喩とかそういうものじゃない

 確実にソラちゃんを中心に周りの温度が下がっている

 このシェルターに籠っていた熱が一気に冷やされて天井近くに霧が発生している

「白冷夜行、30パーセント……!」

 瞬間ソラちゃんが地面を蹴った

 集まってきていたゾンビ達に思い切り刃を振るうと漂っている靄を切り裂いてゾンビの首が吹き飛び……そして切っ先上にいた他のゾンビ達は

 ソラちゃんの腕から飛ぶ飛沫を浴びてまるで液体窒素でも浴びたようにパキパキと音を立てて少しずつ氷結していった

 そして返す刃で動かなくなったゾンビの首を飛ばす

「凄い……でも、これだと……」

 この勢いであれば片方の通路は問題ないだろう

 だがシェルターの廊下は左右に別れておりもう片方の道から攻めてくるゾンビの対応はどうするのか

「……これは」

 そう逡巡して振り返るとそこにいたゾンビ達は皆、一概に動きが鈍くなっていた

 前へ進む足取りが時間が経つにつれ確実に遅くなっている

「ゾンビは元来雨や寒いのは得意としません、水に濡れたりこうして空間の温度を下げればそれだけゾンビの動きは鈍く、遅くなる」

 ソラちゃんは言いながらほぼ動いていないゾンビに歩いて近付くと的確に首を撥ね飛ばした

 そうか、だからソラちゃんは雨の日はいつもテントのなかにいたのか

 自身が濡れたくないのもあったのだろうがゾンビ自体が活発に動くことがないと分かっていたからだ

「……早く倒して脱出路を探しましょう、これはあまり長くはもちませんから」

 ソラちゃんは話ながらも刀を振るう手は止めない

 洗練されたその動きについ見惚れてしまう

 ソラちゃんが強いことは知っていたがまさかここまでだとは思っていなかった

 そしてその特異な異能

 トトとロロの時にも体験しているがそれとは比べ物にならないレベルのものだということを肌身に感じる

 こうして一瞬で場を掌握してまったのだから

 周りのゾンビがあらかた片付いたその時、また、あの嫌な声が聞こえた

「さっすが氷姫、自分もゾンビの癖にゾンビ特効の能力とか本当に、気持ち悪いよ」

 声のしたほうを見ればやはりというか

 一番会いたくない相手がリアと一緒に立っていた

「……やはりあなたでしたか、ホシノ」

「っ……」

 腹立たしげに睨むソラちゃんを見て私も自然に眉にシワがよる

「やっほー、そんなに嫌そうな顔しないでもいいじゃん」

 だが等の本人は何も気にした様子もなくいつものように軽薄に笑う

「これは、あなたの手引きですね」

「勿論」

「それではあの少女も……」

「勿論私の差し金ですよ、ほらこの通り」

「……」

 自分の後ろにいたリアちゃんを私達の前につきだす

 だがリアちゃんは何も喋らずただ、絶望したような瞳をしていた

「うまく二人をここまで連れてこれれば国からシェルターを斡旋してあげるって言った、バカだよねー、そんなこと信じてさぁ、最後は証拠隠滅に消すだけっなのにね!」

「きゃあ!」

 そしてそのままホシノはリアちゃんを残っているゾンビのほうに突き飛ばした

 突き飛ばされたリアちゃんの前にゾンビが迫る

「ほら早く助けなきゃ食べられちゃうよ正義のヒーローさん?」

「くっ……」

「ソラちゃん……!?」

 真っ先に動くであろう、そう思ったソラちゃんは何故か苦痛の声を漏らすだけでその場から動こうとしない

 そんなソラちゃんを見て卑下した表情でホシノが続けた

「本人も言ってたでしょ? 長くはもたないって、ゾンビは寒いのが苦手なのに自分からそんな冷たい液体を分泌すれば勿論自身の身体も冷えるよね、だからソラはその力を使ったあと暫くは、動けなくなる」

 それでは、今動けるのは私だけだ

「ウミさん! 約束を、覚えていますね……?」

 私の心情を察したのかソラちゃんが最初に牽制する

「……」

 はっきり言って少し迷っていた

 自分の命を最優先しろ

 そう約束したばかりだから

 でも、私は頭を強く振るとリアちゃんのほうへ駆け出した

「ウミさん!!」

 私はソラちゃんの制止を振り切って走る

 そしてリアちゃんとゾンビの間に身体を滑り込ませた

「あはっ、はっきり言ってさ、せっかくソラの重荷にって増やしてあげたのに仲良しこよしで旅されてさ、邪魔なんだよねきみ、だからもう、いらないや」

 ホシノの言葉を合図にしたようにゾンビが私の肩に食らいつく

「……ぐっ」

 パアンッ!!

 少し、反応が遅れたが銃でゾンビの頭を撃ち抜く

 私は別に命を捨てようとしたわけではない

 間に入ってゾンビを先に倒そうと思っただけだ

 遠くからでは射撃経験のほとんどない私では外すかもしれない

 だから近付いた、だが思っていたよりも標準が合わず噛まれるという結果になってしまっただけ

「ゾンビを倒したところで、これでお仕舞いなのは変わらないね」

 ホシノはこの現状を見てニヤリと嫌な笑顔を浮かべる

 だから私は、逆にこちらからホシノに挑戦的な笑顔を向けた

「あんまり……舐めないでくれますか、私は、ゾンビにはならない……今回だって、絶対に、約束がっ、あるから!」

 半ば叫ぶように言いながら私は噛まれた肩を強く押さえた

「……一体なんの、話をして……、っていうかなんでオメガウイルスの症状が出ない……」

 怪訝そうな表情を浮かべていたホシノの顔が時間が経つにつれて懐疑的に変わっていく

「……」

 そんなホシノを見てソラちゃんが少しずつ無理矢理にも動こうとするのが視界の端に移った

「まさか、完全適合者……いや、それでもない、これは……」

 不審な挙動を見せながら

 少しずつこちらへとホシノがにじり寄ってくるが肩を噛まれた痛みで動くことがない出来ない

「ホシノ! あなたをウミさんにはっ、近寄らせない! っぐ!」

「悪いんだけど今相手してられないから、っていうかその身体で何が出来るの」

 何とか動いてくれたソラちゃんがホシノの襟首を掴んだがそれは簡単に弾き飛ばされてしまった

 恐らく、まだ身体の感覚が全然戻っていないのだろう

「がっ……!」

 ホシノはそのまま私の前まで来ると私の首に手を掛けて壁に押し付けるとぎりぎりと締め上げ始めた

「君はっきり言って、今の状態は異常だよ、こんな事例は一度も見たことも聞いたこともない、だからソラも惹かれた……まぁどっちでもいいけど自分の特異性を理解した? とりあえずサンプルとして生きたまま持ち帰る」

 酸素が足りない

 頭がくらくらする

 どうする、このままでは

 でも、約束した

 自分の命を最優先にすると

 何かがあればこの悪癖を使うことも厭わないと

 だから私は


「落ちたかな?」

 首にかかっていた厚が少しずつ緩くなる

 全く、こんな短期間に二度も起こされることになるなんて一体どういう風の吹きまわしだ

「……ウミさんっ!」

 ウミの名前を呼ぶ声が聞こえる

 はぁ、仕方ない

 また、邪魔するものは排除すればいいだけだ

「なっ……」

 オレは覚悟を決めると閉じていた目を開いた

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