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第23話 片鱗

「それで、この地域だと、どのシェルターですか?」

 リア、と名乗った少女をソラちゃんが背負って走りながら背中のリアちゃんに聞く

「あ、トーホク第十五シェルターです」

 国のシェルターにはそれぞれ分かりやすいように名称と番号が振られている

「……担当のゾンビイーターは、何をしているのか……」

 そしてソラちゃんの話ではそれぞれの区域に担当するゾンビイーターというのがいるらしいのだが今回国のシェルターが襲撃されたのに何故かゾンビイーターの出動はなかったとリアちゃんから聞いた

「ソラちゃんまだ遠いかな!?」

 こうして走っているうちにもシェルターではゾンビに誰かが殺されているかもしれない

 そう思うと気持ちが逸るのを押さえられない

「いえ、もう見えてくる筈です、そこを、曲がれば……ありました」

「っ……火があがってる!」

 大きなビルの角を曲がるとそこには黒い煙を上げるシェルターの入り口があった

「ゾンビの乱入で電気機関に不備が発生して発火したのでしょう、これではもう……」

 ソラちゃんは背中からリアちゃんを下ろしながら少し声のトーンを落として溢す

「それでもっ! まだ生きてる人がいるかもしれない!」

 私は自分に言い聞かせるように叫んで発破をかける

「リア、あなたは隠れていてください」

「私も、ついていきます」

 近くの瓦礫を指差してそう言ったソラちゃんにリアちゃんは力強く首を横に振るう

 当たり前だ

 自分の住んでいるシェルターがこんなことになれば自分だけ逃げるなんて出来るわけがない

「……無理だけはしないように」

 その気持ちを察したのだろうソラちゃんは言い聞かせるようにそれだけ言うと一本のナイフを手渡した

 そして

「遅れず、ついてきてください!」

 ソラちゃんは慣れた所作で刀を抜くと迷いなく目の前に現れたゾンビを両断してそのまま走り抜ける

 私とリアちゃんもそのあとに続いてシェルターに飛び込んだ

 シェルターのなかに入ると嫌でも状況を理解する

 行き交うゾンビに逃げ惑う人々

 食い殺され地面に倒れた人間、壁に飛び散った返り血

 それはまさに、地獄絵図だった

「う゛……」

 むせ返るような血の匂いに吐き気すら覚える

「あ゛ぁあ゛ぁぁ、ぐぁぁ!」

 視線の先で今まさに食い殺されそうになっている人を助ける為にソラちゃんがゾンビの頭を飛ばす

「うわぁぁ!!!」

 だが助けられた人もまた恐怖で錯乱してそのまま逃げ出そうとして別のゾンビに噛みつかれてしまった

「一度シェルターの隔壁を起動しましょう、ウミさん、そっちのパネルで操作出来る筈です」

「……っだめ、反応しない!」

 目の前のゾンビをバールで殴り道を作ってソラちゃんが指差した方向に向かいパネルを弄るも反応はない

「パネル関連の電子系統もやられていますか……」

 ソラちゃんは考えながらその間も周りを蠢くゾンビを冷静に斬り倒していく

「これは……もう、手遅れかもしれません、私一人ではあなた達を守りながら尚且つシェルターの人間を助けこの量のゾンビを相手取るのは流石に現実的ではない」

 手近なゾンビを一掃するとソラちゃんは私の後ろに隠れるリアちゃんにそう呼び掛けた

「そんなっ……」

「だから、あなたが選択しなさい、守りたい相手を選ぶんです……家族でも、友人でもいい、そうしたらその人たちだけでも助けて……ここを出ます」

「……」

 一見するとソラちゃんはリアちゃんに残酷な選択を突きつけているように思うかもしれない

 だが実際にこの場の惨状を見ていれば無慈悲だなんだと咎めることなんて出来やしなかった

「……じゃあ、近くに隠れている友人をっ……連れてきます」

「わかりました、それでは出来るだけ早く」

「はいっ!」

 リアちゃんはそれだけ言うと勢いよく駆け出した

「……珍しく文句を言いませんね」

「……言えないよ、こんな状況では」

 お互いを守るように背中合わせの陣形を取りながら会話する

 手近に助けられそうな人間を見つけられなかったからだ

 やはりもう、私達が来るより前から手遅れだったのだろう

 外に逃げていった人達だけでも無事であればいいが

「やっと現実が見えてきたようで何よりです、ちゃんと武器も、使っているようですし」

 ソラちゃんは言いながら私のバールに目を向ける

 銃に関しては球数も限られているので本当に窮地に陥った時だけ使うようにと言われている

「……それにしても妙ですね」

「え、何が……?」

 ソラちゃんは周りを指差して続ける

「ほら、見ていてください」

「あれは……」

 ソラちゃんの指差した先ではゾンビがドアノブを回してドアを開けているところだった

 ゾンビらしからぬ行動をするゾンビといえば嫌でも思い当たる節があった

 そう、あの日見た走るゾンビだ

「ここのゾンビ達には、知能があります、多少ですが……群れに一、二体ならまだしもこの辺り一体全てがそうとなると……それにやはりこれだけ派手にシェルターが襲われているのにゾンビイーターが出動しない理由が……理由……政府側に何かが起きてこの現状を把握出来ていない、もしくは」

 ソラちゃんはそこまで言うと一瞬黙り込んでから続けた

「嫌な予感がします、杞憂だといいのですが……とりあえずリアを連れて早くここを出たほうが……」

「え、何っ!?」

 ガタンっ!!

 ソラちゃんの言葉を合図にしたように勢いよくシェルターのシャッターが降りる

「シェルターの、隔壁が閉まった……?」

「なんで、急に……」

「わかりませんが、少し困ったことになりましたね……」

 シェルターの出口が封鎖されたことでゾンビの群れのなかに取り残される形になってしまった

「ゾンビがっ、こっちに集まって来てるよ……!」

 更にはシェルターの奥から、引いてはドアを開けていたゾンビすら何故か踵を返してこちらに向けて走り出す始末

 明らかなのはゾンビが確実に意思をもって私達を狙っていること

「……ああ、やはりあいつか……こうなれば、仕方ないですか、ウミさん、私の後ろへ」

「私も戦えるよ!」

 私を壁際に押しやり自身の腕で庇う体制を取ろうとするソラちゃんに私は腰のベルトに付けていた拳銃に手を伸ばしながら抗議する

 ここに来たいと言ったのは私だ

 こうなったことに責任がある

 それに前の戦えない私は今はもういない

「いえ、そういうことではないんです、私の前にいればあなたまで傷つけかねない、だからうしろにいてほしいんです」

「え、どういう、こと……?」

 ソラちゃんが私を傷つけかねない

 私は理解出来ずに聞き返す

 そうするとソラちゃんは少し振り返って続けた

「言ったでしょう? オメガウイルスは適合率が50パーセントを越えると特異な能力に目覚める場合があると、私の適合率は50パーセントを越えています、ここで、私の異能を使います、見ていて気分の良いものではありませんが我慢してくださいね」

 ソラちゃんはそれだけ言うと持っていた刀を構え直した

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