「な、こ、これは……みんな、死んでるの……?」
私はソラちゃんの元まで歩いていく為に立ち上がる
足元はまだおぼつかず掴み取ろうとした私にかけてくれていたソラちゃんの上着は地面にと滑り落ちた
それでもそこに着眼している場合ではなく上着を放置したままソラちゃんの隣に立った
「大丈夫ですよまだ死んでいませんから」
言いながらソラちゃんは刀で倒れ付した男達を示す
確かに落ち着いてよく見てみると皆怪我は酷く呻いているものの誰一人として息をしていないものはいないように見えた
「そっか……」
ソラちゃんも殺す気はなかったのか
そう安堵したときだった
「まぁ、これから」
ソラちゃんは言いながら刀を無表情に振りかざして
「死ぬことになりますが」
目の前で恐怖に顔を歪める男相手に何の迷いもなく振り下ろそうとした
「ソラちゃん!!」
私は慌ててそのソラちゃんの腕を掴んだ
「……また、止めるんですねあなたは」
ソラちゃんは疎ましそうに、悲しそうに私を睨み付ける
そんなソラちゃんの表情を私は見たことがなくて
怯みそうになりながら、それでも掴んだソラちゃんの右手首を離すことはせずより強く握りしめた
「止めるよ! だって……」
そこまで言ってどう伝えればいいかわからなくなってしまった
何か、伝えなくてはいけないことがある筈なのに、殴られた頭が痛んで倒れている間にあったことがいまいちちゃんと思い出すことが出来なかったからだ
「何か考えてらっしゃるようですがあなたが止める理由がもうわかりません、あなたは、後ろから奇襲されて殴られて、意識を失った、当たりどころが悪ければ死んでいたかもしれない、それでもあなたはまた止めるんですか?」
ソラちゃんは勢いよく私の手を振り払うと刀を持ったまま自分の顔を両手で覆ってくぐもった声を漏らす
もう、我慢ならないのだと言うように
「……止めるよ、ソラちゃんに殺しはさせない」
それでも私は、ソラちゃんに誰かを殺させる気はないし私も誰かを殺しはない
でもこれはさっきまでの私の考えとは違って、私はソラちゃんの心を守るためなら殺しはせずとも誰かを傷付ける覚悟は決めている
「それは人間だからですか? 先程も言いましたが害なす者はゾンビだろうとゾンビイーターだろうと人間だろうと、私は殺します、あなたを守ってユートピアを探すと決めたその時から最優先はあなたの命ですから」
ソラちゃんは言いながら刀で強く地面を打った
いつだってソラちゃんのなかでは敵は生かすか殺すかで、その中間という感覚はない
それは、親に売られ実験台となり、ゾンビイーターとして生きてきたソラちゃんの人生のせいなのだろうか
「この前のゾンビイーター……トトの時は最終的に逃がしてくれた、だから今回も逃がしてあげて欲しい、結果として私は無事だったんだから」
それなら、私がこれから伝えていけばいい
ソラちゃんは優しいし頭だって良いからきっといつか分かってくれる日が来る筈だ
「……結果として無事だった、それは確かにそうかもしれません、でも今回と前回では明確に違う部分があります、前回はあなたは大きな怪我は負ってない、でも今は」
ソラちゃんは少し乱暴に私を引き寄せると優しく私の頭、殴られた部分に手を添えた
「痛っ……」
「ほら、こうして手に血が付くほどの大怪我を負わされているんです、だから赦すことは出来ない」
そうして見せられた手のひらにはべっとりと血痕が付いていて、自分でもここまで出血しているとは思っていなくて少し血の気が引いた
「こ、これぐらいなら大丈夫だよ! もう誰も何も出来ないよ、だから――」
「それが甘いって言ってるんです……!」
それでも私が止めようとすると、ソラちゃんは初めて私にたいして声を粗げた
「っ……」
その声に含まれた怒気に身体が萎縮して何も言えずびくりと肩が震える
そんな私を見ながらソラちゃんは続ける
「この世界はっ、退廃している、政府もほとんど機能していない、機能している部分ですらゾンビイーターとか、国を守るなんて名目の元に自分の欲を満たすために活動しているものしかほとんどありません、そんな世界でそれだけのこと、これだけのことなんて何でも赦して誰でも助けて、それでどれだけの目にあったと思っているんですかっ! そもそも私と出会ったことでさえあなたが私の身を案じたせいで、そのせいでこうしてあなたまで追われる身になっているんです、そろそろ理解してください、このまま甘いまま生きていけばいずれあなたは……死にますよ……」
そう糾弾するソラちゃんの瞳には怒りの色はなく、ただ恐怖に揺れていた
それを見て、ここまでのソラちゃんの動揺は私が頭を殴られたせいであるとやっと察した
誰かが、言っていたではないか
ソラちゃんは怖がりなのだと
私を失うということにたいしてそこまで恐怖を覚えてくれたのだ
「……大丈夫だよソラちゃん」
私は言いながら振り払われた手をもう一度強く掴んで引き寄せた
「何がっ――」
「私は、ソラちゃんを残して絶対に死なない」
反論しようとするソラちゃんが何かを言う前に私はソラちゃんの瞳を見てそう断言した
「何でっ、そんなことが言いきれるんですか」
少し逡巡した様子のあとに少し怪訝そうな表情を浮かべるがそれでもソラちゃんは私を振り払おうとはしない
「だって、ソラちゃんを残して一人でなんて死ねないよ、私は、ソラちゃんが鬼にならないように見てないといけないから」
そう、少しずつ思い出してきた
あの人は確か、そう言っていた筈だ
「なんの話をして……」
私の要領の得ない言葉にソラちゃんは少し戸惑ったような反応をする
それもその筈だ
私でさえ未だに頭の整理が出来ていない
「だから私は……」
それでも伝えなければ
そう、思った時だった
「くそっ……なん、なんだお前は、オレは、食料を持って帰らないと……だから、死ね!!」
野盗のリーダーと思われる男が懐から一丁の拳銃を取り出して震える手でこちらへ向けたのだ
そしてそのまま
バンッ!!
迷うことなく銃のトリガーを引いた
「ソラちゃん!!!」
その弾丸は明確にソラちゃんの背中に被弾して
私はなかば悲鳴のような声でソラちゃんの名前を叫んだ
前にも一度、あったように