それから私達はまた旅を再開した
このあたりまで来ると田園風景なども増えてきてぽつぽつとある建物に絡まる蔦や苔などこの世界が廃退して徐々に自然に返ろうとしていることを自ずと理解する
ソラちゃんは落ち着いたらまた話してくれると言っていたが次の野営の時もその次の野営の時も何も話してはくれなかった
彼女がゾンビイーターを抜けた理由
彼女だけが追われる理由
トトというゾンビイーターの少女が使った特異な力、覚醒という言葉
何一つ私にはわからないままただ時間だけが進んでいく
「ウミさん、まだ眠っていないんですか?」
テントの中で何度も読み返してボロボロになった小説を読み返していれば明かりが消えないことを心配してかソラちゃんが顔を覗かせる
「うん、少し考え事してて」
私は読んでいた本を裏返しに置いて笑って答える
「……この先に確か大きなデパートの跡地があります、明日はその中の探索をしなければいけませんから早めに休んだほうがいいですよ、もう支援物資には頼れませんから」
あの後私達が話し合って決めたのは国の支援物資には頼らないということだった
一度の物資の受け取りで二回もゾンビイーターとの戦闘を経験してあまりにもリスクが高すぎるという判断を下した
「うん、わかってる」
ソラちゃんが話してくれるのはいつになるの?
そう聞きたかったが私は言葉を飲み込む
「デパートで物資の確保が出来たらまた、話しましょうか、この間の続きです」
「ソラちゃん……」
また、顔に出ていたのだろうか
ソラちゃんはやれやれといった様子でそう付け加えた
「でもあなたも私に話さなければいけないことがあるのではないですか?」
「えっ……」
そのままソラちゃんは屈みこんで座っていた私と視線を合わせる
何か、少し怒っているような雰囲気を感じる
私が話さなければいけないこと
ひとつだけ、心当たりがある
「戦闘力の皆無なあなたがどうやってトトをあそこまで追い詰めたのか、私はそれがずっと不思議でなりません、何をしたのか、それを私に話すべきではないですか? 私の秘密を聞きたいのであれば、そう思って私はあなたから話をされるのを待っていました」
「そ、れは……」
その通りとしか言いようが無いし反論も出来ない
私はソラちゃんの秘密を聞こうとしているのに私は自分の秘密を話さないなんてあまりにもフェアじゃない
それでも私は出来ることなら話したくないというのが事実で
でもそれはソラちゃんだって好んで話したくはないのは同じことだろう、それなのにこうして自分から話を振ってくれた
私は自分のことをつつかれたくなくて自分から話を振らずに相手から話してくれるのを待っていたというのに
「話す気はない、ということですか、それなら無理に話せとは言いませんが……少し、動いていない筈の心臓が、痛むような気はしますが、これがどういう感情なのかまでは思い出せません」
「ソラちゃん……」
ソラちゃんは迷っている私を見て諦めたように自分の胸に手を当ててぽつりぽつりとそれだけ話すと立ち上がった
「それじゃあ私は外で見張りをしていますから早めに休むように」
以前私がソラちゃんにやったように私の頭にポンッと手を置いてからソラちゃんはテントを出ていった
「……」
撫でられた頭に手を置く
ソラちゃんは、この数ヶ月で驚くほどに変わった
出会った頃よりもずいぶんと感情を表に出すようになった
本人曰く無くしてしまった感情を取り戻しつつあるということだが私は元々感情を無くしていたわけではなく奥深くに押し込めてしまっていただけだと思っているが
それにソラちゃんからのスキンシップも増えた
私が特異体質であると知った後も最初は触れあうことに怯えていたように思う
それが今のように彼女から触れてきてくれることも増えて、それが何故か心地よく感じる
あんなに話そうとしなかった自身のこともこうして話そうとしてくれている
それに比べて私はどうだろうか
シェルターを追い出されてソラちゃんと出会って、何か変わっただろうか
いや、何も変わっていない
いつだって自分本意で自分の価値観を押し付けて、ただそれをソラちゃんが受け入れてくれているだけ
私は自分のことも話そうとしないのに
いつまでもうじうじと昔のことを引きずる自分が嫌になる
私は開いて置いてあった本を閉じるとリュックにしまいこむ
私も、変わらなければいけない
そうしなければ、これから先、ソラちゃんに合わせる顔がないから
明日話す
そう覚悟をつけて眠たくない瞳を無理やり閉じた