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第12話 異能の片鱗

 先に攻撃に転じたのはソラちゃんだった

 トトの大振りの一撃をすんでのところで避けるとそのまま一撃刀を振るう

「っ……!」

 だがそれが通ることはなかった

 確実に隙をついての一撃で、背後を取られた彼女が避けられるものではない

 実際に避けることはなかった

 だが通らなかった

 それは何故か

 簡単なことだ

 トトの背中から三本目の腕が生えてきて刀を受け止めたのだ

「これは……覚醒してるのかっ……」

 三本目の腕に捕まれた刀を無理やり押し切ってもう一度刀を振り上げる

「ソラちゃん!!」

 そんなソラちゃんを慌てて私が引き寄せるとソラちゃんのいた場所にトトから生えてきた無数の腕が降り注ぐ

 何本かこちらまで伸びてきた腕をソラちゃんがバサバサと切り落とすがすぐに再生してしまう

 おかしい

 ソラちゃんから聞いた話ではゾンビイーターは切れた腕を繋げれば動くとのことだった

 でもこの子の場合は切った先から再生している

 ゾンビに自動治癒のような性能があるとは聞いたことがないし三本目、四本目の腕が生えてくるなんていうのも初めて見た

 ソラちゃんがさっき言った覚醒、という言葉が関係しているのだろうと思うがまだ断定は出来ない

 そして今は考えている場合ではない

 またあれを使ったにしてもこの状態のトトに効くとは思えない

 そうするとソラちゃんに頼るしかないが

 だけどトトがロロを補食してから明らかにソラちゃんの様子がおかしい

 さっきの攻撃だって今までの戦闘を見ていればソラちゃんだったら簡単に避けられた筈なのだ

 私の助けなどなくても

 何とか切り落としていた背中から生えてくる腕が止まってトトがこちらを振り返る

「痛イから、アンマりアバレナイデよ、ボクはたったヒトリのあねをタベタンダよ、だからゼッタイニここでオネエサンタチをコロサナイト割に合わないヨね……ぐ、ぅっ」

「……」

 言いながらトトは苦しそうにうずくまってしまった

 トトは痛い、と言った

 ゾンビは痛みを感じない筈なのに

 今、彼女はゾンビとはまた違う何かに変貌しようとしているとでも言うのだろうか

 だがそれよりも、トトを見るソラちゃんの瞳が動揺に揺れ、手に持った刀には必要以上の力が込められていることがただ心配だった

 まるでこの光景から別の何かを見ているようなそんな感覚を覚える

「ソラちゃん! ソラちゃんっ!」

 肩を叩いて必死で名前を呼べば少しだがこちらへ視線を向けてくれた

「もしね、この場にいるのが辛いなら、ソラちゃんは先に逃げて」

「……え」

 私の出した選択にソラちゃんは明らかに動揺する

「ソラちゃん身体能力高いからその穴から上に登るのは簡単でしょ? 大丈夫だよ私にはとっておきがあるから、さっきだって大丈夫だったでしょ? とりあえずこの子を何とかしてから追いかけるから、ね?」

 肩を掴んでそんなことを言っている間にもトトが立ち上がるかもしれない

 その前にソラちゃんを説得したい

 実際に一人であれば迷わず悪癖を使えるから何とかなる可能性もある、と思いたい

「そ、そんなこと出来るわけっ……」

「そんなこと言ってて二人とも死んだら元も子もないでしょ、私はその瓦礫を登っている間に捕まるかもしれない、それならソラちゃんが登ったほうがいい、そのほうが生存率が上がるから、それで、もし私が死んだら代わりにユートピアをみつけて」

 ソラちゃんの否定の言葉を遮って続ける

 このままではどちらにしろ全滅

 それならソラちゃんだけにでも生きてほしい

 私は散々守られたのだ、今度は私が守る番

「…………っ、それだけは出来ません!」

 ソラちゃんは半ば叫ぶように言いながら肩に置かれた私の手を握った

「ソラちゃんっ! ソラ、ちゃん……」

 最初は責任感からそう言っているのだと思った

 でも彼女の瞳を見てそれが間違いだったと悟った

 ソラちゃんの瞳がさっきまでの動揺に濡れた過去を見る瞳ではなくしっかりと前を見据えたいつもの強い瞳に戻っていたからだ

 私はゆっくりソラちゃんの肩から手を離す

「彼女の様子が変貌したことに関しては後で彼女を倒してから説明します、最悪私にもとっておきはありますし、何よりも、この旅のなか誰かが死ぬことがあるのであればそれは、二人が一緒に死ぬときだけです!」

 最後の言葉と同時にソラちゃんが地面を蹴るのとトトが立ち上がるのはほぼ同時だった

「くっ……」

 トトの腹から飛び出してきた先ほどよりも大きい腕にソラちゃんの振った刀は弾かれる

 それでも止まらず何度か振るって3度目の叩きつけで腕が二の腕辺りからぼとりと音を立てて千切れて落ちた

 そのままソラちゃんが本体に攻撃しようとしたが第二、第三の腕がその度に攻撃を阻む

 無限に生えてくる腕もそうだが何よりもその硬度が問題のようだった

「アハハっ! ぜんいんしんじゃえ!」

 ボロボロと涙を溢しながら攻撃してくる彼女が痛いのははたして斬られた腕なのか、はたまた姉を犠牲にしたことで傷ついた心なのか

 私にはその両方に見えた

 〖ゾンビイーターはさ、それぞれ事情があるから〗

 そんな彼女を見ていると、ふとフタバちゃんが言った言葉を思い出した

 彼女たちも、そしてソラちゃんも

 何かを抱えて何かのためにこうして戦っているのだろうか

 だとしたら、どれだけ悲しいことなのだろう

「ウミさん!!」

 つい、そんなことを考えてしまった私の名前を強く呼ぶその声で現実に引き戻される

 目の前にはソラちゃんが捌ききれなかった腕が一本迫ってきていた

「あっ……」

 慌ててバールを強く握ったが振り上げるまではいかずそのまま胴体を掴まれ持ち上げられると思い切りトトのほうへと引き寄せられる

「まずは、ひとりめ」

「ウミさんっ!!!」

 ソラちゃんは何とかこちらへ来ようとするが腕に邪魔をされてそれは叶わない

 あ、死んだ

 目の前で大きく広げられた口を見て自分の死を覚悟する

 〖二人が一緒に死ぬときだけです!!〗

 だが瞬間ソラちゃんの言葉が頭を過る

 そうだ、私が死ねばソラちゃんは死を選ぶかもしれない

 それだけは絶対にあってはならならい

 今日は色んな人の言葉に色々なことを思わされる日だ

 そうだ、諦めるな

 まだ何か方法があるかもしれない

「ギャッ!!」

 私は噛みつこうとしてきたトトの顔めがけて持っていたバールを振り下ろした

 トトは奇声をあげて私を頬り投げた

「危ない!」

 空を舞う私を腕の猛攻が少し弱くなった隙をついてソラちゃんが受け止めてくれる

「大丈夫ですかっ!?」

 私を抱えたまま普段から白い肌をさらに白くして私の顔を覗く

「うん……心配かけてごめんね」

 私は下ろしてもらいながら謝る

「そんなことはいいんです、怪我さえなければ……」

 しっかりと私が立つのを確認してから安堵した様子でそう呟いた

「ありがとう……ねぇ、もしかしたらあの子の弱点がわかったかもしれない、違うかもしれないんだけど」

 弱点、というほどのものではないかもしれない

 それでももしかしたらこれが突破口になるかもしれない

 半分は賭けだ

 それにソラちゃんを巻き込むことは果たして是なのか

 でも

「弱点、ですか、どういうことか聞いてもいいですか」

「うん、勿論」

 聞く本人に迷いがないのであれば私はそれを託すだけでいい

 私は今までのやり取りで感じたことをソラちゃんに伝えた

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