目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報
第11話 選ばれた人間

 相手は武器のようなものは見た限り持っていないがもしゾンビイーターなのであればフタバちゃんのようにどこかに携帯している可能性も高い

 そうでなくても地面に穴を開けるほどの膂力

 一度でも受けたら人間の私では致命傷だ

 覚悟を決めたのに考えれば考えるほどに私に勝機は見えなくて、つい後退りする

「なんで後退りするのかなぁ、やっぱり一人では戦えない? それならやっぱりボク達の作戦勝ちだね、バラバラにして弱いほうから叩けばいいんだ」

 そんな私を嘲笑うように嫌な笑いかたをしてゆっくりと距離を詰めてくる黒い少女、トトの底知れない雰囲気に顎を汗が伝う

 今まで対敵してきた相手、ホシノさんやフタバちゃんとは何か、根本的に違うことを伝えるために脳が警鐘を鳴らしている

 それでも

「……ソラちゃんにいつだって守って貰ってる、でもソラちゃんは自分のことを話そうとはしないからそれが悲しかったけど、そんなソラちゃんが自分のことを話そうとしてくれたのに私だけが隠し事したまま隠し事を隠し通す為に何もせず殺されるなんておかしいよね……」

 引けない

 私は深く息を吐くと構えていたバールを下ろした 

「? 会話になってないよー、おねーさんは弱いからボクに勝てない、つまりもうあのおねーさんには会えないのに隠し事も何もないじゃん」

 目の前まで迫った少女はバカにするように目の前で両手をひらひらと振って見せる

 それにたいして私はただ笑顔を返して言った

「そう、私は弱い、私は、ね、この悪癖のせいでいろんなシェルターを散々たらい回しにされたから出来る限り誰にも知られたくないし使いたくなかったんだけど覚悟は決めてたし、使うよ」

 ほら、私はあなたを使う覚悟を決めたよ

 後は、あなたが応えるだけ

 そうでしょう?


「これは、地下鉄? あなたは一体……その力から見てゾンビイーターでしょうが私はあなたを見たことがないですよ」

 地面が崩れた時に私は真っ先にウミさんの元へ戻ることを優先したが一緒に落ちていく白い少女に捕まれた為に戻ることが出来なかった

 落ちた先はおそらく地下鉄

 ここまで全て相手の計算通りだろう

 人並外れた力からしても人間ではないことは明確だがこの二人は私が組織にいた時にはいなかった

「そうだよ、見たことなくて当たり前、だってワタシとトトがゾンビイーターになったのは最近だから」

 少女はそう言うとくすくす笑った

「成る程、まぁあの女がまだ研究を続けていることには特段驚きはしませんか……とりあえずウミさんの元に戻るのが最優先、申し訳ないですが手加減は出来ないですよ」

 私は刀を引き抜くと構える

 今まで一緒に旅をしてきたがウミさんには特殊な体質こそあれぞ戦闘力は民間人のそれ

 だから、1分でも1秒でも早く戻らなければいけない

 何故なら、彼女を私は失いたくないと、最近考えてしまうくらいには大切に思っているからだ

 気恥ずかしいし伝える気などないが

「ワタシのてきごーりつは45パーセント、そう簡単にはいかないわ」

 その言葉を聞いて

 私は安堵していた

「なんだ、その程度の適合率ですか、それならよかったすぐにでも戻れそうですね、何故なら私の適合率は――」

 言いながら私は強く刀を握りしめた


「なん、で、なんなんだよ!! おまえは一体何者なんだ!! おかしい、ボクはてきごーりつ50パーセントなのに、こんなの、おかしいだろ!!」

 きゃんきゃんと喚く子犬の襟首を掴みあげる

「っぐ!!」

 苦しそうな声をあげる子犬をそのまま引きずって開いた穴に投げ込むと自分も穴の中に飛び込んだ

 ほら、これでいいんだろ、ウミ?


「なんで、なんでなんでなんで! 聞いてない! なんなのその力は!」

 降りた先ではソラちゃんと白い少女、ロロが戦闘をしている

 いや、的確にはしていたが正しいかもしれない

 欠損した右腕と左足、顔には大きな切り傷、そして首もとに突きつけられた刀とすでに勝敗は決していたからだ

「適合率45パーセントでは知らないのも無理はないでしょう、知っているのは50パーセントを超えてさらに力を手に入れた一部の人間だけ、言いましたよね、申し訳ないが手加減は出来ないと、あなたを倒して私はウミさんを助けに行きま――」

 そのままソラちゃんは首をはねようと刀を振り上げた

「おねえちゃんっ!!」

 そんな状況に割ってはいったのはトトだった

「え……トト!!」

 異常に取り乱して縋るトトをロロが慌てて残った腕で抱き締める

「ウミ、さん? ですか、本当に……」

 そんなトトの後ろから現れた私を見て、初めてソラちゃんが一瞬ではあるが私にたいして警戒する様子を見せた

 手に握った刀も強く握られてかたりと音を立てたがすぐに力は緩められた

「…………ごめんソラちゃん、少しズルしちゃった」

 悪癖を使ったせいで少し身体が動かしにくいがなんとかソラちゃんの横までたどり着く

「トト、大丈夫!? トト!」

 欠損した身体で妹をかばう姉と取り乱した妹

 これではまるで私達が彼女たちを虐めているようであまりいい気分はしない

 それはソラちゃんも感じたのだろうすでに刀は下ろされている

「おねえちゃん、くやしいよぅ! ボク50パーセントなのに! 選ばれたのに! 強いのに! なんなんだよあの人間は!!」

「一回帰ろう、ね、ね?」

 泣きわめく妹にそう提案するロロ

 帰ってくれるのであればそれに越したことはない

 私達は別にゾンビイーターを殺したいわけではない

 降りかかる火の粉を払っているに過ぎないのだ

「…………ダメだよ、ボクは選ばれたんだから、おねえちゃんは、選ばれなかったのに」

 だがロロの言葉にトトが頷くことはなく、ゆらりと立ち上がった

 ソラちゃんがそれに反応して私を後ろに庇いながら刀を構える

「……トト?」

 ロロは不安そうに妹の名前を呼ぶ

 二人の世界に入ってしまっているのかどちらもこちらを見ることはない

「そうだ、いいこと考えた、ねぇおねえちゃんはボクのこと好き?」

「勿論! たった二人の姉弟だもの!」

 トトの問いかけに逡巡することもなく頷くロロ

「じゃあ、ボクの血肉になってボクを助けて……?」

「っ!!」

 それからトトがロロに食いつくまで一瞬だった

 突然の出来事に私は息を飲む

 だが

「いい、よ、それてトトが、強くなるなら」

 食いつかれているロロは笑っていて、自身を食らう妹を残った腕で強く抱き締めてそれを受け入れていた

 衝撃こそ受けたがそれを異常だとは思わなかった私もおかしいのかもしれない

 それでも、私にはロロの気持ちがわかってしまったから、どうしてもそうとは思えなかったのだ

「ソ、ソラちゃん、今のうちに逃げ……」

「この状況では、逃げられないでしょう、逃げても追い付かれる」

 トトがロロを食べているうちに出きる限り逃げて距離をとるそんな提案はソラちゃんに一蹴される

「ゾンビイーターはゾンビを補食すると強くなる、それはお話しましたが、ゾンビイーターもゾンビです、ゾンビイーターがゾンビイーターを補食すればそれもまた能力の向上に繋がるんです、それも、ゾンビを補食するよりもより強力に、だから逃げられません」

 ぞわりと背中が粟立つのを感じる

 それはソラちゃんの説明のせいではない

 目の前にいる黒い少女の雰囲気が変わったのを肌で感じ取ったからだ

 先ほどまでとは違う感覚

 近いもので言えばホシノさんに悪意を向けられた時のような感覚だ

「はぁ、おねえちゃんとひとつになったボクに、はたしておねえちゃんタチは、カテるノカなァ」

 少しずつ言葉がかたことになっていくトトはにたりと笑うとこちらへ飛びかかってきた

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?