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第10話 双子のゾンビイーター

 それから私達はさらに北を目指した

 早く食べてしまえと言われたフタバちゃんから貰った缶詰めはまだ蓋を開けられないでリュックの底に眠っている

「けっこう進んだねー、もう少ししたらトーホクに入るんじゃないかな」

 私は辺りをつけてから持っていた地図をしまう

「おそらく、今日中には行けそうですね」

「あ! 見てソラちゃん、線路があるよ、せっかくだからこれ辿っていこうよ」

 歩いているとふと廃線になった線路を見つけた

 世界が廃退してからすぐに電車という概念はなくなって、今では整備されていない雑草まみれの線路だけが寂しく残されているだけだ

「……普通に道を進んだほうが早いと思いますけど」

 ソラちゃんの指摘はもっともだ

 だが私は肩をすくめて見せる

「分かってないなぁ、こういう二人旅っていうのはマンネリしないことが大切なんだよ、ずっと同じ景色を進んではテントを張って休んで歩くだけじゃあ飽きちゃうからさ、それに昔見た映画でね、こうやって荒廃した世界でボロボロの線路を辿るシーンがあって少し憧れてたんだ……」

 そう、別にソラちゃんとの旅に飽いたわけではないが進んではゾンビに邪魔されて、目に写る光景はずっと瓦礫の山なんてさすがに心労が出てくる

「最後のが、本音ですか……」

「……やっぱりバレた?」

 なんてそれっぽく語ってみたがソラちゃんにはお見通しだったようだ

 そう、世界がこんなことになるまでは、私はよく映画を観た

 ある一つの映画の最後に父親と血の繋がっていない息子が線路に沿って歩いていく、なんて風景が写し出されたことがあった

 こうして廃線を見てふと、思い出して懐かしくなったから、というのが一番の理由だった

 勿論他のことも理由ではあるが

「さすがにわかります、でも、あなたがそうしたいなら私は止めません」

 ハァッとため息を吐いて呆れたようにソラちゃんはそう言った

 ソラちゃんはいつだって私の意思を率先してくれるからたまに心配になってしまう

「ねぇソラちゃん」

 暫くはじゃり、じゃりっと路線にしかれた石を踏みしめる感覚を楽しみながら歩いていたがこちらに気付かずただ前を見て歩いているゾンビを見かけて一気に気分が沈んで一歩先を行くソラちゃんに呼び掛けた

「なんですか?」

 それに反応して歩くスピードを私に合わせてくれる

「ずっと、気になってたの、ソラちゃんを追ってたホシノさんにフタバちゃん、追ってくる人達はたくさんいるけど全員と仲が悪かった訳じゃなさそうで、カナタさんとかもだし……ソラちゃんは何が嫌でゾンビイーターを抜けたの?」

 きっと今までだったら思っても聞かなかったと思う

 フタバちゃんのことがあった今、それから続けている旅の中で少しだけど心を開いてくれているような気がした、だから今なら答えてくれるのじゃないかと思ったのだ

「……確かに、ホシノのように反りの合わない人以外にも、仲がいいとまでは言いませんが会話を交わす程度の関係を築いていた人もいましたが、それでも、生きている限り延々と追われることになっても、私はあそこを出なければいけなかった、それだけのことが起きたんです」

 それだけのこと、その部分を濁されたことでまだ私には話そうとは思えていないことが少しだけ悲しかったけど、私も言っていないことがあるのだから、何も言えない

「じゃあ、このまま追われて逃げ続けて、最終的に何がしたいの?」

 だからこうして気になっていたもう一つのことを聞いた

「……今こうしてユートピアを探しているじゃないですか」

「それは私の目的でしょ?」

 そう、それはあくまで私が提案した私の目標

 ソラちゃんはそれに付き合ってくれているだけに他ならない

 私に出会う前はソラちゃんは何を目的として生きてきたのだろうか

「……今は私の目的でもあります、実際のところ一人で逃げ隠れしているときはいつ死んでもいいと思っていました、まぁすでに死んでいる身ですが、でも、あなたに、ウミさんに出会ってから少し前向きになって、考え方も変わりました、だから話します、元々は話す気なんてなかったんですけど、私がゾンビイーターを抜けた理由を」

 ドキリと心臓が鳴った

 ずっと、濁されていた部分

 ソラちゃんの確信に迫る話を、ついに教えてくれる

 ごくりと喉を鳴らしたその時だった

「あー、見つけたよロロ」

「ほんとだねトト」

 前方の線路から二人の少女が歩いてきた 

「……子供? どうしたのこんなところで」

 双子だろうか、よく似ているが服装がロロと呼ばれた少女は白を基調にした、トトと呼ばれた少女は黒を基調にした所謂ゴシックと呼ばれる今のご時世この世界には似合わない衣装にどこか世間離れした雰囲気を感じさせる

「じゃあボクがこっちのお姉さん」

「じゃあワタシはこっち」

 しまった

 そう思った時には遅かった

 あからさまにこの場に似合わない風体から警戒するべきだったのに何故、私どころかソラちゃんまで反応が遅れたのか

 それは二人の少女が幼かったからだ

 おそらく10をギリギリ満たすか満たさないか

 そんな少女達が笑顔でとことこと近づいてきたことに一瞬反応が出来なかった

「「せーのっ!」」

 白いほう、ロロがソラちゃんのほうに近づいて黒いほう、トトが私の横に立つと二人で思い切り地面を殴った

 その衝撃で線路のあった地面が抉れて崩れるのに巻き込まれてソラちゃんとロロという少女が落ちていった

「ソラちゃん!!」

 慌てて叫んで手を伸ばそうとした私の襟首をトトが掴んで投げ飛ばす

「いっ……」

 線路をかこう柵にしたたかに身体を打ち付けてくぐもった声が漏れる

「おねーさんはボクと遊ぼうよ」

 そんな私の前に黒い少女はソラちゃんを追えないように立ちふさがると楽しそうにそう

「っ……」

 これは、まずい

 でも自分でどうにかするしかない

 ずっとソラちゃんに頼りきりではダメだ

 私は、私自身の力で、戦わなければいけない

 私はキッと黒い少女をにらんでバールを構えた

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