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第9話 お人好しは直したほうがいいかもね

 ソラちゃんはその後少し周りの様子を見てくるとその場を去っていった

 普段であれば私から離れるという選択を取ることはないだろうがそれでもきっと、今はこの場にいられなかったのだと思う

 私はソラちゃんを見送った後にそっとフタバちゃんの元へ近寄った

 自分の運命と真っ向から向き合った強い彼女に、せめて手だけでも合わせたかったからだ

「ん、ゴホッ! ゲホッ! はっ……」

 かがみこんで手を合わせようとするとフタバちゃんが思い切り咳き込んだ

「ふ、フタバちゃんっ!! 生きて……」

 私は慌てて咳き込んだせいで持ち上がった頭の下に手を添える

「いやぁ、ゾンビって、つらいわ、こんな状態でもすぐには……死なないんだから、はっ……」

「か、身体、そうだ身体! 前ソラちゃんの腕は縫い合わせたらくっついて……」

 身体の一部が欠損してもくっつければ問題ないとソラちゃんは言っていた

 もしかしたら今くっつければまだ間に合うかもしれない

「さすがに、胴体はくっつかない、から、おそらくもうすぐ、死ぬ」

 だがそんな希望もフタバちゃんの言葉で絶望に変わっていく

「そんなっ……」

「ははっ、自分のこと殺そうとした相手に、なに言ってんだか、首、切らなかったソラも、あんたも、お人好しすぎ……」

 フタバちゃんは苦しそうにしながらも楽しそうに笑う

 まるで何か、しがらみから解放されたような

「だって、フタバちゃんが悪いわけじゃないから」

 だから、私もそう言って笑った

「そーいうところ、直したほうがいいかもね、これから生きてくなら、ソラがさ、変わったの、羨ましかったけど、嬉しかったんだ、ゾンビイーターは大体、皆事情持ちだし、羨ましかったのは事実だけど」

「は、話さないほうがっ……」

 ぽつり、ぽつりと語られるフタバちゃんの本音は途切れ途切れで苦しそうで止めようとしたがフタバちゃんは首を横に振って笑った

「だい、じょーぶ、ゾンビだから痛くないし、まぁ助言だけど、これから先そんなに優しかったらきっと生きてけないから、特にホシノは、周りとか気にしないし、じゃあ、うちの友達、よろしくね、あー、最後に、うちが上げた缶詰めは、早めに食べたほうが、いいかも、ね……ごめん、ね……」

「フタバちゃん……」

 それを最後にフタバちゃんが言葉を発することはなかった

「大丈夫だよ、私は、優しくなんてないから、私は、あの子の分も何としても生きなければいけないから……」

 自分の覚悟を反芻して、フタバちゃんの目蓋を下ろして手を合わせてから立ち上がった

「お待たせしてすいませんでした」

 それからほどなくして戻ってきたソラちゃんはいつも通りで

「もう、大丈夫?」

「……元々大丈夫です」

「そっか」

 そんな風に聞いてみても素っ気ない態度が返ってくるだけで、私にはまだ本心を話せないとあんに言われているようで少し寂しかった

「ねぇソラちゃん」

 私は今日の出来事を見ていて決意したことを伝えるために名前を呼んだ

「何ですか?」

「ゾンビイーターは、ゾンビを食べると強くなるんだよね」

「……はい」

 苦虫を噛み潰したように少し表情を歪めながら頷く

 きっと私には知って欲しくなかった情報なのだろう

「でも、その分凶暴化の可能性も上がる」

「……そうですね」

「約束してほしい、これから先、なにがあっても、どんな状況になっても、絶対にゾンビを食べないで」

 私はソラちゃんの手を強く握って決意を伝えた

 今伝えておかなければもし、ソラちゃんがゾンビ化してからでは手遅れだ

「……それは、状況による――」

 私の手を優しく振り払って踵を返そうとするソラちゃんの腕を掴むと強く引き寄せた

「ダメだよ、絶対に、これだけは引けない、絶対にしないって約束して」

 鼻先が触れ合いそうな距離で真剣に瞳を覗き込んで伝える

 他のことなら折れてもいい

 でもこれだけは折れられない

「わかり、ました……」

 何度か瞬きした後にうつむき加減に目線を反らしてしぶしぶの了承を得る

「ごめんね」

 私は謝ると手を離した

「なんであなたが謝るんですか?」

 私がつかんだ手首を擦りながらソラちゃんが不思議そうに聞き返してくる

「……色々あって、じゃあ! 夜になる前に移動しちゃおうか! フタバちゃんのことでここにいるってばれるのも時間の問題でしょ? 早く離れちゃおうよ」

 私は空元気で元気を装ってリュックをしっかりと背負い直してまた歩き始めた

 何で私が謝るのか

 それは、ソラちゃんがもしゾンビの補食をするのであればきっと、私が関係している可能性が高いとわかっているからだ


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