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第5話 北を目指す、嘲りの声と

 それから私達はゾンビイーターから逃げるために元々いた日本がまだ崩壊していない時は首都として栄えていたトーキョーから出るために北上を始めた

 南下するか北上するか悩んで、南下すると三大都市と呼ばれていたアイチとオオサカがあることからゾンビやゾンビイーターが多く潜んでいるだろうという予想をしてより人の少ない方向へと向かうことにしたのだ

 それからは日の出ているうちに進んで夜は野営をする、そんな日を繰り返して私達はやっとトーキョーの県境を越えたのだった

「ソラちゃーん、少し休憩しようよ」

「……わかりました」

 トーキョーを抜けて暫く歩いていると倒壊したビルの瓦礫などが主だった景色が少しずつ緑の多い景観に変わっていく

 そして今日は朝から歩いているがどうにもゾンビとの遭遇が多い

 私はゾンビがいる度に迂回を提案したりするのだがソラちゃんは何度言っても必ずゾンビを刀で斬り殺して進む道を選ぶ

 私には戦う術なんてないから戦闘は全てソラちゃんで、それにどうしようもなく負い目を感じる

 だからたまにこうして休憩を促してみるのだが意外と断られることもないから別段急いでいるから正面突破しているわけでもなさそうで

 それなら感染や怪我の可能性を避けて迂回して進んだほうがいいと思うのだがソラちゃんが何を考えているのかは今一まだよくわからないところがある

「ソラちゃんはやっぱり水、飲まないの?」

 シェルターでもらった水も既に底をつきかけているため慎重に飲まないといけない

 井戸や川の水は汚染されている可能性から現在では飲み水には適していないとされているため補充するには国の支援物資かスーパーなんかに無事な飲料があるか探しにいくしかない

「何度も言っていますが、私は大丈夫です」

 それでも毎回自分が飲むときはソラちゃんに声をかけるが毎回返事は一緒で、私は彼女が何かを食べたり飲んでいるところを一度も見たことがない

 自分が何も持っていないから気にしているのかもしれないがそれであっても一体どこでお腹を満たしているのか

 でも何故かそれを聞くのは躊躇われた

 踏み込んではいけない、そんな気がするから

「ごめんねお待たせ、それじゃあ行こうか」

「はい」

 ソラちゃんに休んで欲しくて提案した休憩だったがソラちゃんは座ることもなく、こうしてまた私だけが休憩を取っただけになってしまった

 また、しばらく歩いた頃に今度は群れをなしているゾンビ達がいた

 完全に行く手を塞がれる形だ

「ソラちゃん、さすがにこれは迂回しよう」

「大丈夫です、あなたは隠れていてください、私が殺します」

 言うが早いかソラちゃんは刀に手をかけた

「……なんですか」

 そんなソラちゃんの前に立ってまっすぐその漆黒の瞳を見つめるがソラちゃんは少し怪訝そうな表情を浮かべる

「ダメだよ、別の道からでもそんなに時間はかからないんだから迂回しよう、こんなに大勢相手にして怪我したり、感染したらどうするの」

 実際少しそれれば他にも道はある

 この世界では怪我をすれば命取りだし感染でもしたらそれこそ終わりだ

「そんなこと、気にする必要はありませんから、邪魔ですから離れていてください」

 だけどそんな必死な願いもソラちゃんには届かず、私の横を走り抜けるとゾンビに向かって刀を抜いた

 こうなればもう、今の私では見ていることしか出来ない

 バールを持って参戦したところで足手まといなのはよくわかる

 刀を抜いた勢いで一体のゾンビを切り裂き返す刃で別のゾンビの頭を飛ばす

 私はソラちゃんと一緒に行動をするなかで知ったことが何個かある

 まずゾンビというのは元々死んでいる、つまりは心臓が動いていないからどれだけ攻撃を受けてもばしゃばしゃ血が吹き出すなんてことはない

 もう一つはソラちゃんがとても強いということだ

 こうして応戦しているところを何度も目にしているが一度も怪我をしたところを見たことがない

 だからこその自信から正面突破をかけているのかもしれないがいずれこんなやり方では身が持たなくなる

 だから止めて欲しい、でもどうしたら伝わるのかわからない

 そんなことを逡巡している間にもソラちゃんはくぐもったうめき声をあげながら襲ってくるゾンビを切り捨てていく

「っ……!」

 容赦なくはね飛ばされた首がごとりと音をたてて私のあしもとに転がる

 ぐっと胃からせりあがってくるものをなんとか飲み下す

 ソラちゃんのほうを見ればただ、淡々と表情一つ変えずにゾンビを殺している

 ときにはその腐敗した身体を躊躇することなく素手で掴んでいる時もあった

 はっきり言って凄惨なその状況から目を背けることはしない

 私が戦えないからソラちゃんが戦ってくれているのだから

 しばらくして数十体いたであろうゾンビの群れは一体残らず地面に伏していた

「お待たせしました、行きましょうか」

 ソラちゃんはまるで今さっき何事もなかったかのような冷静さで戻ってくると刀を鞘にしまった

 やはり、これではダメだ

「ソラちゃん」

「……なんですか」

「私が、戦えないから率先して戦ってくれているのはわかる、それに関しては感謝してる、それでも、今みたいのは止めて欲しい」

 言いながら私はソラちゃん腕を掴む

「っ……離してください」

 瞬間ソラちゃんはいつも白い肌をより青ざめさせて思い切り振り払おうとしたが離すことはしなかった

「離さない、自分の命を軽んじるようなこんな戦いかたは止めよう、いずれ絶対に身が持たなくなる、私はソラちゃんに危ない目にあって欲しくないから」

 考えればわかること

 止めて欲しいのであれば自分の感情を吐露して何度でも説得するしかないのだ

 何かあってからでは遅いことを私はよく知っている

「……」

 私の言葉に少しでも思うところがあってくれたのかソラちゃんは斜め下に視線を向けて何か考える様子を見せた

「いやー、化物に向かって面白いこと言っててウケるね」

 嫌な、声が響いた

 前に一度聞いたことのある声

 私がソラちゃんと一緒に逃げることになった要因

「ホシノっ……」

 ソラちゃんが苦虫を噛み潰したような顔で名前を呼んだその少女は倒されたゾンビを踏みつけながら現れた

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