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ゾンビイーター【我死人食者】
クラウン
SFポストアポカリプス
2024年07月17日
公開日
60,383文字
連載中
そう遠くない近未来の話
突如として発生した人を凶暴化させるオメガウイルスにより起きたパンデミックにより世界は廃退していた
とある理由からシェルターを追い出された少女ウミはオメガウイルスの感染者であるゾンビに襲われたところをソラという少女に救われる
それをきっかけに一緒に行動することになった二人
そしてソラとの旅をするなかでこの世界に起きた真実をウミは知ることになる
パンデミックに隠された秘密、ゾンビ、ゾンヒイーターという存在、そしてソラの正体
そんな世界を巡る二人はやがて惹かれ合い、お互いに特別な感情を抱いていく
果たして、二人はこの世界のどこかにあると言われているオメガウイルスの汚染を受けていない居住区画、ユートピアに無事にたどり着くことは出来るのか
ゾンビバトル百合ロードムービーが今、始まる

第1話 廃退した世界、出会うは偶然かそれとも

突然だがこの世界は廃退している

 突如として発生した人を凶暴化させる未知のウイルス、オメガウイルスによるパンデミックで世界が崩壊するまで一瞬の事だった

 人口は激減し景観は破壊され、繁栄していた世界は見る影もなく衰退していった

 所謂、ディストピアとでも比喩しようか

 生き残った人間達は感染者から隠れる為にそれぞれ国の政府が中心となりいたるところにシェルターを設立した

 かくいう私もそのシェルターの一つに身を寄せていたのだが半ば追い出される形で出てきてしまった

『あの女っ、頭がおかしいどうかしてる!!』

 そう糺弾する男の声が未だに頭から離れない

まぁ全ては私の悪癖とでも言おうかそれのせいなので男が一概に悪いわけではないが

そしてそんなもののせいでシェルターを追い出されてしまったわけで

 空は曇天、空気は淀み、辺り一面瓦礫の山

 対して私はシェルターの人達が最後の情けでくれた少しの食糧や生活品が詰め込まれたリュックが一つ

 私は大きく深呼吸して誰に言うでもなく空を仰いで呟いた

「これからどうしよう……」

 もう一度言おう

 この世界は、廃退している


 どれくらい歩いただろうか

 空を見上げてみるがいかんせん曇天のため時間感覚がわからない

 こんなご時世電波時計は貴重品であり勿論私は持っていない 

 まぁ今は国が定期で鳴らしてくれる朝と夜の二回の時報のおかげで朝と夜の区切りだけなんとなく分かるといえばわかるのだが

 鳴るのは12時間に一回のため昼の12時の時報と共にシェルターを出てきた私に今分かるのはまだ夜の12時は過ぎていないということだけ

「……はぁ」

 私は近場の瓦礫の影に隠れながら腰を下ろした

 今日は最悪の日だが最高についてるとも言えるかもしれない

 オメガウイルスに感染した人達は皆意思のない化物となって視界に入った人間を襲い、噛み付かれれば感染する

 その習性からよく映画なんかで呼ばれていたようにゾンビと呼ばれるようになったのだがシェルターを出てきておそらく数時間は歩いている筈だが最初はうろうろしていたゾンビ達がこの近辺に来てから一向に出てこなくなった

 普段シェルターから出て食糧なんかを探したり本当にたまにの国からの支援物資を取りに行く時なんかはそこまでの道すがら嫌でも何体かゾンビに出くわすのだが最初のほうこそあったそれが途中からピタリとなくなった

 ちなみに食料なんかを探しにシェルターを出て途中ゾンビに出くわしても生きて逃げられるのは今時の映画のゾンビと違って奴らは走ることはしないからというのが一番大きいだろう

 次に大きいのはちゃんと計画を立てて数人で纏めて行動するからか

 まぁ勿論それだけ気を付けていても被害者が出ることも少なからずあるわけだが

 そして今は私一人であるからして出来ることならばゾンビには出会いたくないというのが本音だ

 だからこうしてゾンビに遭遇しなくなったのはついている

 私は回りをしっかり確認してからリュックを下ろすと中からペットボトルに入れられた水を出して一口飲む

 休憩して体力が回復してくるとどんどん今の現実味が帯びてくる

 この世界でシェルターを追い出されてさて私はどうやって生きていけばいいのだろうか

 今はとりあえずこことは別のシェルターに向かっているのだがそこに入れてもらったところで私の悪癖があるかぎり長居はさせてもらえないだろう

 実際何ヵ所のシェルターを追い出されたことか

 いやむしろ次は入れてもらえるかすらも怪しい

 シェルターだって無限に人を収用できる訳ではない

 入れる人数には限りがある

 外にいるより安全で人がいて、なおかつご飯にありつける可能性も高くなる

 そりゃ生存者が集まるに決まっている

 衰退した国が必死で用意してもシェルターが足りるわけがない

「……はぁ」

 気づけばまた口からため息が溢れた

 ため息をすれば幸運が逃げるとは言うが今現段階で酷いのだからもうどうにでもなれだ

 暫く空を見上げていてふと気づいた

 それにしても静かだ

 落ち着いた頭で考えればこの市街地に入ってから一回もゾンビと出会っていないなんて流石についている、という言葉で済ますにはあまりに異常ではないか?

 これではまるで……

 パァン! パンパン!!

「っ!!」

 嫌な予感が頭をよぎった瞬間そう遠くないところから大きな破裂音が響いた

 これは、銃声だ

 ゾンビが徘徊し始めてから日本でも銃の所持が合法化されたから銃声自体はそんなに珍しいものではない

 だが銃が発砲されたということは何処かで誰かが襲われているのかもしれない

 ここら一体のゾンビがいないのはその人を追っているから?

 だとすれば今その人は何人のゾンビに追いかけられているのだ

 私は慌てて立ち上がるとリュックを背負った

 そこで一瞬考える

 私なんかが行ってどうなる

 武器だって一本のバールだけで勿論銃なんて持っていない

 合法化されたとはいえシェルターのなかで銃は貴重品だった、さすがに私にはくれる程はない

 つまり行ったところで何も出来ない

 それでも

「迷ってる場合か……!」

 暫くの逡巡の後私は自分の頬をばちっと叩いた

 だとしても今、私が動かない言い訳にはならない

 私は発砲音が聞こえた方向に駆け出した


「ここらへんから聞こえた筈……」

 暫く走っている間も二回発砲音が聞こえた

 そのおかげである程度場所の特定が出来たから音の発生源はここらへんで間違いない筈だ

 それにしては静かだ

 ゾンビは未だに一体も見かけないし何より最後の発砲音からピタリと音が止んでしまった

 もしかしたら既にその人はゾンビに、と嫌な予感が頭を過るが目をつぶりブンブンと頭を振って追い払う

「とりあえずもう少し探して……!!」

 私は顔を上げると慌てて後ろに飛び退いた

 目の前までゾンビが迫ってきていたのだ

 そのままじりじりとゾンビから目を離さず距離を取る

 大丈夫だ

 一体だけなら私だけでもなんとか出来る

 倒すことを考えるのではない撒くことを考えるのだ

 それにしても何故あんな近くに来るまで気づかなかったのか

 おそらく声だ

 ゾンビは唸り声を上げて野暮ったく歩きながら近づいてくるものだがこのゾンビはなんの唸り声も上げず足音も立てずに私の眼前まで迫っていた

 私が目をつぶった一瞬で

 何か、嫌な予感がする

 そしてその予感はすぐに的中した

「なんっで……!」

 そのゾンビは空振りして崩してきた体制を立て直すとこちら目掛けて走ってきたのだ

 私はくるりとゾンビに背を向けて地面を蹴った

 元々倒す気はなかったがこれは余計に逃げなくてはいけない

 だってこんなゾンビを私は初めて見た

 走るなんて聞いてない

 バール一本で倒せるわけがない

 私はその勢いのまま廃ビルの中へと逃げ込んだ


「…………」

 廃ビルの中へ逃げ込んだ私は階段をかけ上がると離れたところにある崩れた壁の後ろに身体を隠して息を潜めて廊下を覗く

 そいつはまだ追いかけてきていた

 奴より早く2階に登れたおかげで隠れるところら見られなかったが私は大変な失態をしてしまっていた

 この部屋は袋小路だ

 つまりあいつがこちらへ来た場合私はもう逃げられない

 緊張で喉がひりつき身体が震える

 声が漏れないように口を覆った手からは汗が流れる

 もう少し、もう少し奥に隠れなければ

 そう思って後ずさった時だった

 カタンっ

「っ!!」

 やってしまった

 足元にあった瓦礫を蹴ってしまったのだ

 その音に耳ざとく気づいたゾンビはこちらを振り向くと私のほうへと歩き出した

 ああ、終わりだ

 まさかシェルターを追い出されて1日目でこんなことになるなんて

 それもこれも私が妙なおせっかいを焼こうとしたせい

 まぁだとしても自分の行動に私は後悔していない

 できればもう少し生きていたかったとかそういう思いは勿論あるけど悔いはない

 だって誰かが困っているのかもしれないのならそれを見捨てるなんてことできないから

 そんなことを考えていれば

 ゾンビはもう目の前で

「っ……諦めるな!!」

 私は叫んで自分に活をいれると持っていたバールを思い切りゾンビに振り下ろした

 ゴシャリ、と音がしてゾンビの頭が少し抉れるがそれは致命傷にはならずゾンビは怯むことさえなかった

 やっぱり、ただの一人間がゾンビを計画性もなしに倒そうなんて無理な話だったんだ

 ああ死ぬんだ、私は

 そう覚悟した、だがその瞬間

 目の前のゾンビの頭が吹き飛んだのだ

「……え?」

 いきなりのことに間の抜けた声を溢す

「……貴女は、人間ですよね、こんなところで何をしているんですか?」

 床に倒れ落ちたゾンビの後ろに立っていたのは刀を手にした美しい少女だった

 年はさほど私と変わらないだろうか

 後ろで纏められた黒髪にそれと相対するように白い肌の少女は言いながら顔をぐいっと近づける

「あの、その、銃声が聞こえたから誰かゾンビに襲われてるんだと思って、探してたら逆にゾンビに追われて……」

 異様に近い距離感で私の顔を覗く少女に私はしどろもどろに答える

「……なるほど、それなら私のせいでもあります、来てください、安全なところまで送ります、今この近辺にはゾンビなんかよりも何倍も厄介な奴らがうろうろしています、早く立ってください」

「あ、は、はい!!」

 少女の有無を言わさない物言いに慌てて私は立ち上がる

 その時だった

 カンッカンッカンッ

 先ほど私が登ってきた階段のほうから誰かが登ってくる足音が聞こえてきた

「もう見つかっていますか、あちらは危険です、窓から出ましょう」

 少女はちらりと階段のほうを覗いて戻ってくるとなんの迷いもなく窓に足をかけた

「え、え! 待ってここ2階だよっ……」

 私は少女の隣から窓の外を覗くがどうにもここから降りられる気は少しもしない

「時間がありません、私の首にしっかり抱きついていてください」

 少女は言うが早いか私を軽々と抱き上げると窓から一気に飛び出した

「え!? 待って待って落ちっ……!!」

 私は反射的に少女の首筋に抱きつくと強く目を瞑った

 きっと次の瞬間には衝撃を受けて地面に叩きつけられるんだ

 そう頭の中で覚悟をしたがどれだけ待ってもそんな衝撃は襲ってこず私はおずおずと目を開いた

 確かに目線の先には地面が見える

 そして私はまだ少女に抱き抱えられたまま

 一体どういうことだ

「とりあえずもう少し離れましょう、そのまま抱きついていてくれますか?」

 私は言葉もなくこくこくと頷く

 それを確認すると少女はたんっと地面を蹴り駆け出した

 まさかこの少女が私を抱えたまま2階の窓から飛び降りてなんの衝撃もなくふわりと地面に着地して見せたというのか

 そして今度はそう体格に変わりのない私を抱き上げたままで飛ぶように地面を駆けていると

 これ以上考えてももう仕方がない気がしてきた

 今私の理解を越えた出来事が起こっているのはもう間違いない

 この子が止まったら聞いてみればいい

 存外生まれながらに能天気な私はとりあえず振り落とされないようにさらに強く氷のように冷たい少女の首筋に抱きついた

 この出会いが、私の……いえ、人類の行方を左右することになることを、私はまだ知らない

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