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第101話 まさか、巻き込まれて気づくことになるとは思わなかった


 そうだったとゴロウが思い出したようにキャロメへと目を向ける。話があったんだよなと「すまないな」と大きく笑ってから彼女の元へと歩いてきた。


 告白を思い出してキャロメがまた身体を固くさせるも、一連の流れが空気を変えたのか、過呼吸にはなっていない。すっと大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐き出してキャロメはゴロウと向き直った。



「ゴロウさん。わたし、前から思っていたことがありまして!」


「おう、どうした?」


「その、わたしは貴方のことが、す、好きでして!」



 上ずった声でキャロメは想いを伝えた。周囲までもがゴロウがどう反応するのかと緊張するほどに、静かな空気が流れる。


 暫しの沈黙の後、ゴロウはうんっと首を傾げてみせた。それはいまいちピンときていないといったふうで。



「おれも嫌いじゃないぞ、キャロメ嬢? どうしたんだ、いきなり」


「通じてない!」



 フランの突っ込みにどてっと弟子たちが転げ、メルーナは嘘でしょと言いたげに目を見開いている。


 ハムレットもキャロメとゴロウを交互に見遣っているが、アルタイルは予想していたようで「だろうな」と呟いていた。


 ゴロウはといえば何かおかしなことを言ったかといったふうな目を向けているではないか。これにはキャロメも「えぇ!」と声を上げてしまう。



「俺からアドバイスを一つするならば、はっきりと言葉にしたほうがいい」


「お前が言うなっておれは突っ込みたくなったんだが?」


「俺か? まだはっきり言っていなかっただろうか?」


「うん」



 ハムレットの即答にアルタイルは「これでは通じないか」と何か考える素振りを見せた。そんな二人の会話にキャロメがはっきりとした言葉とむむっと悩ませる。



「ゴロウさん、わたしと付き合ってほしいのですが」


「どこにだ?」


「これも駄目なの!」



 かなり直積的な言葉だったと思うのだがとフランが驚けば、キャロメがますます頭を悩ませていた。これには流石にメルーナも「苦労するんじゃないかしら、この鈍感さは」と心配する。


 確かにここまで鈍感では、いざお付き合いしたとしても上手く想いが伝わらずにすれ違ってしまう可能性があった。


 これは心配になってしまうとフランがキャロメを見るも、彼女はまだ諦めていないらしい。


 これならと意を決したように「あの!」と声を張り上げた。



「わたしを、貴方の嫁にしてください!」


「はあ?」



 言ったぞと弟子たちが声を上げ、メルーナもこれは通じたはずだと手を叩く。フランもゴロウの反応を見て言葉の意味を理解しただろうと思った。


 ゴロウは困ったようにうーんと唸ってから頭を掻く。この反応はあまり良くは見えず、ぴたりと静まる。嫌な予感というほどではないが、そんな考えが過った。



「おれは別にキャロメ嬢を嫁にするために雇ったわけじゃぁねぇんだがなぁ」


「もちろん、それはわかっています! わたしの一方的な恋心です、これは」



 キャロメは若干、泣いていた。反応が微妙であったのと、この言葉を聞いて脈が無いと判断したのかもしれない。それでも、しっかりと自分の想いというのを彼女は伝えていた。


 どうして好きなったのか、惹かれたのか。言葉を詰まらせながらも、はっきりと。振られるかもしれないというのに、逃げることなく。


 フランはそんなキャロメの姿を見て勇気を感じた。どんな結果になろうとも、自分の気持ちに嘘をつかずに伝えるという。


 自分が同じ立場ならば同じことができただろうかと想像するも、諦めてしまうような気がした。



「こんなおっさんよりももっといい相手がいるぞ、キャロメ嬢」


「貴方が! 一番、です!」


「そ、そうかぁ……」



 それはもう力強い返事にゴロウが気圧される。彼女の本気というのを感じたのか、うんうんと唸りながら考え込んでいた。


 恋愛なのだから真剣に考えるよなとフランが思っていれば、アルタイルが「ゴロウ殿」と声をかける。



「今まで振られた女性の一番多かった理由で頭を悩ませているのだろう」


「そりゃあ、そうだ。おれはどーしたって仕事に意識が向いてしまう」


「キャロメはそれでもいいと言っている。仕事が一番だろうと、自分が二番目でいられるならばと」



 アルタイルの言葉にキャロメが大丈夫ですと胸を張った。わたしも傍で仕事を手伝うので気にしないと言いながら。


 そうすれば一緒にいられる時間というのは長いではないか。他の誰かが一番になるよりも、仕事を一番にしてくれたほうが安心ができると、キャロメは熱弁した。


 そうやって言われたのは初めてだったようで、ゴロウは驚いたように「そ、そうか?」と困惑する。今までの振られた理由をむしろその方が安心できると言われては、そうなってしまうのも無理はない。


「わたしを信じてください、ゴロウさん!」


 キャロメはゴロウの手を取って握った。彼女はただ想いを伝えているだけなのだろうか、圧が凄まじい。ゴロウは数度、瞬きをしてから「わ、わかった」と返事を返していた。



「嫁にする云々は置いておいて、キャロメ嬢の気持ちは受け取っておく」


「なるほど、まずは恋人からですね!」


「え? いや、そうじゃ……」


「そうですよね! まずは恋人から!」



 そう恋人からですわとキャロメの口を挟む隙を与えない言葉の雨にゴロウがアルタイルへと目を向けた。そんな視線に気づいてか、アルタイルは「諦めてくれ」と言う。



「彼女は俺と似た考えを持っているので分かるのだが、絶対に諦めないだろうし、手放すつもりもない」


「同族が言うと説得力があるな……」



 アルタイルの発言にハムレットが思わず零す。ちらりと視線が向けられてフランは自分の事を言っているのだなと察した。いくら鈍感であっても、流石に気づく。


(あ、愛が重い……)


 どうして此処まで好かれてしまったのだ。フランには全く心当たりがないのだが、アルタイルには理由があるのだろう。重さの感じる愛にフランはどう反応すればいいのか分からなかった。



「いや、私の事じゃない可能性もワンチャン……」


「俺はフランを手放すつもりはないが?」


「ですよねっ!」



 分かり切ったことではあった。フランはゴロウと同じように頭を抱える。二人して同じポーズなものだから、それを見たカルロが腹を抱えて笑い出した。



「二人とも、諦めるしか、ないってぇっ」


「笑いながら言うな、カルロ。その通りだけど」



 それはカルロに突っ込んでいるのだろうが、今の自分に突き刺さるとフランは胸を押さえた。ゴロウはと言えば、キャロメに抱き着かれてしまっているではないか。


 これはもう捕獲されてしまったと言える光景にこれでいいのかと疑問を抱く。


 それは周囲に居た弟子たちもだったが、ゴロウが諦めたように「そうだな、うん」とキャロメの話を聞いていたので、これでいいのかと納得することにした。



「キャロメさんのほうは解決したみたいですけど、フランは巻き込まれましたわね」


「不意打ちですよ、こんなの!」


「俺がフランを手放すつもりもなく、他に興味がないことの何処に問題があるというのだろうか?」


「フランちゃんが別の誰かを一番にしたら、お前どうすんだよ」


「暴れる」


「真顔で言うな、洒落にならねぇだろうが……」



 それはもう真顔で言うものだからそれが冗談でないことは誰が見ても分かることだった。そっとメルーナに肩を叩けれて、フランはうごごごとまた頭を抱える。


 フランは恋愛には疎い。此処まで執念深く愛されたことはないので、どうするのが最適解なのか分からないし、想像ができない。


 そもそも、自分がアルタイルを恋愛的な意味合いで好きなのかも、判断できていなかった。



「……ちょっと考えさせてください」



 一向に考えが纏まらなくて、フランは少し時間をくださいと答えるのがやっとだった。それにはハムレットも、メルーナもそうだなと頷いてくれた。


 アルタイルは別に返事がほしいだとかは思っていたわけではなかったようで不思議そうな顔をしていて。フランは言った本人がその顔をするのかと思わず突っ込んでしまった。



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