メルーナは待ち合わせをしているのよととあるカフェへと案内してくれた。鍛冶屋の工房が近い立地にあるカフェのテラス席を見れば、一人の女性が座っている。
少し長めのくすんだ金髪を一つにまとめ上げていて、それに合うようによく似合う赤縁眼鏡をかけている彼女にフランは見覚えがあった。
「あれ、キャロメさん?」
「フラン、知っているの?」
そう、彼女はゴロウの工房で専属魔導士をしている人で間違いない。フランはこの前の新米を脱したばかりの冒険者の話をした、そこで会ったことがあると。
それを聞いたメルーナがなら、話が早いわねとキャロメに声をかけた。
キャロメはメルーナを見てにこにこと笑みを見せながら手を振ってくれている。彼女に促されるように前の席にフランが座れば、「お久しぶりですね」と声をかけてきてくれた。
「覚えてくださったんですか!」
「あのハンターさんのお気に入りですもの。忘れることはないですよ」
「あのハンター様ですものねぇ」
「アルタイルさんって皆さんからどういった印象だったんですか……」
二人の反応にフランが問えば、キャロメは「他人にあまり興味がないような印象ですね」と答えた。
ハムレットやカルロといった同性の仲間はいるようではあったけれど、女性の影というのは一切なく、ソロ思考が強かったように感じたという。
メルーナもあの二人以外だと受付嬢ぐらいとしか自分から話しかけてはいなかったと教えてくれた。
他の冒険者からパーティに入ってくれと誘われてはいたが、全て断っていたのでソロでの活動のほうが調子が良いのかと思っていたらしい。
だというのに、フランとパーティを組んだだけでなく、かなり気に入っている。
いや、愛でられているのだから周囲が驚かないわけがない。それを聞いてフランは確かにと周囲の反応に納得してしまう。
「フランはあまりにも鈍感すぎるのよ」
「最近、やっと愛でられているのを理解しました……」
「執着されているのもでしょ」
そうですねとフランは頷く。それほどまでに自分は気に入られているし、愛でられているのだというのを実感している。
けれど、それだけでもまだまだ鈍感らしく、メルーナは片眉を下げていた。
「まぁいいわ。フランのことはフランが困った時に相談に乗ればいいの。今はキャロメさんよ」
「あ、そうですよね! えっと、キャロメさんが好きなお相手って……」
「もちろん、ゴロウさんですよ」
ですよねとフランは返事を返す。ヤジェから聞いていたので知っていたのだが、メルーナは話が早くて助かるけれどと少し驚いていた。
ヤジェから聞いたと言えば彼に何かあるかもしれないので、この前の話し方でと誤魔化してみる。
そうするとキャロメは「やっぱり、わたしって分かりやすいですかね」と少し恥ずかしげにする。分かりやすいと言えば、そうかなとフランは否定ができなかった。
「工房の方々にも応援されているのに、ゴロウさんったら全く気づいてくれなくて……」
「態度とかには出てしまっているってことですわよね?」
「わたしはそのつもりは無いんですけど、周囲から見れば出ているみたいで……」
例えば、ゴロウの頼みは絶対に断らない、むしろ頼られて嬉しくてテンションが高くなるところとかと、キャロメが周囲の人から指摘されたことを話す。
他にもゴロウのために彼好みのお菓子を用意したり、マッサージをしてあげたり、食事に誘ったりしていると聞いて、尽くしているなとフランはキャロメの行動力に感心した。
女性からのアピールというのは気づきやすい気がしなくもないのだが、ゴロウは全くその様子を見せないらしい。弟子たちも「師匠は恋愛には鈍感だから」と口を揃えていた。
ゴロウは少々、年を取っているが独身だというのは本人から聞いているのだとキャロメは「恋人もいないみたいで!」と、今がチャンスと言わんばかりに拳を握る。
やる気満々でそこまで彼女がゴロウを好きになった理由がフランは知りたくなった。なので、聞いてみるとキャロメは「わたしって単純なんです」と頬を掻く。
「実はわたし、就職に失敗して、恋人にも振られて全てが嫌になってこの町に逃げてきたのです。でも、上手くいかなくて、もう生きるのにも疲れて……」
なりたかった魔導書士にもなれず、恋人には浮気をされて捨てられてしまい、逃げてきたこの町でも思うようにいかず。
神様に見放されたように不運続きで生きるのにも疲れてしまった。そんな時、工房の近くを歩いていたらゴロウに声をかけられる。
『嬢ちゃん、疲れた顔をしているぞ』
生気の無い疲れた顔をしていたキャロメを心配してゴロウは工房へと入れてくれたのだという。
そこで話を聞いてくれた彼は「なら、丁度いい」と笑った。実は武器の試し切りを手伝ってくれる魔導士を探していたんだと。
その優しさと懐の深さに惹かれ、分け隔てなく接してくれたことで離れがたくなってしまった。これが恋だと気づくのにそう時間はかからなかったらしく、キャロメは「ね、単純でしょ」と笑う。
「ズタボロだったわたしを笑って受け入れてくれたんですよ。他の人と同じように接してくれて。恋に落ちないわけがない!」
「まぁ、気持ちは分からなくはないですね」
「単純だって言われてもいいの! 年の差とか気にしないわ! どうにか、どうにか妻になりたい!」
「恋人を通り越して結婚を希望してる!」
まずは恋人からではとフランが突っ込むも、キャロメは妻の座は渡したくないと主張した。
これはもうかなりゴロウに落ち切っているなと、フランはメルーナのほうへ目を向ける。彼女もそこまで飛ぶとは思っていなかったようで、悩ましげな表情をしていた。
恋人になるのも難しいというのに、結婚となるとさらにハードルが高くなる。結婚というのは簡単にできるようなものではないのだから。
「妻になるにしても、まずは恋人にならなきゃ駄目ですわよ」
「そうですね。順序って大事ですから!」
「確かに、順序は大事ですよね……ふむ」
順序は大事かとキャロメは納得してくれた。この流れならばとメルーナがどこまで鈍感なのかを聞いてみる。彼女は「わたしのアピールが足りないからかもですが」と教えてくれた。
例えば、昼食などは必ず一緒にとるような流れにする。ゴロウの好みを把握して手作りのお菓子を差し入れしたり、気遣ってマッサージをしたりもした。
休憩時間を把握してお茶を出すことも忘れないし、感謝の気持ちも忘れないように言葉にして伝えている。それを聞いてメルーナがフランを見た。
「フラン。貴女はこれをされてどう思いますの?」
「え? 気遣いのできる優しい人だなぁって」
「好意には気づきます?」
「……うーん」
フランはこれを好意として受け止められるかと問われて頭を悩ませる。何せ、話を聞いて気遣いのできる人だなぁといった感想が真っ先に出てしまったからだ。
恋愛的な意味で接してきていると気づけなかったので、どう答えていいのか分からなかった。
その反応だけでメルーナは察したようで「鈍感にはこれじゃ駄目なようね」と、考えるように顎に手を当てる。
「もう少し、直積的なほうがいいですかね?」
「鈍感を舐めたらだめよ。フランなんてあからさまにハンター様に愛でられているのに、全く気づかなかったのだから」
「そうなると、どうしましょう」
「そうよねぇ……」
「あの、告白してみたらよいのでは?」
フランの提案に二人が目を開かせる。そこまで驚くことだろうかとフランは思いつつ、「はっきり言ったほうが伝わりますよ」と説明した。
鈍感な相手に察してほしいは通用しない。これはフラン自身がそうなので言えることなのだが、優しさだとかそういった気持ちは感じ取れるけれど、相手を信頼しているとそういった恋愛的な思考が頭に過らないのだ。
いつも気遣ってくれる、優しくしてくれる。なら、その気持ちに応えられるように自分も頑張らないとな、こういったふうに別の意味に変換していく。
フランがそうなので、ゴロウも相手が恋愛感情を抱いているなどとは微塵も思っていないから、同じように別の意味に捉えているのではないか。
「なので、はっきり言わないと正しい意味には伝わりませんね」
「鈍感な人にそう言われると説得力があるわね……」
「そ、そうよね……はっきり言うほうがいいわよね!」
キャロメはがばっと立ち上がって拳を握る、わたし、やるわと。その気合の入れようにフランはおぉと思わず声を零す。
メルーナはと言えば、彼女も立ち上がって「その勢いよ!」とキャロメを応援し始めた。
二人のテンションにフランはついていけていないが、告白する覚悟を決めたキャロメは応援したい。なので、彼女を見守るために付き添うことにした。