「恋愛相談?」
朝早くからギルドへとやってきたフランは席につくなりやってきたメルーナにそんなことを言われた。
メルーナに好きな人ができたのかと思ったがそうではないらしい。知り合った女性が悩んでいるようだったので、その相談に乗っていたのだという。
けれど、なかなかに癖が強いようで自分だけでは手に負えないらしい。
「メルーナちゃん。私に助太刀を頼むのは間違ってますよ」
「わかってるわよ。周囲が呆れるぐらいには鈍感ですもん」
確かに自分は周囲が呆れるぐらいには鈍感だとフランでも思う。相手の好意を別の意味に捉えていたりするのだから。傍から見ればきっと苛立つだろうなと。
それを分かっている上で自分に頼みに来ているということはどういうことだろうか。何か役に立てることはない気がするがとフランが問えば、「その鈍感さが必要」と答えが返ってきた。
どうやら、相手は鈍感なようだ。なので、鈍感な相手の気持ちは同じ鈍感にしか分からないだろうということだった。
確かにそうかもしれないけれどとフランは返すが、鈍感は人によって違うのではと思わなくもない。
「それって私で大丈夫ですかね? 恋愛経験なんてないですよ?」
「鈍感の気持ちが分かればいいわよ。どこまではっきりアピールすれば気づくかが分かればいいんだから」
その人は貴女と同じタイプの呆れるぐらいに鈍感らしいからと、強調しながら言われてフランは苦く笑う。
協力するのはいいのだがフランはアルタイルと待ち合わせをしているのだ。彼に事情を話さなければならない。そう言えば、メルーナはそこよねと腕を組んで呻った。
「男性が恋愛相談の場に居ていいのか、否か。ハンター様は特に」
「アルタイルさんって問題ありますか?」
「貴女の話にいちいち反応しそうで面倒くさい」
メルーナのはっきりと遠慮なく言われた言葉にフランは否定ができなかった。何となくではあるが、そんな気はしたからだ。
(私、気に入られているもんなぁ)
かなり愛でられているので、恋愛話となるとどういった反応をするのか想像するのが少し怖い。とはいえ、彼が大人しく一人で行かせてくれるかは怪しかった。
「どうしたんだ、二人とも」
うーんと二人で悩んでいれば、よっとハムレットが声をかけてきた。何かあったかと問う彼にフランは実はと事情を話す。
「絶対についていくだろうなぁ」
「ですよねぇ」
「あー、まぁ。切り離せなくはないんだけど」
「そんなことができますの!」
ハムレットの言葉にメルーナががばっと立ち上がる。どうやってと言いたげな表情に彼は「定期報告会がある」と教えてくれた。
ハンターには定期的に自身のことだけでなく、依頼を受けた時のことなどを報告する義務があるのだという。
そろそろその時期であり、それはハンターとギルド長の二人だけで行うことなので、その間ならば引き離すことができるだろうということだった。
それだわとメルーナはハムレットに「どうにか誘導できます?」と目を輝かせながら頼む。彼は女性の頼みを断ることはできないので、仕方ないなと受付嬢に声をかけに行ってくれた。
これはなんとかなりそうだなと思っていれば、アルタイルがギルドへとやってきたのが見えた。彼はフランの座るテーブル席へと真っ直ぐに来る。
「今日は彼女と話をしていたのか、フラン」
「はい、メルーナちゃんが依頼から戻ってきたので!」
「おはようございます、ハンター様」
にこりとメルーナは笑みを浮かべて挨拶をする。その変わりようにフランは流石だなと思わず感心してしまった。
こういった切り替えができるから対人関係が上手くいくのだろう。父親と元婚約者が関わらなければの話だが。
(メルーナちゃんも良い方向に変わったよなぁ)
メルーナはフランを利用した前科はあるが、再会してから反省したようで今ではそういったことをしなくなっている。
冒険者としてやっていくうちに心も成長したということなのかもしれないが、フランは彼女とまた友人として仲良くできることが嬉しかった。
「ハンター。受付嬢ちゃんが呼んでるぞー」
タイミングを見計らったようにハムレットがやってくると、受付嬢が少しお話がとアルタイルを呼ぶ。
彼はフランに断りを入れて受付嬢の話を聞きに行ったのを確認して、ハムレットを見ればばっちりだと小声で言われた。
ハムレットの言う通り、アルタイルは申し訳なさげにフランの元までやってきた。彼の言っていた通り、定期報告をしなくてはならないと。
それを利用しているフランはその態度に罪悪感を抱きながらも、大丈夫ですよと返事を返す。
「午前中の時間潰しは自分でもできますから」
「そうだろうか?」
「そうだわ、フラン。午前中はわたくしとお茶をしてゆっくり過ごしましょう」
たまにはゆっくり休むのも良いわよとにこりとメルーナは微笑んだ。それにハムレットがそうそうと頷いて後押しをする。
友達同士で話をして息抜きするのも大事だろうと言えば、アルタイルもそれには納得したようだ。
女性同士で話をするというのもストレス解消になるかもしれないし、同性でしか分からない悩みというのもあるはずだ。
アルタイルは「ゆっくり話してくるといい」と、メルーナとお茶をすることを許してくれた。
「午後にまた此処で」
「はい。メルーナちゃんとお話してきますね!」
そうと決まれば早速、カフェに行きましょうと立ち上がったメルーナに腕を引かれる。フランはではとアルタイルに手を振ってギルドを後にした。