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第97話 不運は忘れた頃にやってくる


「もーー、いやだぁぁぁ」



 フランは蔦が足に絡まって引きずられそうになっていた、茂みの奥へと。咄嗟にアルタイルが手を掴んで引きずり込まれそうになったのを阻止している。



「えっと、この蔦は食虫植物で……」


「あぁ、モンスターマウスか」


「そうです。魔物とか小動物を捕食するんですよ」



 一応は魔物に分類されるがモンスターマウスは人間を食べない。口には入れるが吐き出すので食べられることはないが、分泌液で火傷をする。


 蔦に体温を感じると獲物と判断し、絡みついて本体まで引きずり込むとのこと。



「もっと早く言ってくださーい!」


「ご、ごめんなさい。説明しようとしたんですよ! でも、まさか転ぶとは思わなくて……」


「カルロ。俺はフランを引き寄せるから、蔦を切ってくれ」


「はいはーい」



 アルタイルはフランを抱きかかえるように持ち上げれば、カルロがナイフを抜いて蔦を切っていく。ミリヤはフランの足に絡みつく蔦を取りながら何度も謝っていた。


 ブーツだったことがよかったのか、足首を怪我することはなく、痕もついていない。よかったとほっと息を吐いてフランが立ち上がろうとすれば、何故かアルタイルに抱きかかえられてしまった。



「あの、アルタイルさん?」


「なんだろうか?」


「私、怪我してませんが……」


「フラン。君はまた転ばないと自信もって言えるか?」



 えっとフランが地面を見れば切られたからだろうか、うごうごと蔦が這いまわっていた。


 足の踏み場が無いとまでは言わないが、避けるのは難しい。絡み合っているまま這っているとこともあった。


 これを見てしまうと自分の体質上、転ばない自信はない。むしろ、また転ぶ自信のほうがある。フランは無言で首を左右に振った。



「採取が終わるまでフランは俺が抱きかかえておく」


「お願いします……」


「みーちゃんは任せといてー」


「すぐに終わらせますね!」



 ミリヤは厚手の手袋をつけると皮膚が蔦に当たらないように慎重に葉っぱの採取を始めた。薬草採取などをメインに活動しているからなのか、こういったモノへの対応に彼女は慣れている様子だ。


 てきぱきとこなしていく姿に流石だなとフランが眺めていれば、視線を感じて顔を向ける。アルタイルがじっとこちらを見つめていた。



「なんでしょうか、アルタイルさん?」


「いや?」


「いや? って……その、視線が気になるのですが」



 そんな間近で見つめられては気になる。フランの問いにアルタイルは何か問題があるだろうかと、不思議そうな顔で返していた。



「ふーちゃん。それ、通常だから気にしなくてだいじょーぶ」



 アルタイルの代わりにカルロが答える。これが通常とはどういうことだとフランが突っ込むも、「可愛いからずっと見たいんだよ」と笑われてしまった。



「ほらぁ。可愛いものはずっと見ておきたいじゃーん」


「なるほど?」


「フランは可愛いが?」


「いや、疑ってないし」



 びしっとカルロが突っ込んだ。アルタイルが彼に突っ込まれるのは早々、無いのではないかとフランは思ってしまう。こういうのはハムレットがやっていたので珍しく映ったのだ。


 そんなことを考えていれば、採取を終えたミリヤが袋を持ってやってきた。これだけあれば大丈夫ですと言いながら。



「終わったのならば此処から離れよう」


「そうですね。早く下ろしてほしいですし」


「何故?」



 むしろ、どうしてこのままでいいと思ったのだろうか。真顔で首を傾げるアルタイルにフランは突っ込む。


 彼的には転ぶこともないから安心ということのようではあるが、そこまで介護されるほどではない。


 不幸体質ではあるので転ばない自信はないのだが、この場から離れれば問題ないはずだ。フランがそう答えれば、アルタイルは残念そうな顔をした。



「そんな残念そうにしなくとも……」


「そーだよ。フーちゃんの可愛い顔はいつでも拝めるでしょー」



 いつも一緒にいるのだからとカルロに言われて、アルタイルはそうだがとまだ不満げだ。そこまで好きかなぁとフランは自分の顔をぺちぺちと触る。


 自分の顔をどうとか考えたこともなく、このように執着されたこともなかったのでフランは不思議な感覚だった。



「フランさんとアルタイルさんってお付き合いされているんですか?」


「え? 違いますよ?」


「え、え?」



 ミリヤの疑問に答えれば、彼女は疑問符を浮かべた表情を向けてきた。そこまで驚くことだろうかとフランが不思議そうにしていると、「だって、好意が……」とミリヤは話す。


 アルタイルからフランへの好意が向いているように見えるのだけどと遠慮げに言うミリヤにカルロが「あー、だめだめ」と話に割って入った。



「本人がちゃんと気づかないと、意味ないんだよぉ」


「あ! そうですよね、ごめんなさい!」


「え、いや、え?」



 今度はフランが疑問符を浮かべる番だった。アルタイルからの好意とはと。自分のことを可愛いとはよく言われているし、気に入られているというのは理解している。


 愛されているとメルーナに言われていたが、これは小動物を愛でるような意味合いではないのかと。


 そういう意味じゃないのか。うんっと考えていれば、アルタイルはそんな様子をそれがどうしたといったふうにしていた。



「まぁいいや。さっさと戻ろうよ」


「そんな興味なさげなふうに言わないでくださいよ!」


「ないもーん」



 余計なこと言うと怒られるからとカルロは興味なさげだ。こっちはだいぶ混乱しているのだが、そんなことは知ったことではない。早く戻ろうとミリヤの手を引いて歩き始めてしまった。


 えぇとフランが呟くもアルタイルも気にしている様子はない。二人の後をついていくのでフランは聞き返すことができなかった。



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