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第96話 一瞬、見せた殺気の訳


 フランはカルロがちゃんとスライム核を摘出できるのか不安だった。けれど、それも目の前の光景を見て、考えを改める。


 山に繋がる森の奥、あと少しすれば登山道へと入るだろう位置に多種スライムはいた。水を帯びたスライムと、雷を帯びたスライムがぷにぷにと動いている。数は見える限りでは三匹だった。


 これならばすぐに終わるだろうとフランが思っていれば、カルロがテンション高めな声を上げながら多種スライムに突っ込んでいく。


 えっと思わず声を上げるも、カルロは気にしない。驚いて逃げようとする多種スライムに先回りをして蹴り上げた。ボールを蹴飛ばすように。


 ぼよんぼよんと跳ねながら地面を転がっていく水を帯びたスライムが、雷を溜めるスライムに当たってばちっと音を鳴らす。


 怒った雷のスライムがびょんと跳ねてカルロへと体当たりするも、殴り飛ばされてしまう。そのままの勢いでアルタイルのほうまで飛んで、太刀が綺麗に入る。


 核だけを残して溶けたスライムにフランはおぉと思わず拍手してしまった。これが、三回繰り返されて終わる。


 カルロはナイフを取り出すこともなく、蹴ったり殴ったりを楽しそうにしながら、アルタイルに一匹ずつ渡していただけだった。


 殴る蹴るといった行為だけでも楽しかったようで、カルロはにこにことしている。平常運転だなとフランが見ていると、ミリヤが引き気味で物陰から出てきた。



「みーちゃん、大丈夫ー?」


「あたしは大丈夫ですけど……」



 ミリヤはまだ慣れていないようで、カルロの戦い方が怖いのだろう。フランはこれはちょっと怖いよねと思いつつ、あっとカルロに気になったことを聞く。



「雷のスライムを殴ってましたけど、手は大丈夫ですか?」


「そうだ! そうですよ、怪我はしてないでしょうね!」


「大丈夫、大丈夫だよ! ほら!」



 カルロは慌てて手を見せる。拳には火傷の痕などは見当たらず、怪我していないようだ。多種スライムにもよるが、雷の場合は中心を殴れば問題はないらしい。


 そうなのかとフランが一つまた知識をつけていれば、核を回収したアルタイルが「こちらはもう大丈夫だ」と声をかけてきた。この辺りにはもう多種スライムはいないようだ。



「よく綺麗に核だけ取り除けますよね……。魔法でくり抜くとかする人もいるのに」


「核の位置が分かればできると思うが」


「アルタイルさん、それはハンターにしかできないかと」



 飛んできたままやってのける人は早々いない。フランの返しにアルタイルはそうだろうかと、カルロを見遣る。彼は「簡単だけどねぇ?」と首を傾げていた。


 あ、これはハンターには伝わらないのだ。それはフランだけでなく、ミリヤも思ったようで二人は顔を見合わせて苦く笑ってしまう。



「それよりも、薬草はどの辺りだろうか?」


「あ! この先なんですよ。そんなに離れていません」


「山が近いですねぇ」


「そうなんですよ。山の近くにいて」



 山の中ではあまり見かけないのですけどねとミリヤは言いながら、薬草が生えているという場所へと案内するように歩き出した。


 少し歩いた先だった。ミリヤがうぇっと声を上げると共にカルロが走っていく。蔦のようなものが地面を這っている中に多種スライムがうごうごと動いているのが見えた。


 アルタイルは止める気がない、というよりも諦めたように走っていくカルロを眺めている。太刀を抜いている辺り、フォローはしてくれるようだ。


 ミリヤが慌てて木の影に隠れていくのを確認してから、フランもロッドを構えてアルタイルのサポートへと回ろうとして、慌てて走った。



「ミリヤさん、しゃがんで!」



 ミリヤはフランの大声に慌ててしゃがむと、体当たりしてこようとしていた多種スライムがぴょいーんと通り抜けていく。それをフランがロッドで打った。


 球を打つように綺麗な弧を描きながらアルタイルの頭上までやってきて、見事に切り伏せられる。もちろん、核はしっかりと取り除かれて。


 あわわわと慌てるミリヤにフランは「私の背後に隠れていてください」と指示をだした。近くにいてくれたほうが守りやすいからだ。



「私の少し後ろに居てくださいね。その位置なら守れますから」


「わ、わかりました!」



 ミリヤはワンドの杖を持ちながら多種スライムの動きを観察している。魔法は使えると言っていたので、自分の身は守ろうとしているようだ。


 どこから湧いて出てくるのか、茂みからぴょんぴょんとやってくる多種スライムを、フランはロッドで打ち飛ばしてはアルタイルのほうへと渡す。


 そうすると、彼が処理してくれるのでフランは遠慮なく、力いっぱいロッドと振るった。


 力が入り過ぎたのか、一匹の多種スライムが大きく宙を舞う。あっとフランが慌てて風属性の魔法を使うも、スライムは方向を変えることなく、カルロの頭上へと落ちた。


 さっとカルロが振り返ったと共にナイフを素早く抜いて落ちてきたスライムを切り捨てる。あまりの早さにフランは目を瞬かせ、ミリヤはひぇっと小さく鳴いた。


 狩る時とは違う目つきをカルロはしていたのだ。楽しそうではなく、明らかな殺意にフランは驚く。


 倒したスライムを確認するとカルロはぱっといつもの表情へと変わった。あれはとフランが困惑していれば、核を回収したアルタイルが「もう終わった」と彼に声をかける。



「えー、もう終わったのぉ」


「最後の一匹はお前が台無しにしたがな」


「頭上に来るのが悪い」



 すっと一瞬、真顔になる。ひぃっとミリヤがフランに抱き着いた。どうやら彼女には怖く映ったようだ。そんな様子にカルロは首を傾げている。



「どうしたのー、みーちゃん?」


「お前が怖かったのだろう」



 お前は頭上から来ること限定で人が変わるからな。アルタイルの言葉にフランが「と、いうと?」と聞いてみれば、教えてくれた。


 一度、飛行するタイプの魔物との戦闘で頭上からの不意打ちが直撃してしまったことがあったらしい。


 それが悔しかったのと自分の危機管理の無さに苛立ってしまってから、頭上を狙われると身体が瞬時に反応してしまうのだという。



「その魔物ってどうなったんですか?」


「あの殺気を見た上で生きていると思うか?」


「思いませんね!」



 血まみれで帰ってきたのを見た受付嬢に「手当てを先にしないさい!」と、叱られていたとアルタイルは思い出したようにカルロを見た。彼はと言えば、「やめてよぉ」と眉を下げている。


 自分のやってしまった失敗というのは聞いているだけ恥ずかしいらしい。その気持ちは分からなくもないが、変わりようが凄いなとフランは思ってしまった。



「それよりも薬草でしょー」


「あ、そうだ! ミリヤさん、どこですか?」


「えっと、この蔦でして、気を付けることが」


「気を付けること?」


「素手で触れないでください」



 素手でとフランが蔦から離れようとした時だった。絡み合った蔦に足を取られて転んでしまう。痛いと手を突いて――



「うわぁあ!」



 瞬間、フランは地面に額をぶつけた。



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