目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第93話 愛想を振りまくのも程々に


「おれには女の子をないがしろにはできないっ」


「いい加減にしろ、ハムレット」



 とある昼下がり。依頼を終えてギルドで休んでいたフランたちの元にハムレットがやってきた。慣れたように目の前の席に座ってから、彼はテーブルに突っ伏したのだ。


 それで言った言葉がこれである。フェルシェとまた何かあったのだろうかとフランが聞けば、「彼女は最近は大人しい」と返される。


 フェルシェは赤毛の受付嬢に注意されてから、ちゃんと気を付けてくれているらしい。けれど、諦めてはいないようだ。ただ、前よりはしつこくないので、今は問題がないということだった。


 とはいえ、フェルシェからのアピールをやんわりと断る程度にしているせいか、よく手伝いをするパーティのメンバー、特に女性冒険者から「良い恰好しただけじゃないの」と軽く怒られたのだとか。



「おれには無理なんだよ。女の子を無碍になんてできねぇ」


「そうやって気を振りまくから女にだらしがないと、女性の敵を作るんだ」


「それはそうですね」


「うぅ……言い返せねぇ……」



 アルタイルの指摘がその通りすぎてハムレットはうぐぅと唸る。それでも自分を曲げないところは褒められる部分ではあるかもしれない。とはいえ、女性からの印象は悪く感じられてしまうだろう。



「でも、断ってはいるから! 誤魔化したり、話を逸らしたりとかはしてない!」


「それをやったら女性に刺されるだろうな」



 そのフォローは流石にできないとアルタイルは先に宣言しておく。フランもですねと、同意すれば、「やらないから!」と、ハムレットは顔を上げた。そこまでおれはクズな人間じゃないぞというように。


 それはそれとして、女性を強く拒むことができない。ハムレットはどんな女性であっても優しくがポリシーなのだ。


 その考えでは難しいだろうなとフランは思う、そういったことはなかなか変えられるものではないから。



「女の子からここ最近は怒られてばっかりだよ……」


「大半はお前が悪い」


「何も言えねぇわ……」



 はぁとハムレットは深い息を吐き出した。自覚はあるようで、どうしたものかと悩んでいる様子だ。これにはフランもどうアドバイスをすればいいのか分からない。


(これはハムレットさんの性格だもんなぁ)


 フランはこれはもう大人しくするぐらいしか方法はないのではと思う。女性とも仕事以外で付き合いを控えるとか。そう言ってみれば、ハムレットは「そうだなぁ」と、がっくり肩を落とした。



「そもそも、興味のない女性に愛想を振りまくというのが理解できない」


「ハンター。誰であってもある程度の愛想は持ったほうがいいぜ。無いとそれはそれで不満を持たれるから」


「別に構わない」


「そういうところだぞ、ハンター。あー、でも、あんたは面倒くさい部分が多いから、それぐらいやってもまぁ……そういう性格なのかで済むかもな」



 ハムレットの言葉にどういうことだと言いたげな表情をアルタイルは向ける。そんな彼に「分かりやすいんだよ」とハムレットは答えた。


 アルタイルは思ったよりも分かりやすい。怒りや不満があればちゃんと言葉にするというのもあるが、気に入っている存在への態度があまりにも違い過ぎるのだ。



「フランちゃんへの態度とかな。おれやカルロと全然違う。受付嬢ちゃんやギルド長との対応はまた別で違うんだけど。とにかく、フランちゃんのことになると挙動がおかしくなるんだよ」



 アルタイルはフランに関することになると、挙動がおかしくなる。それはフランでも分かることなので、それはそうと同意した。


 本人に自覚はないようで、そうだろうかと顎に手を当てながらアルタイルは自分の行動を思い出すような仕草をしている。全く、記憶にはないようだが。


 そんな様子にハムレットは「だろうな」と呆れる。フランもあれは無自覚なんだろうなとは感じていた。



「そこまでおかしいだろうか?」


「おかしいっつーか、なんというか。迷惑はかけてないけど、見ていて突っ込みたくなる」


「フランの嫌がることはしていないが?」


「されてはいませんけど、挙動がおかしいのは本当ですよ」



 フランに言われては言い返すことはできないようで、そうかとアルタイルは頷いた。本人から指摘されては自覚するしかない。


 ふむと考え込むアルタイルにフランは「別に迷惑ってわけではないので」と言っておく。嫌がることをされたわけでも、迷惑をかけられたこともないからだ。



「フランちゃん。ハンターを甘やかしたら駄目だぜ」


「甘やかしているつもりではないのですけど……」


「こういうところが気に入られるんだよなぁ」



 なんやかんや、フランちゃんは相手に合わせられるかな。ハムレットは「ハンターが羨ましいぜ」と言って、またテーブルに突っ伏した。


 誰かに合わせるのは苦手ではないので、フランは無理をしていない。なので、アルタイルの挙動のおかしさは置いておくとしても、甘やかしているつもりはないのだ。


(カルロさんにも言われたけど……。私に合わせてもらっているし、お互い様なのでは?)


 などと、フランが考えていれば、ハムレットは「おれも甘やかされたい」と愚痴る。


 それを聞いたアルタイルに「お前はまず、その女性に愛想を振りまきすぎるのを止めろ」と冷静に突っ込まれていた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?