話の内容までは聞いていないようで受付嬢は何かありましたかと聞いてくる。
これはどうしようとフランがアルタイルへと目配せすれば、彼は「こいつが面倒なことを相談してきたんだ」と、何でもないようにハムレットを指差した。
ハムレットを見て受付嬢は「今度は何をやらかしたのですか」と、呆れたように腰に手を当てる。
「いや、大したことじゃないんだよ、受付嬢ちゃん!」
「アルタイルさんに頼むということは面倒なことなのでしょう?」
「うっ、それは……」
へなっとへこむハムレットを見かねてアルタイルが実はと相談内容を簡潔に話した。それを聞いた赤毛の受付嬢は「それはまぁ」と片眉を下げながら顎に手を立った。
協力してくれないだろうかというアルタイルの頼みに、赤毛の受付嬢はうーんと考える素振りを見せる。
「私に敵う人間はいるとは思うのですが。その女性がどんな方かにもよると思いますよ」
「どうなんだ、ハムレット」
「おれに女性を比べることはできない」
女の子は皆、可愛いのだ。比べるなど失礼なことはできないと言うハムレットに、アルタイルは「なら、どんな女性なんだ」と聞き方を変えた。
受付嬢と比べなくていいから、相手がどんな性格なのか、人柄なのかぐらいは分かるだろうと言われて、ハムレット「諦めの悪い子って言い方は悪いけど」と答える。
「悪い子じゃないんだわ、あの子。ただ、諦めが悪くてなぁ。積極的ではあるんだけど」
「話を聞くに、ハムレットさんが私の事を好きだということにしたとしても、何かしら突っ込んできそうですね」
「それは否定できない」
諦めが悪い子なので例え、評判の良い赤毛の受付嬢を出しても、突っかかってくる可能性はあった。それでは赤毛の受付嬢に迷惑をかけてしまうと、ハムレットは項垂れる。
「別に私は協力しても良いのですけどね」
「えっ!」
赤毛の受付嬢の返答にフランだけでなく、ハムレットも声を上げてしまう。彼女は「誰かに好意を抱かれるのには慣れていますので」と、何でもないように答えた。
この仕事をしている以上は、冒険者に好意を寄せられるのは避けられない。何人もの男性を、時には女性すらも告白を断ってきた赤毛の受付嬢にとって、ハムレットの頼みというのは些細なことなのだという。
「自分が恋人に相応しいのだと言い争う冒険者や、好意を寄せていた男性が私を好きだったと知って刃物を向けられたこともありますので。今更、別に何が来ても大丈夫ですね」
「受付嬢ちゃん、いろいろ苦労してるんだな……」
「流石に刃物を向けてきたら、怖いと思うのですが……」
「魔物よりも行動が読みやすいので対処は簡単ですよ」
魔物と比べられてもとフランは突っ込む言葉を飲み込んだ。何せ、真面目な顔で言うものだから。冗談ではなく、本当に思っていることなのだろうと察して。
これぐらいのことには慣れて対処できないといけない。赤毛の受付嬢は当然ですよと笑みをみせる。フランは自分には無理だなと思った、流石に刺されそうな体験はしたくない。
「恋人であるという嘘はつけませんが、ハムレットさんが私に好意を寄せているということにする分には問題ないですよ」
「受付嬢ちゃん、ありがとう!」
「問題はこれで相手が諦めるかだがな」
「アルタイルさんの言う通りですよねぇ……」
問題は相手が諦めてくれるかなのだ。ハムレットから見ても諦めの悪い女性なのだから、評判の良い赤毛の受付嬢でも引いてくれない可能性はある。
何かしらアピールはしないといけないだろう。ただ、ハムレットは女性を比べることをしたくはない。
こういった時は、赤毛の受付嬢の好きなところを挙げていくのが無難ではないか。アルタイルのアドバイスになるほどと、ハムレットは頷く。
「良い所を見つけるのはおれが一番、得意とすることだからな!」
「まぁ、ハムレットが比べようとしなくとも、相手の女性がそうする可能性はあのだが」
「あぁ……私のほうがこういうところが良い! とか、優れている! とかっていうあれですよね」
人間というには相手より優れている部分があれば、そこをアピールポイントにする。粗探しをするという人もいるのだから、それだけでは油断できない。
後は相手が折れるまで押し負けないでいられることだろうか。アルタイルは「お前は女性に優しいからな」と、じとりと見遣った。
その視線は女性に強く出られずに逆に根負けしてしまうのではないかといった意味が籠められている。フランは申し訳ないが想像できてしまった、ありえるなと。
「うぅ、否定ができねぇ……」
「受付嬢が手伝ってくれるんだから、しっかりしろ」
「そうですよ。ちゃんと、断りましょう!」
相手の女性の事も考えて、恋人として付き合えないのであれば、しっかりと断るべきだとフランは言う。女性としてはそういったことを合間にされるのは嫌だと思ったままの事を。
確かに曖昧にされるは嫌かとハムレットも納得したようだ。今後の事も考えれば、ここで負けてはいけない。ハムレットが「やるぞ!」と気合を入れた時だった。
「いました! ハムレットさん!」
なんとも可愛らしい声がして、ハムレットはぴたりと動きを止めた。