「うぅ、眠い……」
早朝、フランは起こされた。自室の扉をどんどんとそれはもう大きく叩かれて。何かあったのかと出てみれば、カルロが「おっはよー」とそれはもう元気に挨拶をしてきた。
どうしたのだと訳を聞けば、「これ、アルアルに渡しといてー」と、依頼書を差し出しくる。どうやら、受付嬢が間違えてアルタイルのものも渡してしまったらしい。
「新人ちゃんなだったから、間違えちゃったみたいなんだよね」
「あ、いつもの赤毛の受付嬢さんじゃなかったんですね」
「そうなんだよ。新人ちゃんもやらなきゃ覚えないから仕方ないんだけどさー」
「でも、だからといって、この時間はどうなんですか……」
やっと日が昇ってきているが、朝が早いのには変わりがない。せめて、も少し経ってからでもよかったのではないか。そんなフランの疑問にカルロは「入れ違ったら嫌じゃん」と笑う。
なら、ギルドでもいいじゃないかとは思ったが、フランはもういいやと諦めた。何故なら、カルロが不思議そうにしていたから。これはもう何を言っても駄目だと理解したのだ。
(これがアルタイルさんが味わった感覚か……)
確かにこうやって叩き起こされては眠さを感じる。相手に全く悪気がないので突っ込むのも面倒になってしまう。
「ちなみに私に渡しにきたのって……」
「この時間にアルアルを起こしたら、締め上げられるからだよ」
めっちゃ怒るんだよね、アルアル。あんなに怒らなくてもいいじゃんとカルロはぷくーっと頬を膨らました。
気持ちよく寝ているのを邪魔されたらそれは怒られても仕方ないのでは。フランはそう思ったけれど、カルロは「早起きは健康にいいよ」と言ってくる。
「早寝早起きしようよ!」
「話に聞いてましたけど、カルロさんって深夜に寝ても早く起きれるんですよね? 普段は何時ぐらいに寝るんですか?」
「え? 暗くなったら眠くなるかなあ」
眠くなったらすぐに寝てしまうと聞いて、子供かなと口から出そうになった。沢山、狩りをして楽しんだ時とか特にと言われて、幼子が遊び疲れた時みたいだなとか、突っ込みが浮かんでくる。
(精神年齢が子供なのだろうか。でも、真面目な時は真面目なんだよなぁ)
とはいえ、早朝はやめてほしい。なので、「次はもう少し時間を考えてくださいね」と一応、言っておく。カルロは仕方ないなぁと言いつつも、頷いてはくれた。
「フーちゃん眠そうだね」
「眠いですよ。でも、二度寝する時間でもないですし、起きます」
「じゃあ、ぼくちんはそろそろギルドに行こうかなー」
「用は終わりましたもんね」
「それもあるけど、アルアルに見つかったら、締め上げられる」
「誰に見つかったらだって?」
ひぇっとカルロだけでなく、フランも声を零してしまう。ゆっくりと振り向けば、眠そうにしているアルタイルが腕を組んで立っていた。
なんでいるのだといったふうに見つめるカルロに「お前の騒がしい声で目が覚めた」と、問われる前にアルタイルは話す。
じゃあ、どうして此処に居るのだろうか。そんな疑問を口にすれば眠そうな眼を向けながらアルタイルが答えてくれた。
「さっき、新人の受付嬢が来た。間違えてカルロに依頼書を渡してしまったと」
アルタイル用に纏めていた依頼書が一枚足らず、カルロに渡してしまったのではないかと新人の受付嬢は確認を取るために部屋を訪れたらしい。
赤毛の受付嬢からカルロは朝早くに起きているので今なら会えるだろうと。
訪ねてみれば誰もおらず、困っているところに結局、二度寝ができずに起きたアルタイルが彼女を見つけ、代わりに聞きに行くことにしたのだ。
「お前のことだからフランの元に行くと思ったんだ」
「うん。だって締め上げられたくないもーん」
今だって不機嫌そうだしとカルロは笑う。そこは笑い事ではないのではないかというフランの突っ込みを彼は聞かない。
アルタイルはといえば、ただでさえ朝が弱いというのに起こされただけでなく、こうしてカルロを探しに来ているので不機嫌さに磨きがかかっていた。
「今日は別に騒いでないもーん」
「大きな声で歌いながら勢いよく扉を開閉するな」
時間を考えろと指摘を受けてカルロはむぅと頬を膨らます。早朝からそれをやられるのは嫌だなとフランも機嫌の悪さに納得してしまった。
フラン自身もだいぶ眠さを感じている。とはいえ、二度寝ができるかと問われると無理だった。なので、「ギルドに行きましょうか」と提案する。
「眠いですけど起きちゃいましたし。ここでお話するのも他の冒険者さんに迷惑かけちゃいますから」
ギルドは早朝から空いてますからとフランに言われて、アルタイルはそれもそうだと頷いた。カルロも書類の確認がしたいとギルドに行くこと賛成してくれる。
「あの、新人ちゃん。なんかやらかしてそうだし」
「書類を取り違えるぐらいだからな」
一応の確認は大事だなとアルタイルもカルロのいう事に同意した。自分はまだ受け取っていないが、赤毛の受付嬢が確認してくれているだろうと。
「新人ちゃん、受付嬢ちゃんに怒られただろうなぁ」
赤毛の受付嬢ちゃんは仕事には厳しいから。カルロの「怒ると怖いんだよね」という、少しへこんだ声に経験したことがあるのは見て取れる。
そういえば、首根っこ掴まれて事務室に連れていかれていくのを見送ったことあったなとフランは思い出す。あの慣れた様子を見るに、一度や二度ではないのだろう。
「確認は早いほうがいいですし、行きましょうか」
「なんか、怒られそう」
「そう思うということは、何かした自覚があるからだろうが」
じとりとアルタイルに見られてカルロはそろりと視線を逸らした。これは何かしらやってしまったのかもしれない。
大人しく叱られろとアルタイルに言われて、カルロはうげぇと鳴く。フランはそんな様子に赤毛の受付嬢を怒らせないようにしようと決めた。明るいカルロがへこむほどなのだから、きっと怖いのだろうと。