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第83話 朝が弱いタイプ


 朝、フランがギルドを訪れていつものようにテーブル席で魔物の資料を読んでいた時だ。まだ朝ということもあってかギルドは人が少ない。


 もう少しすれば、賑やかになってくるだろう時刻、そろそろ朝食でも頼もうかなとフランが資料から顔を上げたのと同じく、隣にアルタイルが座ってきた。


 今日は早いなと彼を見遣れば、なんとも不機嫌そうな表情で眠そうな眼を細めている。


 この前もこんな感じだったなと、ヤジェに呼ばれた時のことを思い出す。フランはまたなにかあったのかと聞いてみれば、アルタイルは「前回と同じだ」とだけ返した。


 どうやら、またカルロが早朝にテンションが上がった声を出してしまったようだ。それはもう甲高い声だったようで、アルタイルは彼の部屋に行って締め上げたらしい。



「なんでそんなにテンションが上がったんでしょうかね。早朝に」


「今日は依頼書の中に亜種スライムの群れの捜索があったからだった。この前は夢を見てテンションが上がっていた」



 あいつのテンションが上がった声を早朝から聞きたくはない。アルタイルはこれでもかと嫌そうにしながら話す。それだけで睡眠を邪魔されたことが不満だったのは伝わってきた。


 カルロは渡された依頼をその場で全て確認せずに、急を要するもの以外は後で確認するタイプだ。今回も昨夜、ギルドに戻った時に受付嬢から渡されたものを早朝に確認していたのだという。



「あいつは早起きなんだ。深夜に寝ても日の出と共に起きる」


「それ、眠くないんですかね?」


「本人は眠たいとは感じていないらしい。俺は朝が弱い人間なので、早朝に騒がれるのは困る」



 朝は弱い人間なので自分のペースで起きないと気分が悪くなるし、眠さを異常に感じてしまうのだと、アルタイルは教えてくれた。


 フランは遅くまで起きていられないタイプで、すぐに寝てしまうので朝は早く起きられる。


(アルタイルさんは朝、弱いタイプなのかぁ)


 しゃきっとしているイメージがあったので意外だった。フランはそうとは口に出さずに「大丈夫ですか?」と、眠たそうにしているアルタイルに問う。


 暫し、瞬きをしてからアルタイルはゆっくりと目を細めて瞼を閉じた。



「眠い」


「でしょうね」



 二度寝ができないと言っていたので暫くは仮眠もとれないはずだ。それはきついのではとフランが心配していれば、アルタイルは「もう少しすれば問題ない」と察したように言う。



「朝食を食べているうちに目覚める」


「そうなんですか?」


「俺はそうだな」



 食事をしていくうちに目が覚めてくるのだと、アルタイルはメニュー表を手に取った。フランもそろそろ朝食を取ろうと思っていたので、ついでに頼むことにする。


 料理を頼んだのでフランは汚さないように魔物の資料を片付けて、受付嬢に返してからまた席に戻ればアルタイルがうつらうつらと眠りそうになっていた。


(自分のペースで起きるのは問題ないけど、起こされるのは苦手ってことかな)


 叩き起こされていい気がする人間はそう多くない。自分でも早朝に奇声で目覚めたくはないなと思ってしまう。


 フランは眠そうにするアルタイルの頭を撫でた。眠そうにしている彼をあやすように。


 よしよしと撫でているとアルタイルの目がゆっくりと開いていく。それから数度、瞬きをして口元を両手で覆う。これは見たことがある反応だ、フランは撫でるのを止めた。



「何故、やめる」


「不意打ちだったのかなと」


「それはその通りだ。不意打ちをくらって目覚めた」


「目覚めたならもういいのでは」


「それとこれとは話が違う」



 不意打ちを受けて目覚めはしたが、だからといって撫でるのを拒んだわけではない。真顔で言ってくるアルタイルにフランは「そんな、真剣に言われましても」と、思わず突っ込んでしまった。


 撫でるぐらいならいつでもできるのでは。なんて言葉にすれば、アルタイルは嬉しそうな、けれど悩ましげな顔をしてみせた。どっちなんだろうか、この反応はなどと、フランは不思議そうにする。



「目が覚めたが、しかし……もう少し……」


「悩むのはいいですけど、料理がきましたよ」



 それはもう凄い顔で悩んでいるものだから店員の女性が若干、引いていた。それでも笑みを作って料理をテーブルに並べる。仕事中はしっかりしているなと、その様子にフランは感心してしまった。


 運ばれていたハムエッグをフランが食べれば、アルタイルも自分が注文したエッグトーストを切り分けていく。一応は結論がでたようでいつもの表情に戻っていた。



「目はしっかり覚めました?」


「あぁ。カルロに関して苛立っていたが、今は大丈夫だ」



 あれにはもう慣れるしかないから、いつまでも苛立っていては疲れるだけだ。アルタイルは「フランと朝食を食べられたのでもういい」と、そうやって納得することにしたらしい。


 それでいいのかという突っ込みをフランはしない。アルタイルのこういった反応にはもうすっかりと慣れてしまったからだ。彼が諦めたカルロの扱いと同じように。


(いつもお世話になっているし)


 自分と一緒にいることで癒しになったり、楽しいと思ってくれるならばいいか。フランはもぐもぐと料理を食べながら、アルタイルの話に耳を傾けることにした。



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