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第80話 武器のせいにする冒険者


 フランはおわぁと呆けた声を出してしまった。目の前では冒険者の少年とゴロウが言い争っていたのだが、その光景がおかしかったのだ。


 工房の入り口前で冒険者の少年はゴロウに押さえつけられて地面に伏している。と、いうのに文句ばかり口に出しているのだ。降参なんてしないぞといったふうに。


 それに負けじとゴロウが叱っているのだが、全く相手には通じていない。冒険者の少年のパーティメンバーだろう白い魔導士服に身を包む少女は、どうしたらいいのかと困惑した表情を浮かべていた。



「なんだこれは」


「わからないっす……呼びに行く前まではこんな状況じゃなかったんで……」



 ヤジェですらこの状況が分からないようだ。それでもこのままでは話が進まないので、彼は「師匠」と声をかける。


 二度目ぐらいの声かけでやっと二人はアルタイルたちに気づいたようだ。言い合いを止めて、ゴロウが「良い所に来た」と押さえつけていた手を離し、少年の首根を掴んでアルタイルの前に差し出す。



「このバカに言ってやってくれ、ハンター」


「まず、何があったか教えてくれないか、ゴロウ殿」



 現状が理解できていないと意見も言えない。アルタイルの返事にそれもそうかとゴロウは少年を指差した。



「このバカは自分の実力がねぇくせに、武器のせいにしやがったんだよ」



 少年はとある依頼でエアウルフと遭遇した。エアウルフを倒すことはできたらしいが、そのリーダーである大型種に反撃されてしまい、剣が刃こぼれしてしまう。


 武器はこの鍛冶屋で購入したもので不良品をつかまされたと文句を言いにやってきのだという。


 刃こぼれした剣を見たゴロウは「荒い使い方をしたな」と呟いたのだが、それが火種になったようで少年と言い争いになったということだった。



「刃こぼれっつっても大したもんじゃあねぇ。打ち直せばまた使えるようになる。でも、こいつはその刃こぼれのせいで倒せなかったんだって言いやがったんだよ」



 ほらと少年が持ってきた剣をゴロウはアルタイルに見せた。一緒にフランも確認してみるが、確かに少しだけ刃こぼれしている。


 けれど、そこまで酷いものではなく、ほんのちょこっとといったぐらいだ。


 倒せなかったせいにできるほどではないとフランは思った。アルタイルはなるほどと頷いてから少年へと目を向ける。


 彼はむすっとした表情をしており、まだ納得していないようだ。パーティメンバーである少女に落ち着くようにと注意されていた。



「お前たちのランクは?」


「この前、Cランクに上がったばかりで……」


「新米を脱したぐらいか」



 冒険者はDランクから始まり、新米を脱したと認められるのはCランクからだ。ランクというのはそう簡単に上がるものではないので、一つ上がるだけでも冒険者としては喜ばしい。


 新米を脱したばかりだとやっと冒険者として認められたと思う若手は多かった。それにゆえに少々、自分の実力を見誤る者も出てくる。



「この刃こぼれはエアウルフの噛みつきを防いだ時にできたのだろう。恐らく弾き返す時に力が入り過ぎたせいだ」



 剣に力を入れるのではなく、相手の動きを利用すればこうはならない。アルタイルは冷静に「これは剣のせいではない」と伝えた。はっきりと、分かりやすく。


 ハンターであるアルタイルに言われて、少年は何か言い返そうにもできないようだ。それでも態度で納得していないのは分かる。


 それがまたゴロウの怒りに火をつけるのだが、ヤジェが押さえて落ち着かせていた。


 どう説明すれば納得してもらえるのか。アルタイルが思案している姿にフランも一緒に考えてみる。


 実際に関係ないと使ってみせればいいのだろうかと思いつくが、それは手間ではあるよなとフランは腕を組んだ。



「あの、ハンターさんはこの剣で戦えたりするんすかね?」



 ヤジェが遠慮げに問う。アルタイルは剣を太陽の陽ざしに翳してから一度、振った。



「武器に刃こぼれ以外の問題はないから戦える。この刃こぼれも許容範囲内だ」


「なら、この場で見せてもらうってことできます?」



 ヤジェは言う、試し切りなどで使用するダミーがあると。この鍛冶屋では打った武器の調整などをするためにダミーが用意されている。


 それは専属の魔導士が動かしているため、彼女に任せれば実践と変わらない動きができるだろうと説明した。



「実際に見てもらえば納得すんじゃないかって思うんすよ。でも、このためだけにわざわざ、ハンターさんに魔物を探してもらうのは申し訳ないんで……」


「それは……まぁ、できなくはない。だが、それで彼は納得するのか?」


「納得しねぇってか? そんなら、こいつも同じことをやればいい。実際に自分自身でもやりゃぁ、納得するだろ」



 違うかとゴロウに問われて、少年は「まぁ、それなら」と頷いた。一先ずは体験してみて考えるといったふうに。


 フランはこれで納得してくれるのだろうかと少しだけ不安を抱く。少年自身の態度を見るとどうしても。けれど、実際にやってみないとことにはわからない。


(まぁ、意外とどうにかなるかもしれないし、大丈夫かな)


 アルタイルの腕は確かだしと、フランはポジティブに考えながらヤジェたちに着いていった。



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