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第78話 保護者枠に入れられてしまった!


 ギルドのテーブル席にフランは突っ伏した。疲れがどっと押し寄せてきてもう暫くは休みたいと深い溜息を吐き出す。



「酷い……」


「最後の最後で不運だったな、フランちゃん」


「私ばかり狙ってくる……。で、でも! 私一人で二頭は倒しましたし!」



 追いかけ回されたけれど、自分でもちゃんとできましたもんとフランはポジティブに考える。今回もちゃんとアルタイルのサポートはできたのだから、ネガティブになる必要はないのだというように。


 フランの様子に「フランちゃんも成長したなぁ」とハムレットが呟く、しみじみと。アルタイルは疲れているフランのためにフルーツの盛り合わせを頼んでいる。


 運ばれてきたフルーツの盛り合わせをフランはありがたくいただく。もう果実の甘味と酸味で癒されないとやっていけないといったふうにもぐもぐと食べる。



「二日ほど、休もう。流石に働き過ぎだ」


「二人はもっと休んでいいぞ。ギルド長も怒ったりしねぇよ」



 前も言ったけどよとハムレットは果実水を飲む。働きすぎもよくないと注意されて、その通りとフランも頷いた。アルタイルも同意していて、「申し訳なかった」と謝っている。



「俺は割と平気だが、フランはそうではない。もう少し早く気づくべきだった」


「大丈夫ですよ。気にしてません! 気にしてませんけど、あの、カルロさんはあのままでいいんですかね?」



 フランはそう言って隣を指差す。そこには正座をしながらミリヤに叱られているカルロがいた。頬と腕の手当てを最後まで渋ったことで、ミリヤに怒られてしまったのだ。


 小さな怪我も後に響くことになる可能性がある。病気にだってなるかもしれないのだからとそれはもう長々と説教されていた。手当てを施されたカルロは「ごめんなさい」と謝るしかない。



「あれは叱られたほうがいい」


「実際に酷い怪我しても放置してたしな」



 あれは他の冒険者たちにとっても悪い見本だとハムレットは指摘する。ハンターは他の冒険者にとって憧れの存在だったりするのだ。そんな相手が無茶をしても放置しているなど、真似する冒険者が現れてはよくない。


 怪我をしたら大なり小なりちゃんと手当てをするべきなのだ。言っても聞かないならば、しっかりと叱られて反省させたほうがいい。アルタイルの意見にハムレットもうんうんと同意する。



「アルアルー、ハムちゃん助けてえー、ぼくちんもう分かったよぉ」


「もう少ししっかり怒られてろ」


「いやだー!」



 うわーんとカルロがハムレットの後ろに隠れれば、ミリヤが「まだ話は終わってませんよ!」と、怖い顔を向けてくる。フランは「ミリヤさんって心配症なんですか?」と気になったことを聞いてみた。


 いくら助けてもらったとはいえ、怪我の事をここまで叱るとなると心配症なのではないか。そう感じたからなのだが、ミリヤは「これは家系かもですね」と答えた。



「あたし、医者家系なんです。怪我や病気に関しては両親から厳しく教えられてきたので。怪我や病気を軽く見ている人が放っておけなくて……」


「あぁ、なるほど」


「だからって、もういいよぉ。ぼくちん、ちゃんと理解した!」



 怪我を放置はしませんとカルロはしょぼしょぼと諦めたように言う。流石の彼もミリヤの厳しいお叱りには耐え切れなかったようだ。


 犬ならば耳を下げて尻尾を丸めているだろう。そんなカルロの様子にミリヤはわかったならばと叱るのを止めた。鞄から小さな救急箱を取り出してから彼に差し出す。



「この中に入っている薬などなら、軽い傷ならば手当てができます。カルロさんは小さな傷が多いのでこれで十分かなと。ちゃんと手当てしてくださいね?」


「はぁい」



 カルロは小さな救急箱を受け取って腰に付けているポーチに仕舞った。ハムレットはその姿に「毎回、こうやってちゃんと従ってくれればなぁ」と呟く。



「とりあえず、お礼はできました。カルロさんの保護者のみなさん、ありがとうございます」


「いっそのこと、ミリヤちゃんも保護者にならない?」


「それは……えっと……」



 ミリヤは手を合わせながら視線を逸らす。カルロの戦い方というのにはやはりまだ恐怖心があるようだ。あれを止められる自信はないと言いたげな顔をしている。


 ミリヤの言いたいことはわかるので、ハムレットもアルタイルも強くは勧められなかった。大人の駄々こねも面倒だからなと。



「まぁ、ミリヤちゃん。また何かあったらいつでもこいつ使っていいからね」


「え? でもハンターさんですから……」


「大丈夫、大丈夫」



 こいつは細かいこと気にしないからな。ハムレットの言葉にミリヤがでもとカルロを見遣れば、彼は何がと不思議そうにしていた。


 困っているなら助けるよと、なんでもないように言うカルロにミリヤは、それならいいのかなと一応、納得したようだ。



「保護者が一人増えてくれればこっち助かるし」


「ハムレットさん、それが本当の目的では……」


「フランちゃんも保護者枠だからな」


「私には止められませんって!」



 フランの突っ込みにハムレットは笑うだけだ。アルタイルを見れば、彼はなんとも言えない表情をしている。


 これは私も保護者枠に入れられていると察することができた。これはもうだめだな。フランはそう悟って諦めた。


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