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第77話 最後の最後で運がない!


 平地をボアが駆け回り、それをエアウルフが追いかけて、カルロがナイフを振るっている。それほど時間は経っていないはずだというのに、すでに何匹か倒されていた。それもまぁ、無残に。


 相変わらずだなとその光景を眺めれば、アルタイルが黙って太刀を抜いたので、フランも武器を構えながらミリヤを探した。


 ミリヤは少し離れた木々の後ろに隠れて様子を窺っていた。戦いの邪魔になるのを避けるためのようだ。



「ミリヤちゃんはおれに任せておいてくれ。ハンターはカルロを頼む」


「そこは魔物なんじゃないですか!」


「そこは心配してないからなー」



 カルロのテンション上がり過ぎてどっかに行かないか、それだけが心配だよ。ハムレットはそれだけ言ってからミリヤの元へと走っていった。


(確かにハンター二人だから魔物のことは大丈夫か)


 カルロのほうを見遣れば飛び掛かってきたエアウルフを蹴り上げていた。返り血など気にするでもなくナイフを巧みに操っている。逃げまどうボアーとエアウルフの様子に狩りつくされるのも時間の問題だ。


(テンション高いまま何処かに行くのは避けたいよなぁ)


 フランはアルタイルたちの疲労を考えて自分も気を付けていこうとロッドを構え直した。魔力を練り上げながら、アルタイルの行動を確認する。


 アルタイルはエアウルフをカルロに任せてボアーを狩っていた。突進してくるボアーたちを避けながら一匹ずつ確実に倒していっている。


(突進が厄介だから……よし)


 フランは練り上げた魔力をロッドに籠めて地面を打ち鳴らす。ボアーたちの足元から太い蔓が伸びて巻きついた。足を取られたボアーは勢いよく地面に転がってじたばたともがく。


 太い蔓はぎちぎちとボアーの足を締め付けていて離れることはない。アルタイルは動きを封じられたボアーに向かって太刀を大きく振るう。


 雷撃の一閃が拘束されたボアーたちを襲った。肉の焦げる鼻につく臭いが風に乗ってくる。全身を駆け巡った電流によってボアーたちは息を引き取った。


 一撃で倒せるのを見てフランはハンターとなると下級魔物は一瞬なのだなと、改めて実感してしまう。これは心配することはないよなと。


 どんどん狩られていくボアーとエアウルフにこれならすぐに終わるな。そうフランが安心していた時だった。



「アオーーンっ」



 犬の遠吠えが周囲に響く。その声に反応したエアウルフたちの動きが変わった。統率の取れていなかったエアウルフたちが集まって陣形を作り出す。


 何が起こっているのか。フランが遠吠えのしたほうを見遣れば、そこには一匹の魔物がいた。牛よりも遥かに大きいエアウルフと同じ姿をした、毛足の長い狼の魔物がゆっくりと歩いてくる。


 あれはエアウルフたちのリーダーだろうか。それにしても他の仲間よりも大きいような気がする。フランは目線を逸らすことなく。少し距離を取った。



「エアウルフのリーダーか」


「大物じゃーん!」



 エアウルフのリーダーには個体差があるらしく、今回のは大物に分類されるようだ。フランは勉強したことを思い出す。


(えっと、リーダーは他のエアウルフと違って噛む力が強いんだっけ。あと足が速い)


 噛む力は身体が大きければ大きいほど威力が上がる。足が速く持久力があるので長期戦は避けるべきだ。フランは「サポートに全振りしよう」と魔力を練り始める。


 いつでも魔法を打てるように、エアウルフとアルタイルたちの動きを観察する。エアウルフはリーダーが現れたことで統率が取れるようになって、その素早さで惑わせてきた。



「さいっこうに楽しくなってきたぁっ!」



 けれど、そんな状況もハンターの前では通用しない。カルロのテンションがさらに上がっている。「ぼくちんはこっちやるから、リーダーは任せた!」と、アルタイルにリーダーを丸投げした。


 元々こうなるのを予想していたらしく、アルタイルはリーダーに太刀を向けている。噛みついてくるリーダーを太刀でいなし、蹴り上げる。


 宙を一回転してリーダーは着地すると、その勢いのままに走ってきた。刃が牙を弾き、巨体で体当たりされて、避ける。隙を見せれば怪我ではすまない攻防に、フランは魔法を打つタイミングを見計らう。


(行動はワンパターンだから……)


 リーダーの動きは一定している。噛みつきから体当たりをし、一歩後ろに下がって飛び掛かるを繰り返していた。この行動の何処かに隙を作れば一気に倒せるはずだ。


(一歩後ろに下がって飛び上がる瞬間だ、狙うなら)


 フランはじっとリーダーの動きを注視する。リーダーがアルタイルへと噛みつこうとし、跳ね返えされた。そのままの勢いで体当たりをし、避けられてしまう――一歩、下がった。


(今だっ!)


 フランはロッドを地面に叩きつける。瞬間、棘の蔓がリーダーの足に絡みつく。さらにフランは素早く魔力を練ってロッドを思いっきり振るった。ぶおんっと竜巻が吹き抜けて、リーダーを渦に閉じ込める。


 息ができず、逃げることもできない状況でエアウルフが苦しむ中、竜巻が切り裂かれた。しゅんっと風が止んで、宙を首が飛ぶ。アルタイルがゆっくりと太刀を鞘に納めたと同じくぼとりと首が落ちた。



「はい、おわりー!」



 ぽんっとエアウルフが地面に転がって、その場には生きたエアウルフはいなくなった。


 カルロは「楽しかった!」と、嬉しそうに声を上げて、鼻歌を歌い始める。楽しそうにしながら何処かへ行こうとするのをアルタイルが首根を掴んで止めた。



「血塗れでうろつくな」


「えー、今すっごく気分が良いのにぃ」


「自重しろ」



 カルロは返り血でいろいろと酷いことになっている。この姿で歩いていては不審者として通報されかねない。それでも、不満げにしている彼をフランも「落ち着きましょう」と止める。



「カルロさん!」


「あ、みーちゃん」



 ミリヤが駆け寄ってきたかとおもうとカルロの頬と腕を確認した。その素早い動きにカルロは反応できずに目を瞬かせている。



「頬に引っ搔き傷、腕に噛み傷! 放置は駄目です!」



 魔物の攻撃で受けた傷は悪化しやすいのだからとミリヤが鞄から薬などを取り出す。カルロは「これぐらい平気なんだよぉ」と、手当てを拒絶するも彼女に腕をがっしりと掴まれてしまった。



「平気なわけがないやろがいっ!」


「うっわ、ミリヤちゃんの口調が変わった!」



 弱気だったミリヤの豹変ぶりにハムレットが突っ込む。フランも驚いて凝視してしまうが、彼女はそんなこと気にしている様子もない。とにかく、手当てをさせてくださいと退く気を見せなかった。


 その勢いと圧には流石のカルロも負けたようで、「わかったよ」と諦めた。テンションすらも落ち着かせることに成功している。



「あの、手当てはギルドに帰ってからでも……」


「そのことだが、一つ忘れていないか」


「え?」



 アルタイルの言葉に皆が彼を見る。何か忘れていることなどあっただろうか。フランが首を傾げれば、彼はすっと指を指した。



「まだ、ボアーが残っている」


「あ……って、ぬわぁああ!」



 あっとフランが振り返ると同時にボアーが突進してきて、慌てて飛び避ける。ボアーはエアウルフが居なくなったことでフランたちを敵だと認識したようだ。ふごふごと鼻息を荒くしながら突進してくる。



「ぬわぁああん、私ばかり追いかけてこないでくださいぃぃ」



 フランはボアーに追いかけ回されながらも、頑張って二頭のボアーを自力で狩ることに成功した。なお、残りはアルタイルとカルロがちゃんと仕留めたという。



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