カルロはどうしたのと小首を傾げながらフランたちを見つめている。なんとも機嫌良さげにしているものだから、ハムレットが「お前のことだよ」と言い返す。
はてと顎に手を当てながらまた首を傾げるカルロに、アルタイルが深い溜息を吐いて説明してやれば、あぁと思い出したようにミリヤを見遣る。
「みーちゃん、お礼なんて要らないのにぃ」
「それはできません!」
ハンターにタダ働きなんてさせられませんとミリヤが言えば、カルロは「そっかぁ」と分かっているのか判断できない返事を返していた。
本当に何も要らなかったようでお礼ってなんだろうといったふうな顔をカルロはしている。思いつかないといったように。
「全く浮かばないなぁ。お礼でしょー?」
「カルロ。一応。言っておくが彼女は狩りには連れていけない」
戦闘に慣れていない冒険者なのだからとアルタイルに指摘されて、カルロはわかっているよとミリヤを指差した。
「みーちゃんは魔物討伐専門の冒険者じゃないんだってことぐらいはー」
だから、お礼に狩りに付き合ってもらうのを止めたんだよ。カルロの返答に一応は彼女のことを考えて自重したのだと知る。
ハムレットとアルタイルが意外だといった顔を向ければ、カルロは「その顔は何さー」とぷくっと頬を膨らませた。ぼくだって自重はできるんだぞと主張する。
「それをおれらの時にもしてくれね?」
「ハムちゃんとアルアルは戦えるからだめー」
戦える二人には付き合ってもらうのだとカルロが楽しげに話せば、ミリヤは申し訳なさげにしながらも、自分にできることとして薬の入った小さな救急箱を差し出した。ちゃんと怪我の手当てをしてくださいという想いを籠めて。
「かすり傷ぐらいだから大丈夫なんだけどなぁ」
「だめです!」
「えー。平気だよぉ」
カルロはそう言うがミリヤは引かない。その態度に仕方ないなといったふうにカルロは小さな救急箱を受け取ろうとして、「冒険者のみなさーん」と声をかけられた。
なんだろうかと振り向けば、赤毛の受付嬢が依頼書を片手にギルドにいる冒険者へ向けて説明を始めた。
「先ほど、山からボアーの群れとそれを追っていたエアウルフの群れが下りてきたようです。群れの数が多いため、数人の魔物討伐専門の冒険者さんに依頼したいのですが誰かいませんか?」
ギルドにいた冒険者たちはどうするかといったふうにパーティで相談し始めているのを見て、あっとフランはカルロへ目を向けた。それはハムレットとアルタイルもだ。
「群れ!」
予想通り、カルロの目が輝いていた。こうなると彼は狩りをするモードになってしまう。それはまだ短い付き合いではあるがフランでも分かった。ミリヤはカルロのテンションの上がり具合に驚いている。
「群れだよ、群れ!」
「こら、落ち着けって」
「いっぱい、狩れるんだよ!」
これが落ち着けるわけがないじゃんとカルロは興奮している。ハムレットが止めるが、聞く耳を持たない。
「はいはーい! ぼくちん、参加しまーす!」
「はい、カルロさんどうぞ」
「おいって……あー……」
カルロは返事を待たずに受付嬢から依頼書を受け取ってギルドを走って出て行った。その流れるような速さにハムレットはあちゃ~とこめかみを押さえ、アルタイルはそれはもう深い溜息を吐く。
「カルロさんが参加するということなので、フォローをお願いできますか。アルタイルさん、ハムレットさん」
「そうくるだろうと思った」
受付嬢はカルロが群れを狩る時にテンションが上がり過ぎて暴走することを知っている。それを押さえることができるのは長い付き合いであるハムレットとアルタイルだけだ。
アルタイルは受付嬢の圧に断れないと悟って仕方ないなと立ち上がれば、ミリヤが「あの」と問う。
「もしかして、あの状態のカルロさんって余計に怪我とか……」
「気にしないな」
「気にしないどころかテンション上がり過ぎて怪我とかどうでもよくなるぞ」
「ちょっと、そ、それは良くないですよ!」
ミリヤはそう言ったかと思うと慌ててカルロを追いかけていく。なんでというハムレットの突っ込みは聞こえていないだろう。フランは二人の行動の早さにほへーっと呆けた声を出してしまった。
「ミリヤちゃんってこういうのが放っておけないタイプなんかな」
「恐らく……」
「仕方ないな……」
アルタイルは二人を追いかけようと受付嬢に場所を聞けば、「カルロさんにはここを任せました」と、しっかりと位置が分かるようになっていた。
群れということでカルロが受けることを予測していたということがそれだけで理解できる。アルタイルが文句を口に出すよりも先に受付嬢は、他の冒険者に「貴方たちはこの区画を――」と離れていってしまう。
アルタイルが何度目かの溜息を吐いたのを見て、フランは「終わったらゆっくりしましょう」と励ますことしかできなかった。